第3話 自己判断

意識を研ぎ澄ます


瞳を閉じても木の葉の揺らぐ音が。

耳を塞いでも大気の波動が。

そこになにがあるかを伝えてくれる、これはそのための力、そのための命。


我が瞑想は、この一撃に至る為ーー!!


腕を振り上げる。


乾いた音が響く。


「いやぁお見事!」


その声に答えるように目を開く。


目の前には腰を抜かす青年。


「えらく芸達者なもんだ。見ずして、果てには聞かずまでして打ち返すとは……」


場は訓練場、語るは自警団副長。


「いやはや、そこに至る為にいかな修練を積んだのか……お聞きしたいものだ」


彼は驚いた、と言いながらその表情は戯けた様に笑っている。


「ほら、わかっただろうブギー、お前じゃこいつには勝てないよ」


「スヴェン副長……」


彼は腰を抜かした少年を無理やり立たせると、肩を貸してベンチに座らせる。


「……さて。エーカー、やろうぜ?」


そう言って彼は立てかけられた槍……先端が布で覆われた修練槍を構える。


「……来い」


先の一刀は体が従ったまで。彼にはそれが通用しない、と本能が告げる。


なぜかわからないが、この肉体は武芸を極めている様に感じられる。


私は誰なんだ。


「……行くぞ!」


わからないことだらけで頭が混乱する。


だが一先ずは、目の前の武人と戦いたい。


己が魂が、そう叫んでいた。


「ハァッ!」


気の入った言葉と共にスヴェンが槍を突き出す、サイドステップでそれを避け、追撃の払いを打ち返す。


「……見える」


次撃は回転による薙。


飛び越える様にその薙を回避、その次は振り上げ、剣を後ろ手にもち弾き、衝撃で裏へと回る。


飛ぶついでに彼の頭を踏みつけ、槍の攻撃範囲より離脱する。


「イッてぇ!やってくれるなぁオイ!」


彼は突き出した槍を回転させ再度構える。


次は振り下ろしでくる、踏み込みを見て体が動く。


「……ぜいっ!」


彼の踏み込みと己が前進、槍が頭部に接触するその瞬間。


「滑るだとっ!?」


体勢を腰から崩し、スライディングで彼の足元を握る。


「槍ならば、この距離は攻めれまい……!」

「お見事、だが……」


直後、彼の体技によってか、修練場の柵まで吹き飛ばされる。


「槍を使うなら、その程度の弱点は克服している」

「不覚……」

投げられるときに、頭でも打ったのか、私は徐々に意識を落として行った。





目を開く。


目を開く。


目を開く。


なぜだろう。この目を開いても開いても、私は私を覚醒させることができない。


「お困りの様だね」


振り返り、その姿を認識する。


藍色の奇妙な服に身を包み、声を発したであろう彼はにこりと笑う。


「まだわからないのかい? 僕が誰なのか」


少し悲しそうに彼は微笑む。


「あなたは……誰だ?」


そう問いかける。彼は「やっぱりか」、と悲しそうな顔をする。


「早くしたほうがいいよ、君が取り戻したいものがあるのなら」


彼の体が薄れて行く。


「待ってくれ! あなたは……」


霞む様に消えて行く彼に手を伸ばす。


「僕はもう居ない、嘗て居たはずの残り香」


そして、と彼は微笑んで。


「全てを知った、悲しき亡者」


その言葉を聞くと共に、意識が、消えて行く。


「急げ、己を知りたいのならば」


それができるのは、君だけなのだから。


その言葉を最後に、私は目覚めた。


「……なんだったんだ?」


干し草の山に横になっていた体を持ち上げる。


体には痛みはない、受け身をとったのか? 柵に激突して意識を失ったのに?


この体も、私がなぜ戦えるのかも。


そして、先の夢も。


「全く、わからないことだらけだ……」


ため息をついて、寝床に腰掛けた。

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The soul within じゃがいも @Rediant

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