The soul within

じゃがいも

第1話 自己反芻

目を開く。


暗がりの中にいるようだ、私は自身の右腕で地面を確かめる。


ざらり。とした感覚と、少し硬質な反応。


温度は実に低い。こんな所で意識を失っていたのか、と我が身を笑う。


目が慣れて来たのか、暗闇のかすかな光を頼りに周りを見渡す。


先ほどの感覚や壁質を見る限り、どうやらここは洞窟のようだ。


しかしながら、なぜ私がここにいるかを私は知らない。


道の真ん中には塞ぐような肉塊。


そしてその目前には、砕けた鉄片。


恐らく刃だったのだろうそのかけらを手に取り、なぜか湧き上がって来た義務感と共に目の前の肉塊に振り下ろした。


肉が切れ、潰れていく生々しい感覚と共になぜかこころが澄み渡る。


ああ、一仕事終えた気分だ。


ため息をついて座り込む。


この状況、この空間。


気になることは山積みだが、それより考えなければならないことがある。


即ちーー私は誰だ?


自己崩壊を犯しそうな感覚の中、私はなぜだか光の溢れる方向。


そう、出口へと足を向けていた。



ああ、光が見える。


私が私を知らなくても、その光はいつだって降り注いでいる。


それがどこか嬉しくて、私は歩行速度を上昇させた。



洞窟を出れば、直ぐそこは森だった。


光と緑の溢れる森。


私は直ぐそばの木につけられた傷を眺める。


恐らく、ここを縄張りと主張する獣が付けた傷跡だろう。


そしてその獣は……


洞窟に振り向く、命の気配はない、私が殺したのだ。


なぜ私があそこで倒れていたのか。なぜあの肉塊はそれを見逃していたのか。


足りない判断材料。


そしてその答えは、今は無い私の記憶にあるのだろう。


私は誰なのか。


答えを探すため、私はまた歩き出した。




獣道を見つけた私は辿るように歩む。


ここは美しい。


木々の葉より零れ落ちる光の波が陰る大地を淡く照らしている。


だが、どれだけ歩いても私は私を思い出せない。


人の記憶には、二種類ある。


エピソード記憶と意味記憶。


前者は物語、後者は情報。


なぜ私がこれを知っているのかは不明だが、恐らく前者を欠いていることを想像するのは容易だ。


だが、名まで失うものなのか?


私は長い思案の後、考えても結果は出ないと判断し山の斜面を滑り降りる。


頬を木々が擦る。


痛くは無い。風を感じながら、私は山を降りて行く。



移り行く視界の中、私は麓に家屋を見つける。


柵に囲われ、木々で組まれた家々。


恐らくこの山を持つ者がいるのだろう、比較的大きな家も確認した。


私はそれを認識して進路を変更、滑りながら地面を蹴り飛ぶ。


私は木々を蹴り進む。


小枝が、頬に当たる。


痛くは、なかった。

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