第131話「赤く染まる姫君」

「……夢、か」

どうやら僕は、地図を眺めたまま寝てしまっていたらしい。

それにしても、奇妙な夢だった。あの光の向こう側から聞こえた声。

僕は多分、あの声を知っている気がする。

だけど、それが誰のモノなのかまでが思い出す事が出来ない。

何か思い出したい事があって、形だけが見えるのに言葉が出て来ないあの感覚だ。

――モヤモヤする。外の空気でも吸いに行こう。

そんなモヤモヤを晴らすべく、僕は外に出た。

するとそこには、空を見上げる彼女の姿があったのである。

「……ハーベスト、さん?」

「お主か、おはよう。良く眠れたかの?」

彼女はこちらを振り返らずにそう呟いた。

その背中と声色には、何やら覇気が無いように感じたのは気のせいだろうか。

「――お主よ、ここから出たい意思は変わらんか?」

やがて振り返りながら、彼女はそんな事を聞いてきた。

「何を今更。僕は最初から……?」

違う。何かがオカシイと思った。どうして彼女がそれを聞いてくる?

昨日まで、別にこの場所に居れば良いと言っていた彼女だ。

「……どうして、いきなりそんな事」

僕は意を決して、そう彼女に問いかけた。

彼女は僕のその質問を待っていたかのように、力無く口角を微かに上げて言った。

「――どうやらお主に、お迎えが来てしまったようじゃ。逃げるなら、今のうちじゃ」

そう言った彼女の口から、赤い血が流れたのだった――。


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「――はあぁぁぁぁああああっっ!!」

振り回され、突きつける槍から旋風が巻き起こる。

無数の敵を薙ぎ払いながら、少女はただ一人で戦場を闊歩していた。

「……はぁ、はぁ、はぁ……」

いつまでこの戦いが続くのだろうか。

いつまでこうして居たら良いのだろうか。

いつまで私は、この武器は振り続ければ良いのだろうかっ。

「ファランクスッ、暴風を散らせっ!――リヴァイアサンッッ!!」

彼女は思い続ける。

この戦いを早く終わりへと向かう方法が無いかを。

彼女は苦しみ続ける。

地面に突き立てる毎に、足を止める度に感じる身体の悲鳴を。

彼女は呟き続ける。

消えかかった記憶の中に居る、暖かな声と姿に思い出しながら……。

その背中に手を伸ばし続けながら、彼女は呟く。

「……助けてよ。サツキ……」

『これで終わりだっっ!!女ぁぁぁっっ!!!』

そう呟く彼女に振り下ろされた剣は、迷う事無く真っ直ぐに彼女へと近付く。

そして彼女の視界は、真っ赤な世界へと変化するのであった。

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ギルティブレイク ~Guilty Break~(再考の為、休止) 三城 谷 @mikiya6418

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