氷の世界

この世界のこと

「え…ここ…どこ?」


 目の前に広がる景色は氷と水と空しかない世界。

良く言えば、神秘的な景色が広がっている。

 ひょうはさっきまで旅行先の雪山で凍死しかけていたところだ。それなのに気づいたらこんなところに。

 …もしかして…ここは天国…?


「ねえ」


 背後から突然声をかけられ、ビクッと反応しながら振り返る。

 そこには、キャミソール型の白いワンピースを着た女の子が、大きい氷岩のてっぺんにいた。氷だらけの景色にはとても似合わない格好だ。


「君いつ来たの?久しぶりだなぁ、人間」


 女の子が柔らかい笑顔で聞いてくる。雰囲気的には、かなり上品な子だ。


「いつって…さっき?気づいたらこんなとこに…。ここどこ?君だれ?オレなんでこんなとこに…?あと、母さん達は?それから…」


「待って待って。そんな一気に質問しないでよ。ちゃんと答えるから、一つずつ聞いて?」


 確かに、今のは焦りすぎたな。まずは一番聞きたいことを聞こう。


「じゃあ、ここ…どこ?」


「うん、ここはね『Alice in ice』。夢の世界だよ」


 ありすいんあいす…?ん?あいすいんあいす…?

 氷はまだ小五。親が高校で国語の先生をしてるから難しい日本語は結構分かるがこんな言葉は知らない。

 すると、女の子は氷の考えを読んだかのように補足した。


「あー…君には英語わからないかな?『Alice in ice』、意味は『氷の中のアリス』」


 へー…英語かー。氷は勉強はできるが、英語だけは苦手だった。そもそも氷は外国に行く気なんてないし英語なんてできなくても全然…。…まぁ、今はそれより次に聞きたいことを聞こう。


「それで?なんでオレはこんなところにいるの?オレ、さっきまで雪山で死にかけてたんだよ?」


「…私が思うに、ここは魂の冷凍庫。寒さで死にかけた子供の魂が、ここで冷凍保存されて、身体が無事に解凍されたら魂も解凍されてここから出ていくの。…まぁでも、私はここから出れないから本当のことは知らないんだけどね」


 質問の答えにはなっていないが、魂の冷凍庫か…。いい例えだな。

 それが本当なら凍死しかけた氷がここにいるのは納得がいける。

 帰れるまでこの世界を満喫しよう…と思ったが、生憎氷はそんなオカルティックなことは信じない。


「ていうか君さ、その暑そうな服脱ぎなよ」


 氷の服は、さっきまで雪山にいたこともありスキーウェアだ。正直動きずらい。だが、こんな場所でウェアを脱いだら寒いに決まっている。

 …ん?つまりあの子は寒くないのか?

 そういえば、ウェアを着ていても雪山は寒かった。しかし、今は特別寒いも暑いもない。

 なら、脱いでみよう。この下はパーカーを着ているし、動きやすいに越したことは無い。

 試しにウェアの上だけを脱いでみる。

 …うん、寒くない。


「ここはね、寒いも暑いも無いんだよ。それに食欲や眠気も病気も無い。超つまんない世界だよ」


 そう言い、女の子は氷岩から飛び降りる。それから綺麗に着地し、続けた。


「でもね、ここは夢の世界だから、頭の中で思えば出来ることは多少あるんだよ。例えば、洋服を変えたければ…」


 女の子はいきなり目をつぶった。すると次の瞬間、いきなり洋服が変わる。

 白いワンピースから花柄のワンピースへ。形は大して変わらない。


「ほら、君もやってみな。目をつぶって、着たいものを想像するの」


 そう言われるがままに、氷は目をつぶる。本当に変わるのだろうか、なんて考えながら服を想像すると、すかさず女の子が感嘆の声をあげた。


「わぁ!すごい!できるんだ!今までここに来た子供達は1人も出来なかったのに、君すごいね!」


 …ということは、成功したのか?手応えは全くなかったけど。

 そう思いながら目を開けると、本当にさっきまでの服とは違っていた。

 白のパーカーにウェアの下を着た姿から黒のロンTにジーパン姿に変わっていた。これは、昨日氷が着ていた服だ。


 ついでにだが、同じように頭の中でいちごのかき氷を想像すると、目の前にいちごのかき氷が落ちていた。

 ここは随分便利な世界のようだ。

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