D1 / 生馴れなる第二稿
夏服に替わったのも遠い昔。
演劇部は無事ブロック大会を突破し、これで全国大会だと喜ぶべきところなのだが、全国大会は来年らしい。
大黒柱の登馬副部長は卒業してしまう。
必然的に、エース候補の森守和月は期待の眼差しが向けられ、その和月による過大評価を信じてしまった先輩方は、こちらにまで熱い眼差しを向けている。
これからは、その容赦無いプレッシャーと戦わなくてはならないらしい。
でも、たった今、自分の中に自信というものが生まれてしまった。
人はこれ程涙を流せるのかと思ってしまう程、脚本を読んだ和月の涙は止めどなかった。
その両腕は痛いほど強く、体に巻き付いていた。
「こんな、こんなに、いい話……祐鶴……ありがとう……」
「ええと、な、泣くほど……?」
色々な想いを込めて書き上げた脚本は、手放しに褒められてしまった。
長い時間ではないが、二人で懸命に積み重ねてきたことをぶつけきれたのは、確かだった。それが、何でも大げさに表現する和月と、こんなに強く深く抱きしめてもらえるという報酬に繋がったのだ。
挑戦して本当に良かったと、心の底から思う。
ただ一つ。この脚本の内容に、自分自身の望みを反映できなかったという点を除いて。
第三幕 ラストバトル(殺陣)
照明全灯
仮面の戦士、岩場に立つ。
怪物、岩場の右下から仮面の戦士を見上げる。
録音音声再生
リク「前に見た時よりも強くなってそうだな」
レヒト「うん、最後まで慎重にね」
仮面の戦士、地面に飛び降り、舞台中央で怪物と対峙する。
レヒト「うん。ずっと一緒にやってきたようにするだけさ」
怪物、体当たりの姿勢。
仮面の戦士、ファイティングポーズを取る。
リク「力押しか!」
レヒト「ああ、今までの経験を活かせるよ!」
台詞後、怪物、肩から突進。
仮面の戦士、怪物を受け流して通過させ、振り向いた怪物に蹴りを入れる。
怪物、後ろに尻餅をついてすぐに立つ。
リク「俺達なら余裕だな」
仮面の戦士、怪物と組み合い、すぐ離れてファイティングポーズ。
レヒト「リク、熱くならないで! 組み合ったら力では勝てない!」
リク「ありがとうレヒト!」
仮面の戦士、怪物の攻撃を受け流しつつも、決定打が当てられない。
リク「レヒト! どうした、動きが悪いぞ!」
レヒト「リク……こいつ、弱いよ……どうしてこんなに弱いんだよ?」
リク「俺達が強くなったんだ! さっさと片付けちまうぞ!」
レヒト「でも……こいつを倒したら、僕は……帰らないといけないんだよ?」
リク「そ、それはそうだけど! うわ!」
仮面の戦士、怪物に掴みかかられるも振りほどき、ファイティングポーズを取る。
レヒト「帰りたく……ないよ」
リク「な、何言ってんだ!?」
怪物、戦いに集中しろと言わんばかりに叫び声を上げる。
リク「うるせぇんだよ!」
仮面の戦士、怪物を蹴り飛ばす。
怪物、よろめきながら舞台左端で倒れる。
レヒト「リクと、一緒にいたいんだ」
リク「なら、こいつを生かしておいたらどうなるんだ?」
レヒト「僕の次元は……怪物に支配される」
リク「ど、どうして!?」
レヒト「もうベルトを使えるのは僕だけなんだ。そして僕は、リクがいないと変身出来ない」
仮面の戦士、怪物に強烈な蹴りを連発。
怪物、倒れる。
レヒト「リク! 何するんだよ!」
リク「レヒト……ありがとう。お前のお陰で、世界が救われたよ」
レヒト「……ああ、そうだね。これで、帰れるんだね」
リク「ああ……世界を救ってくれて、ありがとう」
暗転
スポットライト、仮面のヒーローへ
レヒト「あれ? 変身、解かないの?」
リク「なぁ、変身したままなら、お前の次元に俺も行けるのか?」
レヒト「多分、行けると思う。今の僕達は僕であってリクでもあるから……でも駄目だ。君の次元へ帰れなくなるよ」
仮面のヒーロー、倒れた怪物に近付き、蹴りを入れる。
リク「おい、起きろ」
怪物、一目散に逃げ出す。
レヒト「あ!」
リク「困ったなー。あいつ、お前の次元に戻ろうとしてるぜ? 倒しに行かねえとな」
レヒト「そ、そんな……でも」
リク「大丈夫だって。あいつを倒さないようにして、こっちとあっちに行き来させれば、ずっと一緒だ」
レヒト「で、でも、大丈夫かな?」
リク「大丈夫にするんだよ。俺とお前で」
レヒト「そ、そうだね! 一緒に行こう! あいつを追って、僕の世界へ!」
閉幕
エンドコール
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