第6話 村長

ミサキの悩みを聞いてから、しばらくは普通の生活が過ぎた。


それでもだんだんと月日は経ち、クリスマスももう越えた。


今年は彼らに楽しいものを渡してやれない代わりに、勉強の合間にコーヒーを淹れ、普段は文香が作ってやっていたクッキーを試しに作ってみた。


3人に試食してもらったところ、3人とも苦笑いで返してきた。


まだまだ練習が必要なようだ。


そうして日々が過ぎ、ついに年の節目を迎えた。


大晦日、と言っても私には特にすることもない。


掃除は毎日しているし、年賀状のやり取りなどは元よりほとんどしていない。


この日と元日ばかりは授業を無しにしているので、私は暇であった。


少し村から外れた山の方へと歩いて行った。


山の中を進み、上へと登山道を進む。


すると、少し広い空間に出る。

そこは一度だけ文香と来た場所であった。


何気なく来てしまった。


私は此処で彼女にプロポーズをしたのだった。


などとふけっていると、突然後ろから声がした。


「思い出の場所が、恋しいか?」


「……!」


驚いた私が振り向くと、そこには小さな老婆がいた。


その人は村の長である方で、みんなからトヨさん、トヨ婆と呼ばれていた。


「これはトヨさん、なぜこんなところに?」


「理由は主と同じさね。暇なのじゃよ。することもなし。」


「お寒いでしょう。身体に気を使わないといけませんよ。風邪を引きます。もう戻りましょう。」


私が言うと、トヨさんは


「なぁに、老害の身体が悪くなったところでじゃて。」と笑って言った後


しばらく無言で舐め回すように私を見つめ、それからふぅと一つ息を吐くと


「…私はもう戻るよ。しかし案内はいらない。…主はもうしばらくここにいてみてはどうかな。」と言った。


「何故ですか?」


「そんな気がするだけさね……。それでは、また年始に会おう、良い年を。」


はぐらかされてしまった。


私も深くは聞かず、挨拶を返した。


「はい、良いお年を。」


聞いたトヨさんは振り返ることなく歩いて行き、


「………まだじゃのう。お主もうしばらく我慢じゃな。」


最後にそうポソッと言って少し笑い帰っていった。


どうにも今日のトヨさんは変だ。


……ここに本当は何をしに来たのだろう?


それと最後の発言………「お主」は、おそらく文香のことであろう。


…やはりトヨさんは何か知っている?


結局目的も理由も行動も読めないまま、私の一年は幕を下ろした。






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