第3章:女だけのグループ

彼は星明りを頼りに木々や植物の生えた場所を探す。

植物が多い地域に人も住んでいると思うからだ。文明が崩壊して食料が少なくなれば普通は自然の恵みに頼り、野菜や果物を得るために畑なども作るはずだ。さらに亡者から身を守るために防柵で居住地を囲んでいる可能性が高いと彼は考えた。


痛みと寒さに耐えながらしばらく走ると所々に木々が植えられている場所に出てきた。はるか遠くには山さえ見えてきたが、そこまで行くには朝までかかるだろう。

その山と現在地の中間に大きな建物があった。

垂直に高いビルではなく、3、4階の建物がいくつか合体したような形状でその横には建物と同じくらいの広さの開けた土地がある。建物と土地の周囲を柵が囲んでおり、いかにも亡者から身を守るために使いそうな施設だった。木々もいくらか生えている。


「まるであの学園みたいだな……」


彼はつぶやいた。

かつて彼がいた世界には魔法使いの学園があり、屋外訓練のために開けた土地が設けられていた。その雰囲気とよく似ているのだ。もちろん見当違いの可能性もある。

彼は文字どおり必死になってその建物を目指した。

息が切れると少し休憩し、また走る。

今日は本当によく走る日だと彼は思った。


意識が朦朧としてきた頃にようやく建物の前にたどり着いた。

足は棒のようになっており、気を抜くと倒れそうだった。

どこにも明かりはついておらず、人が生活している気配もないが、悪党と亡者を集めないためにそうしているのだろうと彼は思った。いや、そう願った。

身長の1.5倍ほどある柵を乗り越え、ふらふらしながら建物の内部を目指す。

その時、足に細い紐がひっかかっり、両脇でがらんがらんと音が鳴った。


(侵入者対策……やっぱり誰かいる……ちょうどいい……)


誰か来てくれと彼は願った。

ここがあの悪漢たちの居住地である可能性はどうでもよかった。

足元の細い紐を無視して進んでいく。

突然、足の裏でベキリと音がして体が深く沈んだ。

すぐに二番目の地面に衝突し、土の匂いがした。


(これはなんだっけ……そうだ……落とし穴……)


「あっ!誰か罠にかかってるよ!」

「ぶっ殺しちゃおー!」


若い女の物騒な声が聞こえた。

もう好きにしてくれと思いながら彼は気を失った。




「面倒だからさくっと殺しちゃいましょうよ」


彼は朦朧とした意識の中で女の声を聞いた。

肩の部分が熱く、体全体はやけにだるい。


「駄目よ。せっかく薬使ったんだから労働力として使わないと」

「無理無理。監視に人員割いたら元取れないって」

「男がいたら怖がる子多いよー?」

「それより奴隷は良くないんじゃないかなあ。あいつらと同じになっちゃう」

「治療の対価をもらうだけよ。こいつ何も持ってないし、働いて返してもらわなきゃ」

「どこのグループなんだろ?外人さんって初めて見るけど」

「他の地域から来たんでしょうね。そちらの状況を聞いてみたいです」

「日本語わかるかな?誰か英語しゃべれる?」


どれも女の声だった。

多くの声は若く10代か20代のものに聞こえた。どうやら彼の処遇について議論されており、彼は声を出すべきか悩む。むこうからすれば自分はいきなり居住区に侵入してきた不審者だ。怪我の状態から見て誰かに攻撃されたことはむこうもわかっているはず。悪人の可能性もあるので殺そうという最初の発言に彼も逆の立場なら賛成しただろう。


彼は手足を何かで縛られているのに気づいた。

目隠しもされていたが、こちらは念力で位置を少しずらすことができた。

彼は周囲をそっと伺う。

部屋の窓には暗幕が張られ、奇妙な金属装置の中に青い炎が灯っている。

少し暖かいのはあれのおかげだろう。

その周囲に6人の女が座っていた。


「ていうか、助かるの?どうなの、マリア?」

「破傷風とかになってなければ大丈夫だと思います。寒いおかげで血管が収縮して出血が少なかったのが幸いでした」

「リーダー、どうする?」

「うーん、一度みんなに話を聞いてきて。こいつに被害にあった人がいたら殺すね」


リーダーと呼ばれた女は6人の中では若い方だ。

年功序列というわけではないらしいと彼は思った。

しかし、6人の中で最も冷たい目をしている。

あの悪漢の残忍さはないが、別の威圧感がある。


「そうでなかったら1週間くらい働いてもらうね。その後は出て行ってもらう」

「監視はどうします?」

「監禁してシイの実を割る作業やってもらうのはどう?」

「あー、あれ面倒だもんね」

「シイの実全部食べちゃうんじゃない?心配だなー」

「あれを生で食べるのはあんたくらいよ」

「殺したほうが面倒少ないと思うけど……」

「サキ、あんたは極端すぎるよ」

「あー、はいはい。リーダーが決めたなら従うわよ」


どうやら処刑は免れたらしく、彼は睡魔に身を任せることにした。

こんな不審者を助けるなどどうかしてる。

だが、そのおかげで自分の命が救われたことは認めるしかなかった。




彼が再び目を覚ますと暗幕の外が少し明るかった。

体のだるさは少し減っている。

目隠しは外されているが、手足は縄で縛られたままだ。

右肩の傷はなんらかの処置がされたらしく、包帯が巻かれている。

だが、右腕を少し動かすだけで激痛がした。

治癒魔法をかけ続けて待つしかない。


「ああ、起きた?」


入り口に座っていた女性がすぐに声をかけた。

夜の話し合いでリーダーと呼ばれていた人物だった。

今は6人のうち彼女ともう一人背の低い少女しかいない。

その少女は隣で眠っていたが、彼女の声で目を覚ました。


「ん~……あれ?もう朝?」

「朝だよ。しっかりして」


起きたばかりの少女は大きなあくびをした。

リーダーは笑って少女を見たが、彼のほうに向き直るとやや冷たい表情になった。


「ええと、あなた日本語わかる?ドゥーユースピークジャパニーズ?」


(相変わらず手足は縛ったまま……警戒されてるな)


相手が一人なら催眠魔法で縄を解かせて逃げられただろうかと彼は考える。

すぐに否定した。催眠は数秒しか持たず、もう一度魔法をかけるには間を置かないといけない。それに拘束を解いたとしても行く当てがない。負傷しているし、ここで少し世話になるべきだろう。

このグループが有利な立場にいるなら所属してもいいと考えた。


「言葉はわかる。ここはあの建物の中だよな?俺は穴に落ちてからどうなった?」

「わあ、日本語上手だねー」


少女の方は感心したらしい。

ここは日本という場所だと彼は理解する。


「気を失ってたから私たちが引っ張り上げて治療したの。私はアイ。こっちはコマリ」

「よろしくねー」


少女は手を振った。

リーダーと違い、こちらは純真無垢な子供という感じだ。


「あなた、名前は?」


さて、困ったなと彼は思った。

自分には名前がないのだ。

魔法使いの世界では人間は魔法を最低限使いこなし、超自然界の住人を召喚したり、神々との交信を行えるようになってから神託儀式を受けて名前を授かる。それまでは仮の番号しか与えられない。

彼はその番号を使って生き、世界を去った。


(適当に名乗るか。何にしたらいい?あの女の名前はエリだったか。あれを少し変えて……)


彼は咄嗟に自分の名前を決めた。


「あ……アリ……」

「アリー?」

「アリー……だ」


以後、彼はアリーを名乗ることになった。


「アリー、まず質問するけど誰に襲われたの?」

「妊婦と組んだ変な男だ。所持品を全部奪われた」

「あははは、あいつらだー」


コマリが笑った。

相手に心当たりがあるらしく、アイのほうは一瞬誰かを殺しそうな表情になった。


「知ってるのか?あいつらは何なんだ?」

「どうしようもないゴミクズども」


アイは吐き捨てるように言う。


「何人いるかわからないけど、銃をかなり持ってて、他人の荷物を奪うの。時には相手を殺すし、若い女は捕まって奴隷にされる。妊婦はその一人でしょ。相手の数や武装の多い時は売春係にされて、襲撃の囮や斥候にされることもあるの。妊娠しても働かされて、出産が近くなると追い出される」

「かわいそーだよね。アリー君も災難だ」

「まったくだな……」


とんでもない人間に遭遇したなと彼は思った。

生き延びたし、おそらく理性的であろうグループに拾われたのは運がよかったとしても。


「アリー、あなたの素性とか聞いていい?。誰にだって話したくないことはあるから無理には聞かないけど」

「……じゃあ聞かないでくれ」

「わかった」


アイが簡単に引き下がってくれて彼は助かった。

この世界の常識を知らないので過去の捏造すらできない。


「ところで、人道上の理由であなたを治療したけど、大事な物資を使ったから見返りがほしいの。私が言ってることって理不尽だと思う?」

「いいや。だが、今は何も持ってない」

「うん、知ってる。だから労働で返してほしいの」


話し合いでそう決まったのは彼も知っている。

だが、少しゴネてみた。


「この怪我で?右腕使うと痛いんだ」

「重労働じゃないから」

「どこかで物資を調達するからそれで返すのは駄目か?」


彼は無理を承知で尋ねた。

煙の要塞を使って亡者を回避すればおよその建物に入れる。そこで物資を手に入れて彼女たちに渡せばいいと。

しかし、アイは首を横に振った。


「それ、信じると思う?」

「いいや。わかった。怪我が悪化しないならやるよ。期間はどのくらい?」

「7日間。仕事場に案内するから来て」

「え?今からか?」


病み上がりは考慮されず、彼は足の縄を解かれると2人に連れられて部屋を出る。

その時にアイは言った。


「最初に注意しておくけど、怪しい行動をしないでね。許可なく部屋を出たり、物を盗んだら念のために殺す。これは脅しじゃなくて本当に他の選択肢がないから」

「冗談と思っちゃ駄目だよー?うちらはガチでやるから」


コマリは楽しそうに言った。

彼もそれについて疑問を持たない。

彼女たちはおそらく人を殺したことがあるなと思った。


彼は廊下を歩きながら周囲を確認する。

自分たちは建物の1階におり、そこから見える中庭はすべて畑になっていた。

10人ほどの女性が農作業に勤しんでいる。

そのうち数人がこちらに気づいたが、彼を見てすぐに顔を背けた。


(男は外に出て物資を回収してるのか?)


彼はそう思ったが、昨晩の会話を思い出した。

男がいたら怖がる子もいると誰かが言っていた。

それはまるで男が一人もいないみたいだ。


「なあ、ここって女しかいないのか?」

「そう」


アイはあっさり認めた。


「男子禁制にしたわけじゃないんだけど、なんとなく今の感じになっちゃって」

「女の人を優先的に救助してたらこうなったんだよねー。ゴミクズ集団に捨てられた妊婦とかいるし」


コマリの言葉で彼は女性たちが怯えた理由がわかった。

あまり掘り下げても仕方ないので別の話を振ることにする。

目下、最も関心のあるあの武器についてだ。


「その危険なグループはジュウを持っているんだろう?お前たちもそれを持ってるか?」

「聞いてどうするの?」


アイの警戒が一気に高まった。

彼は後悔したがもう遅い。


「あれれー、アリー君はうちらの武装を探ってこいって誰かに言われたのかなー?わざと怪我をしてるとかー?これは念のためにやっちゃうべきじゃない、リーダー?」


コマリは無邪気な顔でポケットに手を入れ、折りたたみ式の小刀を取り出した。

彼は少しずつ違和感を感じていたコマリの正体を確信した。見た目も言動も可愛らしいが、この崩壊した世界でコマリという少女だけがあまりに陽気過ぎる。

よく考えればただの無垢な少女が自分の処遇を決める話し合いに参加してるはずがない。


「駄目よ、コマリ。まだ駄目。アリー、怪しい事をしないでって言ったよね?」

「すまない。そこまで厳しいと思わなかったんだ」

「次はコマリを止めないから」

「リーダーは優しいねー。まあ、そこが好きなんだけど」


コマリはニコニコして武器を仕舞った。

拾った命をもう少しで落とすところだったらしいと彼は素直に反省した。


こうなると何を話すにも慎重になってしまい、3人は無言のままある部屋にたどり着いた。

その扉は金属製で非常に分厚かった。

アイが開錠して扉を引くといくつもの籠に積まれた木の実がそこにあった。

彼は思う。


(まさかこれを全部?重労働じゃないと言わなかったか? )


「こっちがスダジイって木の実でこっちはナラとかクヌギとか色々」


アイはざっくりと2つに分けている籠について説明した。

スダジイと呼ばれる木の実は全体の1割ほどだった。この世界の植物などまったく知らない彼だが、それらの実の形が違うことはわかった。施設内に生えてある木々から採集したのか、外に遠征したのかは不明だが大した量だった。


「道具はそこ。スダジイは殻を割ったら渋皮も剥いて籠に戻して。他のナラとかは殻を剥いたら荒くでいいから実を潰して籠に戻して。注意してほしいのはスダジイを絶対に他の実と混ぜないこと。殻は使い道ないから混ぜてもいいけど」

「こっちだけは何か特別なのか?」

「マテバシイとかスダジイってシイの仲間は実にほとんどアクがなくて処理が楽なの。他の実はつぶして1ヶ月くらい川に浸してアク抜きしないと食べられない」

「まずいよー。私も1回食べたことあるけど。シイの実はいいよねー。そのまま食べられるから」

「生で食べるのは良くないんだけど……」


アイは奇怪なものを見るような目でコマリを見る。


彼はこのグループの食糧事情も良くないなと思った。どのくらい深刻なのか気になったが、さきほど探りを入れて殺されかけたのでその質問をあきらめ、当たり障りのなさそうなことを聞くことにした。


「どうやって食べるのか聞いていいか?」

「つぶして粉にしたら小麦粉と同じような使い道よ。クッキーやパンにするの」

「ラーメンとかも作りたいけど、卵がないからねー。まあ、がんばってー」

「お昼になったら食事を運ぶから。トイレはそこの容器にして」


アイはそう言って彼の両手に巻かれた縄を解く。

そのとき、コマリが手をポケットに入れて戦闘に備えたのに彼は気づいた。

本当に警戒されている。


二人が出て行くと当然のように外から鍵をかけられた。

彼は部屋を少し観察する。

元から倉庫として使われていたらしく、彼には用途不明の道具がいくつも置かれている。壁の上部に備わった窓は採光だけの役目を果たし、大人どころか子供の体も通りそうにない。

寒さに備えて毛布が入り口の横に置かれていた。


「……今は大人しく従っておくか」


サボったら食事抜きくらいのバツは平気でやりそうなので彼は実直に木の実割りを始めた。

直方体の硬い物体で木の実の殻を割り、表面の薄い皮を剥いで籠に戻すという単調な作業だ。右腕を一切使わないと時間がかかるので肩の痛みが少ない動かし方を探ってゆく。


木の実を割っているうちに彼はだんだんとコツがわかってきた。

1個1個を割って渋皮を剥くよりも数十個をまとめて割ってから渋皮を剥くほうが少しだけ早い。小さな進歩だが、木の実は大量にあるのでその差で作業時間は大きく減るはずだ。


この次に任される仕事は今よりマシなものだと信じながら彼は作業に没頭し続けた。

そしてスダジイといわれる種類の実が終わった頃に再び扉が開いた。

朝と同じ二人組が彼を見た。


「けっこう進んでるね」

「おー、さぼってないじゃん!」


アイとコマリは少し感心したらしい。


「死ぬほど面倒な作業だけどな」

「ご苦労様。実はノルマがあって、それに達してなかったら罰を与える気だったけど、合格よ」

「昼ごはん抜きにならなくてよかったねー」


やっぱりそのつもりだったか、と彼は心の中で言った。

アイは持ってきた盆を床に置く。

その上にあるのは何かの塊と2つの錠剤。そして水の入ったコップ。

塊はなんらかの植物を蒸したか焼いたものらしく、白い湯気が出ている。

胃の底を刺激する匂いがした。


「この薬はなんだ?」


助けた相手に毒を飲ませる人間はいないが、彼は不安になって聞いた。


「ビタミンBやカルシウムって言葉はわかる?栄養素を補うために皆飲んでるの。本当はそういう分を補える野菜を育てたいんだけど、今は他で精一杯だから。ああ、不安だったら飲まなくていいよ」

「葉酸とビタミンDの錠剤がほしいんだけど、どこのグループも持ってないんだよねー」

「持ってるけど隠してるんだと思う」


二人が話すのを聞いて栄養剤も貴重なのだと彼は理解した。同時に、今は銃が最優先で入手すべき道具だが、そういう物資も価値が高いのでいずれ入手しようと決めた。


彼はほかほかした塊を手に持つと紫色の皮を剥くべきか悩む。

2人に聞くと変に思われそうなので思い切ってそのまま食べてみた。

熱い。だが、甘い味が口いっぱいに広がり、自分が空腹だったことを今さら思い出した。

熱さを我慢しながらがつがつと食べると水を飲んで流し込む。


「午後もがんばって」

「それじゃねー」

「あ、待ってくれ」


二人が部屋を出ようとするのを彼は引き止めた。

今後について話がしたかった。


「7日間仕事をしたら俺はどうなる?」

「もちろん出て行ってもらうよ。ここに住みたいとか言わないでね」

「どうしてだ?男子禁制じゃないんだろう?」

「信用できないから」


彼女はもっともな理由を言った。


「信用を得るにはどうしたらいい?」

「は?」

「アリー君、うちらのグループに入りたいのー?」


二人は怪しげに彼を見る。


「素性がわからない人をグループに入れるわけないでしょ。私は素性を言わなくていいと言ったけど、仲間に入れる場合は別だから。ここにいる人はどんなに辛くてもみんな喋ってもらってるよ」

「話す途中で吐く人とかいるもんねー」

「うん。あの子たちには悪いけど、泣いたり苦しんだりする時って本音が出るから都合がいいんだよね」


なるほどと彼は思った。

これでは適当な嘘を作り上げても見破られるだろう。

しかし、自分は魔法使いなどと言うわけにはいかない。証明できないのではなく、脅威とみなされて殺される危険があるからだ。あの銃という武器を使われたら勝ち目がない。殺されなくても亡者を回避して物資を回収するための奴隷として扱われるかもしれない。


「素性はやっぱり話せないな……」

「なら諦めて」

「もしも物資を多く調達して差し出したら信用してもらえるか?」


彼は食い下がった。


「その場合は単なる取引。同等の物資か労働で返すけど、仲間には入れない。ああ、私たちの誰かと寝たいってこと?それも報酬としてありだよ」

「うひゃー。アリー君は誰が目当てなの?まさか私?」

「違う」


彼は奇妙な誤解を訂正した。

そして別の問題に気づいた。


「なあ、他のグループは俺を仲間に入れると思うか?物資をたくさん持っていたとして」

「たぶん無理。差別するわけじゃないけど、外国人のあなたは余計に難しいと思う」

「そうなのか……」


彼は本当に弱った。

物資を手に入れればどのグループにも歓迎されると思ったが違うらしい。この世界に来る前は容姿の問題も考慮していなかった。想定外のことばかりで何一つ思いどおりになっていない。

あの悪魔が笑っているところが彼の目に浮かんだ。

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