第2話 自己認識
蹴り進めた木々の先、柵に囲われた村へと進む道を見つけた私はその街道から村に向かった。
柵は思っていたよりも小さく、防衛用と言うよりも害獣の侵入を防ぐための様に見える。
「止まれ」
私に掛けられた声、簡素な皮鎧をつけた、門番であろう男が槍を向けてくる。
抵抗するのは得策でないだろう。私は足を止め、無抵抗の態度を表すために両手を小さく上げる。
「名を聞こう、少年」
そうか、私は少年なのか。
考えればまだ小便もしてはいない、性別さえ分かっていなかった。
「……わからない」
なに? と、門番は顔をしかめる。
当然の反応だろう、と考えながら次の一手を打つ。
「気が付いたら山にいた、自分の名も生まれも知らない」
不審者を見る様な目で門兵は槍を引く。
「……少し待て」
門兵は目頭をおさえ。大きな声で村長を呼んでくれ、と叫んだ。
「で?記憶も無いまま降りてきたの?」
ため息を吐かれる。
「はい、自分が誰なのか知りません」
目の前の老婆は少し悩んでから椅子から立ち上がって肩を叩き
「お前、ここに居ていいぞ」
と、そう言った。
「お婆ちゃん!」
その判断に不服なのか、老婆の隣にいた少女が立ち上がる。
「村長、だよ」
「う……村長! 私は反対です!」
「私の決めたことだ、口を出すな」
老婆は指を突きつけて少女を見下ろす。
少女の髪を分けるように突き出された指は力が入っているのか反り返っている。
「う、でも……!」
「あんたは若いのに新しいものを嫌いすぎる、貧乏好きのエルフみたいだよ」
「なによ!お婆ちゃんなんて身体は古臭いのに、未だに自分が美しいなんて勘違いしてる、まるで塗装の剥げたくるみ割り人形じゃない!」
「なんだってこのクソ孫……」
「何度でも言ってやるわよ!紐の千切れた操り人形!」
お互いの額を押し付けて怒っていますと主張し合っている。
「あのー……」
止めようと思うも、出てきたのは白い腕とか細い声だった。
「「外で待ってな!」」
お呼びじゃない、と怒られて。
私は部屋から蹴り出された。
「いたた……まったく、お婆ちゃんったら加減知らないんだから」
「大丈夫ですか……?」
村の外れ、静かな河川敷で村長の孫……ルビーと共に夕日を見る。
ボロボロだった服は余り物の服と変えてもらった。
質素な作りだが、ないよりはマシだろう、と押し付けられた物だ。
「気遣いはいらないわ、いつもこんな感じ」
ルビーはニコリと笑ってそばの石を川に投げ入れる。
「お婆ちゃんって、父さんと母さんが死んでから一人でいろいろやってるの、あなたを受け入れたのも男手が欲しかったから」
そういって彼女はそっと立ち上がる。
「私はお婆ちゃんが気に入らないだけ、別にあなたが嫌いなわけじゃないの」
「……両親は、いらっしゃらないのですか」
ええ、となんでもないかのように彼女は言う。
「私が1歳の頃らしいし、物心ついた頃にはお婆ちゃんしか居なかったもの」
貴方と同じね、と彼女が言う。
「……そうですね」
「……なによ、なんか喋りなさいよ」
不機嫌な彼女に謝罪する。私は名前が無いんだ、なにを喋ればいいのかわからない、と彼女に告げる。
「あー。そっか、それもそうね」
彼女はうーん、うーん、と呟きながら頭を捻らせている。
「エーカーランド!」
突如立ち上がった彼女が私を指して言う。
「エーカー、ランド……?」
「あなたの名前!どうよ!」
嬉しそうに彼女が笑う。
その笑顔に私は
「ああ、いいね」
と、そう微笑んだ
「でっしょー!」
嬉しそうに彼女が笑う。
夕日に照らされた彼女の瞳は、ルビーのように、赤く照らされて居た。
私はエーカーランド。
刻み込むように、そう繰り返した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます