第84話 海の彼方

「赤ちゃんの物でも買いに行かない?」

 お義母さんは、デオンに香理の物を買いに行きたいみたい。

「ええ、でも今日は休日だから混んでいるでしょう」

 生まれたばかりの子供を連れて行くとなると、混んでいるところは周りにも迷惑をかけてしまうかもしれない。

「では、常滑の方がいいかもしれないわ。大きいし、空いていると思うの」

 お義母さんは、何かにこじつけて買い物をしたいのかな。女性のストレス発散の一つは買い物だし。

「それなら、空港にも行ってみたい。この前、行けなかったし」

「それじゃ、常滑デオンに行ってから、空港に回ってみよう」

 お義父さんの運手する車にお義母さんと智さん、私と香理が乗る。

 恵子さん、里紗ちゃんと武司くんは帰るみたい。


 常滑デオンで赤ちゃんの用品を買う。

 お義父さんが「ランドセルは買わなくていいか?」なんて言うから、お義母さんも「そうねえ」なんて言ってる。

 まだ0歳なのにランドセルは早いと思う。

「父さん、母さん、まだランドセルは早過ぎるだろう」

 智さんの言うとおり。

「では、セントレアの方に行こうか」

「シャトルバスで行きます?」

「いや、子供が居るから車で行こう」

 車だと橋の通行料がかかるらしいけど、智さんは車の方がいいと言う。


 中部国際空港って「セントレア」という名称で、呼ばれているらしい。

 そのセントレアの展望デッキに出ると、離陸する飛行機と着陸する飛行機が見える。

「先端の方まで行ってみようか」

 智さんの提案で展望デッキから、突き出した先端まで歩いていく。


 歩きながら智さんが話をしてきた。

「彩、帰ったら引っ越しの準備をしようか?」

「どこへ引っ越すんですか?」

「八王子の彩の実家の方に…、陽子さんと一緒に住もうかと思って。陽子さんにも、香理にも、その方がいいんじゃないかと思ってる」

「あなた……」


 展望デッキの先端に着くと、遥か向こうに海が見えて、大きな船が浮かんでいる。

「大きな船」

「あれは、LNG船だな。伊勢湾沿岸は火力発電所が多くて、中東とかから発電用のガスを運搬して来るんだ」

「石油で発電しているんじゃないんですか?」

「それは昔の事だな。今では環境問題とかあって、ガス発電なんだ」


 そのタンカーが通り過ぎた後に、海に沈むお陽さまから延びる光の道が見えた。

「あなた、お陽さまからの光が、一本の道みたいに、海の向こうまで続いている」

 香理はその話が理解できる訳でもないのに、それを見た香理が笑った。

「あなた、今、香理が笑った」

「香理には、この道が見えているかもしれないな。海の彼方まで」


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海の彼方 東風 吹葉 @ikkuu_banri

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