第10章:交渉

彼が運ばれた部屋ではあの暖房器具が稼動していた。

服を脱がされると遅れて入ってきたマリアが触診を始める。

案の定、腰の右側と右ひざが赤く腫れ上がっている。


「痛い痛い痛い痛い!やめろ!」

「どのくらい痛いですか?痛みの程度も重要ですから」

「知るか!とにかく痛いんだ!」

「我慢してください。本当に折れてるか触って確かめないと」


患部を押したり曲げたりする度に激痛が走り、この女は俺を殺そうとしていると彼は思い始めた。


「肩を撃たれた時は気を失ってたから幸せでしたね。うーん……これは折れてるわけじゃなく亀裂だけで済んでるかも。レントゲンがないから確かめようがないんですけど」

「どうするんだ?」

「今はとにかく冷やします」


マリアが水に浸けた白い布を絞って肌に当てると冷やりとした感触があった。

少しだけ患部の痛みが和らぐ。


「本当は氷で冷やすんですけどね。秋の水もけっこう冷たいですからそれに期待しましょう。腫れが引かないようなら骨折して破片が刺さってます。その場合は切開するしかありません」

「なあ、痛み止めをくれないか??俺が持ってきたやつがそうなんだろ?」

「やめたほうがいいです。痛み止めは傷を治すわけじゃなくて痛みを誤魔化すだけです。症状が悪化してもわからなくなるので、今は痛みの変化を自分でしっかり見てください。他に痛い場所はありませんか?落ちたときに頭は打ってません?」


マリアはあちこちを触り、怪我をしてないか確かめる。


「他は大丈夫だ。たぶん」

「屋根を飛び渡るなんて身軽なんですね。でも、治ったばかりでそんな無茶を……」

「おいおい、無茶をして薬を取ってこいと言ったのは誰だ?」


その言葉でマリアは少し黙った。


「……私は取りに行けなんて言ってません」

「薬の容器と病院の場所を教えて、お前は間違いなく俺が薬を取りに行くことを期待してた。そうだろう?」

「いえ、いつか機会があればと思っただけで……」

「あれだけ亡者が集まってる病院に機会なんてあるか。本当に俺の身を心配をしてくれる人間ならあの病院のことを教えたりしない。自殺と同じだからな」

「でも、私はあなたを治療して……」

「そこは医者の倫理観ってやつかもな。だが、俺がここにいた時に待遇を良くするように頼んだのはキョウコだと聞いた。お前は頼んでいない。俺の治療こそしたが、お前は俺に生き延びてほしいとは思ってなかっただろう?俺が薬を取りに行くと言い出して、こんな男でも運がよければとか思い始めたな」

「……ははは」


マリアは笑った。


「朝に食料を渡したのも薬を取って来てほしいって催促だろう?」

「ええ、そうですよ」


彼女は悪びれもせずに言った。


「そうでなかったらリーダーも貴方に食料なんて渡しませんよ。出発した時に忙しくて見送れなかったのも嘘です。そのほうが健気で可哀想な医者と思われるかなって」

「そうか」

「でも、貴方は本当に薬を取ってきてくれました。それには心から感謝してます。どうやったんです?キョウコさんとサクラコさんでも無理だと言ってたのに」

「それを教えると思うか?」


死んでも教えるものかと彼は思った。


「もちろんタダでとは言いません。私を好きにしていいですよ」

「この状態で俺は何ができるんだよ。安静にしてなくていいのか?」

「ああ、もちろん治ってからですよ」


マリアは患部の布から手を離すと服を脱ぎ始めた。

少し痩せ気味だが十分に魅力的な体型だった。

ただし、胸と腹に何箇所か火傷の痕があった。


「ちょっと傷はついてますけど、駄目ですか?」

「駄目だ。なあ、先に俺が持ってきた薬の話をしよう。俺は銃がほしいんだ。あの薬じゃ足りないのか?」


彼は色気に惑わされて病院を叩き売りする気はなかった。


「あれだけで銃は渡せません……。あなたが持ってきたのは用途が限られてて、私は鎮痛剤や抗生物質がほしかったんです。ああもう……こんなことなら最初から教えておけばよかった……」


彼女は下着姿のまま自分の額を押さえた。


「一つでも取ってきたら儲けものくらいにしか思わなくて……」

「欲しい薬と量を言ってくれ。怪我が治ったら取りに行く。それで取引すればいいだろ?」

「それだと薬が手に入るのはずっと後になります。今、教えてください。サクラコさんたちが薬を取りに行きますから」

「駄目だ」

「お願いします!」


マリアは深く頭を下げた。

そろそろ泣き落としに出ると思ったので彼は驚かない。


「銃は必ず渡します。治るまで食事も一番良いものを出しますし、私も何でもします。病院の薬を手に入れる方法を教えてください」


重病の患者でもいるのだろうか。

彼はそれを聞こうと思ったが、泣き落としに効果があると思われたくないのでやめた。しかし、彼女は自分から窮状を話し始めた。


「病気の赤ん坊がいるんです……。泣き声が聞こえないからここにはいないと思いました?」

「いいや」


妊婦を助けるグループなら必然的にいるだろうと彼は思っていた。声が聞こえないのは窓に暗幕を張るのと同様に亡者対策だろう。


「音が漏れない部屋で看病してるんです。今まで看た子は10人で、そのうち5人はもう死にました。死んだ妊婦は3人。助からないから安楽死させたこともあります。ただでさえ栄養が足りないし、まともな設備もないんです。貴方が薬の取り方を教えてくれたら大勢の命が助かるかもしれないんです。教えてくれませんか?」

「嫌だ。子供を人質にするのはやめろ」


彼は断固拒否した。

ここで泣き落としに負けたら何もかも終わりだと思った。彼女たちから感謝はされるだろう。マリアが体を好きにしていいというのもおそらく本当だ。銃の一つや二つももらえるかもしれない。だが、それで終わりだ。病院の薬全てと引き換えに得られるはずだった見返りの大部分は間違いなく反故にされる。


「子供が死にそうなんですよ?」

「それは運が悪いだけだ。俺のせいじゃない」

「なんでそんなことを……あなたもあのゴミどもと同じなんですか?奪って食べて犯せたらそれでいいんですか?」


マリアは罵ったが、彼はそれをどうこう言うつもりはない。

ただ、その表情が危険なものに近づいていることには警戒した。


「それなら私がしてあげますから。それでいいでしょう?これでも男が喜ぶやり方ならたくさん知ってます。2年くらい前に拉致されてから数えるのも馬鹿らしいくらいのゴミどもに毎日教えられましたから。私もお腹が大きくなって捨てられた人達の一人だったんです。リーダーたちに拾われたあとで子供も産みました。死産だったから今はここの校庭に埋まってます。あはは……」


彼女は楽しそうに話す。

あの笑い方は危険信号だと彼はわかっているが逃げることはできない。気を静めるための言葉もわからない。どういうわけかこの部屋には彼女しかおらず、いっそ大声で助けを呼ぼうかと思った。


「正直に言うと私はあの子が死産でほっとしてます。母親は自分が産んだ子を必ず慈しむなんて思う人もいますけど、私はそんな聖母にはなれません」

「なあ、少し落ち着いてくれ」

「落ち着いてますよ?私の子はすぐに死んでくれたんですけど、死なない子もいるんです。その子をさくっと殺せたらいいんですけど、産んだ母親も私もそこまで非情になれないんです。苦しそうに泣くから助けたいと思ってしまうんです。だから薬が必要なんです。長々と話しましたけど、これで少しは同情してくれました?もしそうなら薬の取り方を教えてください」


「それを断ったら俺はどうなるんだ?」

「どうなるか?そうですね……」


マリアはにたにたと笑っている。


「赤ん坊を救うためにあなたをちょっと傷つけるくらい許されるのかも」


彼女の手が下半身を冷やす布に伸びた。

そこに少し力が加わる。

まだ悲鳴を上げるほどではないが、懇願がついに拷問に変わってきたことで彼は覚悟を決める必要があった。


「アイたちは許可してるのか?」

「きっとわかってくれます。貴方は赤ん坊が死にそうになってても何も感じない人ですから。どうしたらそんな風になるんですか?貴方には愛情を注いでくれた人がいなかったんですか?」


ああ、いなかった。

彼はそう言いたかった。

神々による信託儀式で結婚や出産、命名が決定される世界で親子や兄弟の情愛はそこまで強くない。この世界の人間もそうだと思っていたが、想像以上に冷酷な人間がいる一方で家族を大事にし、彼らを傷つけられると徹底的に復讐する人間もいる。

神々と話せない人間の世界とは不思議なものだ。


マリアの圧迫が強くなった。


「つううううっ!」

「マリア、そこまでにしなさい!」


ドアが勢いよく開いてアイとコマリが入ってきた。


「リーダー……」

「それ以上やったらルール違反。わかってるでしょ?」

「マリアちゃん、ルールとリーダーの命令は絶対だよー」

「どうして……私に任せてくれるって言いましたよね?」

「あんた、テヅカが薬を持ってきた時からやばい顔になってたよ。自分で気づかないなら重症だね」


アイはため息をつくとマリアに服を着させた。

代わりにコマリが布を代えて彼の患部を冷やし、漫画雑誌やテープで足を固定するためのギプスを作り始めた。彼女も簡単な応急処置は学んでいるのだろう。


部屋の端でアイとマリアが話しているのが彼にも聞こえた。


「マリア、薬が欲しいのはわかるけどゴミどもの真似をしたら駄目」

「でも、薬がなかったら大人も子供もどんどん死ぬんですよ?放っておけって言うんですか?」

「だからって薬を奪ってもいいの?他のグループが子供を助けるためにここの薬を奪ったら納得するの?」

「でも、あの人は……」

「殺してもいい人間?本当にそう思う?私だって信用はしないけど、今のところ対等な取引をしてくれてると思う」

「でも……あああ……」


マリアは泣き始め、アイがよしよしと頭をなでた。




「さて、アリー。あんたは銃が欲しいんだよね?」


マリアとコマリが出て行った後、アイは椅子に座って言った。


「ああ、だけど持ってきた薬じゃ足りないんだろ?」

「そう。そこが問題なの。薬の入手法を教えてほしいけど、それだとたぶんあんたは銃の一丁二丁じゃ等価にならないほど大きな利益を手放すことになる。そうでしょ?」

「ああ」

「じゃあ、私らのグループにあんたを迎えて、コマリたちと同じサブリーダーにするって見返りならどう?あんたには見せないようにしてたけど、リーダーとサブリーダーはみんな銃持ってるの。素性を話してくれたら銃と地位が手に入るよ」

「無理だ。素性は話せないと言ったが、俺は記憶がないんだ」

「は?マジで?」


アイは空を飛ぶ人間を見るような目つきになった。


「本当だ。アリーって名前も適当に作った。正直に言うと物の名前さえ怪しいんだ。そこの青い火が出てる装置が何なのかもお前らが話すまでわからなかった」

「それだけ日本語話せるのに?そっか。まあ、それが本当かは置いとくとして……」


アイは少しも信じていないようだが、その仮定で話を進めてくれた。


「じゃあ、素性を伏せたままサブリーダーにしてあげる」

「それだと周りは納得してくれないだろ?」

「あんたは私らのために薬を取ってきてくれた絶滅危惧種の優しい男ってことにする。それなら報酬としてここにしばらく住むのに文句は出ないでしょ?最初のうちはサブリーダーの部分も伏せて、徐々に明かしていけば不安も少ないと思う」


疑心暗鬼の割に柔軟な策士の面を持つアイに彼は好感を持った。

彼女がリーダーを務めるのはそれなりの理由があるということだ。


「元々、男子禁制なわけじゃないし、いつまでも女ばかりで暮らすのはまずいって話が出てたんだよね。赤ん坊には男の子だっているし、将来的にさ」


銃に加えて住居と組織の地位ももらう。

病院まるごとの見返りはかなり増えたが、肝心の問題が解決していないと彼は思った。


「なあ、話自体は悪くないと思うんだが、お前らがその約束を守るって保証はどうするんだ?」


病院内にもう亡者はいないと話した瞬間に殺されはしないだろう。

しかし、見返りの一部や全部をなかったことにされる危険はあった。


「それねー。信用の問題は難しいんだよね」


アイは悩ましそうに言った。

彼も心から同意する。お互いを完全に信用すれば楽だろうが、それができる人間は全てを奪われているだろう。


「あのさ、私と子供作らない?」

「今、なんて言った?」


彼は思わず聞き返した。


「子供。政略結婚ってやつ。お互いの血を分けた子供がいたら裏切り難くなるって昔からあるでしょ。これじゃ駄目?ああ、もちろんあんたは怪我してるからじっとしてていいよ。私がゆっくりするから」


彼はそんな制度を初めて聞いた。

結婚や子供を信用の補助装置にするとは彼の世界では思いつきもしないことだ。血を分けた兄弟や子供に強い絆を感じる世界ゆえに生まれた制度だといえよう。


「それはちょっとな……」

「私じゃ駄目?じゃあ、他の人にする?相手の了解さえあればいいよ」

「いや、そういうことじゃなくてな」


彼はどう話したらよいかを悩む。


「そういう取引ってここでは普通なのか?お前はよく知らない男の子供を産んで平気なのか?」

「は?平気なわけないでしょ」


アイは呆れたように言った。


「あんたが安心して取引できるなら産むってだけ。私、なんだかんだあったけど妊娠と出産は経験ないんだよね。ゴミ連中の子供を産んだとして殺したくなるのか、少しくらい愛情を感じるのかもわからない。でも、他の人が産んだ赤ん坊を見てると『殺すのはちょっとなあ』って思うの」


彼女は何かを思い出すように天井を見た。


「理性とか母性みたいなものが私にもあるってことかな?あんたに恨みとかはないし、たぶん子供にそこそこの世話をして育てられる気がするんだよね。まあ、病気とかで死ななかったらの話だけど」

「そんな気持ちで産んでもらっても困るんだが……」


彼は自分の子供が適当な気分で世話をされて育つところを想像して嫌な気分になった。その子に何の才能もなければ見放されて自分のように真っ暗な人生を送るのだろう。


(自慢じゃないが、俺と同じ人生を経験したがる人間がいると思えないぞ)


彼はいっそ病気や怪我で死んでいたほうがよいと思ったことがある。不幸にも体だけは丈夫だったために死は訪れず、代わりに自分から寿命を差し出して悪魔相手に博打することになったわけだが。


「じゃあ、子供作るのはなしね。他に良い方法ないかなあ」


アイが再び悩み始めた。

その時、誰かがドアをノックした。

ドアを開けて入ってきたのはいくらか落ち着いたマリアだった。


「リーダー、さっきはすみませんでした」

「いいよ。それで用は?」

「アリーさん、先ほどは本当にすみませんでした。でも、一つだけお願いがあるんです」

「なんだ?」


彼は内心で少し身構える。

マリアは恐る恐る喋った。


「一度だけ赤ん坊に会ってほしいんです」

「どうしてだ?」


同情を引きたい以外に理由はないだろうが彼は一応聞いてみた。


「私にも上手く説明できません。あっ、もちろん同情を引きたいという理由はあるんですけど、それとは別に、なんというか、私の中で納得みたいなものが必要なんです」

「納得?」

「はい。一度だけあの子に会ってもらえたら、貴方が何をしようと私は納得ができるんです。私はできることを全部したという納得が」


彼女は真剣な表情で言った。


それで気が済むならいいかと彼は安易に考えた。

マリアに同情はしないが、強い敵意を持たれたくもない。魂と体は別物であり、弱った赤ん坊を見たところで自分が哀れみに駆られるとは思えなかった。


「いいけど、俺は動けないんだが?」

「こちらに連れてきます」


少し経ってからドアが開いた。

マリアの後から顔に傷のある女性が白い布を抱いて入ってくる。

その中には小さな人間がいた。痩せこけており、耳を澄ますと僅かな呼吸音が聞こえてくる。


彼はその赤ん坊を見て心がざわついたりしない。

これはただの容器だ。魂は生まれてくる世界や容器に恵まれていれば幸せになれる。

そうでなければ死ぬか不幸になる。それだけだ。

全ては神の気分次第だ。


(お前は容器に、俺は世界に恵まれなかった。お互い残念だったな。まあ、来世があるからがんばれよ……)


マリアはこれで気が済んだだろうか。

彼がそう思って彼女を見るとその口が動いた。


「今をがんばらない者に来世を語る資格はない」

「え?」


心を読んだかのような言葉を彼女が言ったのでアリーはぞっとした。


「そういう言葉があるんです。アリーさんは魂や来世って信じます?私は信じてましたけど、こういう赤ちゃんを見てやっぱり違うと思ったんです。この子は今必死に生きようとしてます。だから私も今この子を助けたいんです」


赤ん坊を見るとその子の目が少し開いて彼を見た。

心を見抜かれたような恐怖が彼を包んだ。


(まさかこの世界の神々が警告してるわけじゃないだろうな……)


神々がこの世界に関与していても何もおかしいことはない。

彼はだんだんと不安になってきた。

この世界の人間が魔法を使えなくとも神々を怒らせたら彼など一瞬で消されるだろう。消されるだけならまだいいほうで永遠の苦痛を味わうなんて罰があってもおかしくない。自分を転移させたあの悪魔でさえ神々には敵わないのだ。


(ここで赤ん坊を見捨てたら容赦しないって警告か?そういえば俺の治癒魔法は強化されてるんだよな……)


彼はそのことを思い出して少し試そうかと思った。

この赤ん坊に治癒をかけたら完治まではいかなくとも症状が改善するのだろうか。


「なあ、少し触っていいか?」

「え……?すみません。触るのなら先に手を洗ってもらえますか?」


マリアは少し驚き、急いで何かの液体を彼の手にかけるとそれは彼が両手をこする間に蒸発した。


彼は小さい手に触れると魔力を流し込んで治癒を開始する。

そうしていると幼い頃に受けた治癒の授業を思い出した。召喚生物に軽い傷をつけてそれを治すという授業で、自分だけは傷が治らず、そのまま泣きながら治癒魔法を続けたが最後まで召喚生物は治らず消滅した。


(そういえばあの頃から俺の両親は俺に興味がなくなってきたんだよなあ……)


彼は家に帰ってから二人の男女が自分の方を振り返らなくなったことも思い出し、憂鬱な気分になった。

次に赤ん坊の母親を見て、少し迷ったが質問することにした。


「なあ、この子は君の子なんだよな?」


今まで目を合わせようとしなかった母親は驚き、震え始めた。

あわててマリアが話しかける。


「大丈夫です。この人はやさしい人ですから」

「あ……そう……です……」

「この子を産んで幸せか?」

「…………言えません」


答えは明白だった。

この子は望まれて生まれたわけではない。


「それでも生きてほしいのか?」

「……はい」

「そうか」


神々もこの母親もよくわからないなと彼は思った。

治癒魔法の効果が出たのか出てないのかわからないまま手を離し、二人と赤ん坊が出て行くのを見送る。

ドアを閉める瞬間、赤ん坊はまた彼を見た。


(なんだよ……何が言いたいんだよ……)


「じゃ、どうしたら取引できるか考えよっか?政略結婚いけると思ったんだけどなあ」

「いや、もういい」

「え?」

「サクラコとキョウコを呼んでくれ。あと紙と書くものはあるか?」


これが警告なら次からはもっとわかりやすくしてくれ。

彼は頭の中で神々にそう言いながら病院にある製剤科の位置を思い出そうとした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る