第130話「遠くからの声」
「何か食わなくて平気か?お主」
「こんな意味深な日記を読ませた挙句、無理矢理に連れてきた人が、よくもまぁ平気でそんな事を聞けましたね。えっと、ハーベストさん」
「それはすまんと謝ったじゃろう?いつまで過ぎた事をネチネチと……。短気な男は嫌われるぞ?」
冷静になってみたけれど、改めて僕はこの場から去るべきだろうと思う。
いつまでも良く分からない場所に居たりしても、僕が出来る事は無いだろう。
それに彼女たちの事も心配だ。
いや、むしろ僕が心配される側かもしれないけれど……。
「……ふむ。ここってどの辺かな?」
積まれた本を机の代わりにして、その上に地図を広げて眺めてみる。
現在地を詳細を探しているけれど、それらしい場所は見当たらない。
「あぁ、その地図にもこの場所は記されとらんぞ?未開の地とでも言うべき場所じゃからのう。ここは……」
「じゃあ僕はどうやって帰れば良いので?」
「帰らなくても良いのではないか?」
「いや、帰りますよ?」
何を言ってるのだろうか彼女は?
このままこの場所に居ても、僕が出来る事は何も無いだろうに。
僕にはやるべき事がある。
ニブルヘイムで頼まれた事をアモルファスでしないといけないのだが……。
果たして、僕はここからアモルファスへ戻れるのだろうか。
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アモルファスへ来た理由が、彼しか知らない事を忘れていた。
ニブルヘイムで将軍フリードから、何かを頼まれていた事だけ覚えている。
だけれど、その内容までは把握していない。
この離れ離れになっている状態を利用して、私自身の調べ物をする事にしよう。
「……ふぅ、この辺かな」
建物の屋根の上へ登り、安堵の息を吐きながら集中する。
『シロ。何をするつもりですか?』
「…………ちょっと調べ物」
内側に居る彼女の問いにそれだけ答え、私はアモルファス全体に魔法陣を展開する。
透明にしているおかげで、下に居る少女が気付く事は無いだろう。
「……反応は無い、か」
そう呟いて、ローブのポケットから一つの時計を取り出す。
それは懐中時計だが、中身を見ようと開いても意味は無いのだ。
『シロ、まだそれを持っていたんですか?』
「持ってるよ。大事な物だもん」
私はその懐中時計を開いて、腫れ物を扱うように慎重に触れていく。
もうそれはヒビが入っていて、時計の針がどこを指しているのかも分からない。
そんな状態で残している理由は無いのだが、私たちにはそれがある。
これは何といっても、形見でもあるのだから……。
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『助けてっ』
誰かの声が聞こえる。
だけどその声は小さくて、耳を澄まさないと聞き逃してしまう大きさだ。
それをまた聞こうと、その闇の中を歩く。
真っ暗な闇の中。足元には白い線があって、まるでそこしか道がないような空間。
周囲に行こうとしても、身体を自然とそちらを向こうともしない。
この白い線の先へと進めと、何かに言われているかのように足を運ぶ。
『助けてっ!お願い!』
声は段々近くなり、意を決して走ろうとした瞬間だった。
僕はその場で足を外し、闇の中へと落ちていったのだった――。
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