第14話 都の便り・二

 都に新たな噂が流れるようになった。


 霊山に住まう妖狼の毛皮をかぐや姫に所望された阿倍あべ布勢ふせは、財力に物を言わせて異国の商人から高額で購入し、彼女に見せた。しかしかぐや姫が試しに火をつけてみたところ、毛皮はたちまち燃えてしまう。阿倍布勢は、偽物を売りつけられたのである。当然、あちこちで噂になり、からかわれる。元々が脆い精神の持ち主であった布勢はそうした周囲の声に耐えられず、洛外の山荘に引き籠ってしまった。


 また、大伴おおとも御行みゆき姫穂ひめほ国へ赴くも、立浪たつなみ神社の宮司から御神体を借り受けることができなかったので、所有していた頑丈な船へ優柔な術者と共に乗りこみ、神路かんじ島へ入ろうとした。が、先例に漏れず途中で大渦に巻き込まれ、難破してしまう。さいわい、内海の東端を臨む木生きう国の浜に漂着して命はとりとめたが、その代価として両目から光が失われてしまった――――――――


 例年よりも長い梅雨がそれでも終わりを迎えようとする中、かぐや姫の求婚者たちの末路は噂となって都人の口の端に上り、楽しませた。


 残るは、常世に生えているという、そのすべてが鉱物でできた木の枝を求められたふみと皇子。そして、英雄神が生む宝玉を所望された石上いそのかみ彰人あきと。どちらも、庶民では目を合わせることもできない貴人である。

 ただ、史皇子は良くない評判がちらほら聞かれるのに対し、彰人は賊やあやかしを幾度も退けたと武勇伝に事欠かない男だ。宮中での女房たちの人気も、雲泥の差がある。どうせなら物腰柔らかくとも傲慢な史皇子が失敗して、典雅な武人である左近衛中将が姫と結ばれればいいのにと、恋物語の幸せな結末を思い描くように、女房たちは頬を染めて言いあうのだった。


 その噂に隠れ、大星おおづつの翁の屋敷に帝が立ち寄り、かぐや姫と文をやりとりするようになったことは、貴族にも庶民にも知られることはなかった。時折暇を見つけては、人目を忍んでかぐや姫のもとを訪れるようになったことも、噂にならなかった。

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