第24話 都の便り・三

 命の証を立てんとばかりに盛んだった蝉の声が弱まり始めた頃、かぐや姫の求婚者の噂が、また都に流れた。


 海の向こうの理想郷・常世とこよにあるという木の枝を所望されたふみと皇子が、赤い玉が揺れる銀色の木の枝をかぐや姫のもとへ持ち帰った。その宝石の眩い煌めきに、これこそ本物の常世の木の枝と、早速二人の床が整えられ三日餅も用意され、つつがなく婚儀の準備は整えられた。が、その矢先に宝石職人が大星おおづつの屋敷に押しかけ、史皇子に木の枝の作製を命じられたがその代金を未だ支払ってもらっていない、よってここで待ち伏せさせてもらいたいと大星の翁に頼むのだから、喜劇である。もちろん翁は了承し、何も知らずに大星の屋敷の門をくぐろうとした史皇子は職人たちに迫られ、みっともなく逃げ帰ってしまう。その姿は多くの都人に目撃され、弟たる帝も我が兄ながら情けないと苦い顔をする始末。朝廷に流布する己の情けない噂を恥じて、史皇子は参内しなくなってしまった。


 そして、最後の一人。英雄神の宝玉を指定された石上いそのかみ彰人あきとは、住宮すみのみや国の天鳥あまつとり神社を目指し、権力を行使して神社の本殿へ入った。しかし彼は何日経っても帰らず、従者たちはやきもきするばかり。神官たちも、本殿に立ち入った者が翌日死体となって発見されなかった事例を知らなかったので、一体どうしたことかと首を傾げていた。


 だから、三月近く経って彰人が宝玉を手に帰還したのを見て、従者は歓喜し、神主たちは仰天した。この地に社が建って以来、本殿に立ち入って無事に帰還した者も、英雄神より宝玉を賜った者もいなかったのだから。彰人が初めてだ。石上彰人は社の歴史に名を刻む男となり、掌を返したように膝をつく神主らのもてなしを受けるのもそこそこに、愛しい姫君が待つ都へと帰路を急いだ。


 しかし、天命はわからないものである。

 都人は新たな噂を聞いた。左近衛中将の石上彰人が死んだ――――――――と。

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