B3 / 想い人、その視線の先
「二人とも、進んでる?」
部室に顔を出した三年の
敢えて表現してしまえば、テレビの中からそのまま現れたかのような人だ。
なんだか、ホラー映画のような表現になってしまったが。
この人が現れる度に、和月と二人だけの時間を邪魔しないで欲しいという、わがままな気持をなんとか抑えなくてはならないのは面倒だ。
「あ、おはようございます! あの、とーま先輩! 順調です!」
「ち、ちょっと何言ってんの!」
何も順調ではないのだが。
四十話を越える大作を全話見ただけで、脚本は一文字も書けてはいないのに。
「大丈夫だって!」
まったく、今日も森守和月はキャラクターに違わず元気いっぱいだ。
先輩にも平気で話しかける胆力は見習いたい。
「とーま先輩、脚本は宮元にお願いすることにしまして」
「へぇ、宮元に?」
「はい! あ、倉庫の岩のセット使ってもいいですか?」
「うーん、結構修繕しないと使えないかもなぁ……人員の調整を考えるのも仕事の内だけど、演劇部だけでまかなえないなら生徒会の人を紹介するから言ってね」
「は、はい!」
無粋だよ、登馬副部長。
せっかく、二人きりの時間だったのに。
なんて、そんなことは口が裂けても言えないけれど。
登馬副部長は新入部員の後見人を買って出てくれているから、ここに来るのは当たり前のことだ。
でも、困ったことがもう一つ。
副部長さんを見る森守和月の眼の輝き。明らかに何かが違った。なんらかの想いが籠もった目だ。
「あ、とーま先輩、それからですね」
一生懸命に会話を引き延ばしにかかっている。
森守和月が登馬副部長の視線をこちらに向けないで欲しいと、切実に思ってしまう。
あんな眼で見られてしまったら、きっと全てを投げ出して、森守和月のために生きる存在になってしまいそうだ。
「後で聞くから。さ、相方を借りていくよ。和月はプロットを固めておくこと。期待してるからね」
「はーい」
今日も始まってしまうのか。
副部長さんがやってきた理由は他でもない。この演劇素人にマンツーマンで稽古をつけるためだ。
森守和月からの羨望の眼差しが痛い。
これは不可抗力なのだから、勘弁して欲しい。
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