第14話

「おい、おまえら、おれの背中に砂をかけろ」


 女子高生のいた場所で砂遊びをする子供達に、うつ伏せのままペイタが声をかける。子供達はパツコに砂を投げつけた裸の子供達だ。仰向〈あおむ〉けになっている一人の子供を中心に、砂山を作ろうとしている。


「しょうちゃん、でぶがなんか言ってるよ」ペイタの目には白緑色に映る子供が、首領の立場にいるしょうちゃんに報告する。


「でぶに近づくと感染〈うつ〉るから、無視しようぜ」そう言って、ペイタに顔向けることなく砂をかける。


「おい、おまえら、いい物やるから、おれに砂をかけろ」しょうちゃんの顔を見て、もう一度ペイタが声をかける(クソガキガ、生意気ニ無視シヤガッテ、ソレニナンダアイツ、毛ガ生エテンノニ、水着ヲ穿イテネエジャンカヨ、頭オカシインジャネエノ?)。


「しょうちゃん、いい物くれるって」若竹色に見える子供が興味を覚えたらしく、しょうちゃんに言う。


「無視だ、無視」しょうちゃんは気にしない。


「女の股から出てきた珍しい物だ、おまえらの経験したことのない、すげえ気持ちのいいものだぜ?」ペイタが“気持ちいい”のところで語気を強める。


「えっ? 何くれるの?」しょうちゃんの動きが止まった。


「女の股から出てきた、ちんこを気持ち良くしてくれる物だ。ほら、おれの手の中に入ってるだろ? おれの体に砂をかけたらやるよ」嘲〈あざけ〉る笑いを浮かべてペイタが話す(ハハハ、アノガキ、スグ食イツキヤガッタ、サスガ毛ガ生エテイルダケアル)。


「おい、みんなであいつの上に山を作ろうぜ」しょうちゃんは早速〈さっそく〉号令をかける。


「おい、山にしなくていいぜ、腕と頭を残して、体が見えなくなるぐらいでいいからな」ペイタが大声で言う。


 直〈ただ〉ちに作業が始まった。大人の理解に苦しむ会話を続けながら、子供達は元気良く砂をかけていく。ペイタは子供達の会話に耳を貸さず、ビーチチェアに横たわる女性をひたすら凝視する(クックックッ、コレデ、サラニ海水浴客ラシイ姿ニナルゼ。陽射シモ遮ルコトガデキルシ、腰ヲ動カシテモ、ソレホド目立タナイハズダ。ニシテモ、アノ女、全然動カネエナ、熟睡シテイルノカ? モシ熟睡シテイルナラ都合ガイイ、タップリ時間ヲカケテ、強力ナオルガズムヲ求メテヤル。大量ノ精子ヲ、砂浜ニブッカケテヤルゼ)。


「しょうちゃん、しょうちゃん」パツコに対して凄まじい怒りをぶつけた母親が、ペイタの左前方から近づいてくる。


「ママ! なぁに?」しょうちゃんは振り向いて返事する。


「おい、おめえのママに取引をばらしたら、物をやらねえからな。ぜってぇに言うなよ」


 ペイタは低い声で釘を刺す。しょうちゃんが頷〈うなず〉くと、子供達も真似して大きく頷いた。


「何やってるのしょうちゃん? 見知らぬ人に砂をかけるなんて、そんなことしていいの?」多産に耐えられる頑丈な腰に手をあてて、母親らしく肥えた体を前屈みにしょうちゃんに話しかける。


「あそこでね、としちゃんに砂をかけて遊んでいたら、このおじさんがねえ、『自分の体を使って、みんな一緒に遊びなさい』って声をかけてくれたの」しょうちゃんは手を動かして説明する。


「そうなんです、ぼくがしょうちゃん達に、砂をかけるようお願いしたんですよ」しゃがみこんだ母親の顔を見ようとしたが、首があまり動かないので、股間を見てペイタは話す(ウエェ、海パンニ毛虫ヲ挟ンデイルミテエダ)。


「あら? そうだったんですか、こんなに体を張って、うちの子供達の為にわざわざすいません」母親が申し訳なさそうに頭を下げる。


「いいんですよ、ぼくがお願いしたんですから、ちょうど砂の中に埋もれて、汗を掻きたいと思っていたので、しょうちゃん達には助かります」ペイタは平静を装〈よそお〉って話す。


「はあ、そうですか、それならいいんですが……、ねえ、しょうちゃん、ママも手伝うわ」


 そう言うと母親が砂を掬〈すく〉い始める。顔の肉は中心に寄り、ペイタが歪む(マジカヨ! 余計ナコトスルンジャネエヨ、クソババア! テメエガイタンジャ、陰毛ガ頭ヲ過〈よぎ〉ッテ、不愉快ニナルダロ。射精前ニテメエノ毛ヲ思イ出スカモ知レネエダロ、早ク失セロヨ!)。


 身篭った子の分だけ乙女らしい恥じらいを失った母親は、自分の股間をペイタに見せびらかしていることに気づかない。疲れた肉の寄った股間は、中身の詰まったオムレツのような張りがあり、夢見るほどに毛が洩〈も〉れている。 


「ママはいいよ、ぼくたちで砂を盛りあげるんだから、向こう行っててよ」しょうちゃんが母親の腕を優しくつかむ。


「ええぇ、ママと一緒に遊びたい!」としちゃんが残念そうな声を出す。


「ぼく達が頼まれたんだから、ぼく達でやるの、ママはパパのところにいてよ」しょうちゃんは母親が尻餅をつかないよう、加減を利かせて腕を押す。


「そう? そう言うならねえ、でも、さっきの女みたいな、危ない人がいるからねえ」母親が愚図々々〈ぐずぐず〉する。


「大丈夫だよ! 変な人が来ても、ぼくが砂を投げつけている間に、としちゃん達を逃がしてママに知らせるから、それに、このおじさんもいるし」母親の腕を揺すりながら、しょうちゃんが威勢の良い声を出す。


「そう、そう、でもね……」母親は心配そうな顔つきでペイタを見る。ペイタの視界に母親の顔は入らない(オカズガ見エネエヨ、クダラネエコト言ッテネエデ、腐ッタ股間ヲドケロヨ)。


「だいじょうぶだからママは向こう行ってて!」しょうちゃんは立ち上がり、引っこ抜くように母親の腕を引っ張る。


「わかったわかった、じゃあ、ママは向こうに行きますよ。怪しい人に気づいたらすぐに逃げるのよ、わかったしょうちゃん? あなたはお兄ちゃんだから、としちゃん達から目を離しちゃだめよ」母親は立ち上がり、しょうちゃんの頭を撫でる。


 幾度も振り返りながら去っていく母親を眺めて、「おまえのママは心配性だな? ええ?」ペイタはしょうちゃんに声をかける。


「おれね、さっきエロババアに逆ナンされてね、ママがそのババアと喧嘩したんだ。ママはね、おれが逆ナンされないかって心配なんだ」しょうちゃんが鼻につく口調で答える。


「ほおぉ、生意気にその年で逆ナンかよ、はんっ、おめえ、毛が生えてるのにちんこ出してるからな、狂った女に目をつけられたんだろ。おめえ目当てじゃなくて、ちんこ目当てにナンパされたんだよ」馬鹿にした調子でペイタが話す。


「おれのちんこかっこいいからね、エロババア、おれのちんこばかり見てたもんね」しょうちゃんが未熟な性器を見て言う。


「かっこいいだ? 自惚〈うぬぼ〉れてんじゃねえよ、てめえのちんこなんて、毛の生えたばかりの被りものじゃねえか」ペイタが声を荒げる。


「おじさんは、変身したおれのちんこ知らないからだよ。変身後のちんこみたらびっくりするよ」自信を持ってしょうちゃんが答える。周りの子供達も頷く。


「じゃあ、その変身したちんこを見せてみろよ、おれが鑑定してやるから」


 ペイタがそう言うと、しょうちゃんは両手で自分の性器を弄〈いじ〉くりだす。墨黒い皮に包まれた陰茎の先端は、雑に仮縫いされたように口を閉じていて、骨切りされた鱧〈はも〉の身のごとく皺々〈しわしわ〉な皮を余らせている。


「おまえ、それじゃ遅えよ。あそこに女が寝ているだろ? あの女の体を見て本気にしてこいよ、ほら、近くにとうもろこしが転がっているだろ? あれを拾ってくると見せかけて、女を眺めてこい。ただし、静かに行けよ、おそらくあの女は眠っていると思うから、起こさないように気をつけろ」


 ペイタが命令すると、瞬時に理解したしょうちゃんは恐る恐る歩き出す。焼けた砂を慎重に踏み、仰向けになっている女性の傍に近づいた。粒の残るとうもろこしを拾うと、しょうちゃんは立ったまま女性を覗き込んだ。


 大きく張りのある乳房を強調するように、両腋を開いて頭の後ろに腕を回す女性の姿は、ビーチチェアに体を寝かせてからまるで変わっていない。最低限の役割をこなす水着が小さなアクセントとして、白く艶〈なまめ〉かしい肌を引き立てている。ほどよい肉厚と瑞々〈みずみず〉しさがあり、どこにも荒れと弛みが見られない。


 ペイタは顔から汗を垂らしたまま、しょうちゃんの動静を見つめる(アノ馬鹿! アカラサマジャネエカ!)。右手で弄るしょうちゃんの陰茎は、太陽目指してかつてないほどに勃起した。陰嚢〈いんのう〉袋は引き締まり、おもい切り引っ張られている。土を吐き出すことを知らない蚯蚓〈みみず〉のように、外を知らない先端が苛烈に膨れている。


 とうもろこしを左手に持ち、「痛い! 痛い!」言いながらペイタの元に走って戻る。ペイタは険〈けわ〉しい顔をする(走ルナヨ! 目立ツジャネエカ)。


「おじさん痛いよ! ちんこの先っちょが痛いよ!」喚きながら、しょうちゃんがペイタの顔の前に股間を出す。子供達がしょうちゃんの性器に集まる。


「おめえ、なかなかやるじゃねか、こんなにでかくなるのも珍しいぜ? で、あの女はどうだった?」ペイタは胸にむかつきを起こさせる笑いをあげる(ハハハ、コイツ、カントン包茎カ? オモシレエ!)。 


「えっ? 眠っているみたいで、汗もかいてなかったし、すごい涼しそうだった。痛い痛い! おじさん痛いよ! どうしよう?」性器の状態を写すように顔を引きつらせて、しょうちゃんは陰茎をしっかり握っている。


「ああっ? 砂の中にでもつっこんで、静かにしてろよ、そうすりゃ直るんじゃねえの? 女の体なんて考えるなよ。おい、そのとうもろこしをおれの目の前に置いてからにしろ」


 しょうちゃんはペイタに従い、とうもろこしを手放すと、勢い倒れこんで砂の中に突起物を刺した。それでも痛みはひかないらしく、苦しい顔つきを変えず、落ち着かない動きをする。


「痛い! 痛い! 痛いよ!」呻〈うめ〉きながら、しょうちゃんは自然と腰を上下に動かし始める。


「うるせえな、じっとしてろよ、あの女の胸や股間なんて想像するなよ」ペイタが怒鳴る。


「痛っ! 痛い痛い痛い!」ペイタの声に反応して、青斑点の残る尻を揺らしてより早く腰を動かす。


「しょうちゃんだいじょうぶ?」としちゃんが声をかけ、砂をかけるのを止めた子供達も集まっている。全員裸である。


「じきにおさまるからほっとけ、それよりも、おれの体に砂をかけろ」


 ペイタがそう言うと、子供達は心配そうな顔を残して砂をかけはじめる。


「ああ、ああ」痛いとは言わなくなったものの、しょうちゃんは眼を閉じたまま顔を変に歪めて、より激しく腰を動かしている。


 ペイタはとうもろこしを見つめ(ヘヘヘ、アノガキノオカゲデ、トウモロコシガ手ニ入ッタゼ)、子供達がしょうちゃんを気にしながら砂をかけ続けていると、「うっ!」突然しょうちゃんが傷ついた芋虫のごとく、激しく体をくねらせた。


「しょうちゃんどうしたの?」としちゃんがよたよた駆け寄る。


「ああ、ああ」つま先まで足を緊張させたまま、股間からの波動に合わせてしょうちゃんは腰を動かす。


 しょうちゃんの声を耳にしたペイタは、醜悪な顔つきに変わる(クソガキガ、生意気ニ射精シヤガッタカ)。子供達が再びしょうちゃんの周りに集まる。


「だいじょうぶだいじょうぶ、落ち着いたからだいじょうぶ、おれはもうすこし休むから、みんなは作業を続けて」


 体の力が抜けてぐったりするしょうちゃんは、左の頬を砂に沈め、眼を閉じたまま言葉を発した。それを聞いた子供達は安心した笑顔を浮かべて、熱心に砂をかけはじめた。すでにペイタの背中から下は砂に隠れている。


 ペイタが夢中になってとうもろこしを見つめていると(コノ形ヲ咥〈クワ〉エルトハ)、静かにしていたしょうちゃんが再度腰を動かす。


「しょうちゃん、また痛くなったの?」としちゃんの正面にいる子供が声をかける。


「そうなんだ、また痛みだした。痛っ!」わざとらしい言葉の通り、しょうちゃんの顔はそれほど苦しそうではない。


「おい、しつけえぞ! もう砂かけなくていいから、ママのところへ戻れよ」ペイタが声を低めて言う。


「えっ? でも、ちんこが痛くて」いつの間に、ペイタと同じ方を向いて寝そべっている。


「気持ちわりいから、早くどっか行けよ!」ペイタの口調に鋭さが増す。


「でも痛くて動けない、はあ、もうすこし待ってよ」そうは言うものの、しょうちゃんの腰は器用に動いている。


「何やってんのペイタ! えええ? なんでこの子達と一緒にいるの? やだこの子、腰動かしてる!」突然現れたパツコが、息を切らせながら奇声をあげた。


「何って、見たまんまオナニーやってんだよ」ペイタは実に落ち着いて返事する。


「ああっ! エロババアだ!」


 腰を動かすのを忘れず、しょうちゃんが顔を見上げて叫んだ。その叫びに反応して子供達がパツコを見ると、笑顔を浮かべて砂を投げつけようと構えた。


「ちょっと、なんでこの子達がペイタと一緒にいるの? 何これ、なんで仲良くなってるの?」そう言いながらパツコは子供達から距離をとる。


「おいみんな、エロババアに砂かけて退治しろ!」変わらぬ動きを保持したまま、しょうちゃんが命令する。 


「こいつに逆ナンしたエロババアって、おまえのことか? おめえ、隠れて何やってんだよ!」凄い声を出してペイタが怒る。


「逆ナンなんかするわけないじゃん! この子がわたしにつっかかってきたの、やだ、まだ腰動かしてる」後退〈あとずさ〉りしながら弁解する。


 そこへ、遅れて歩いてきたスキンヘッドの男が登場した。パツコに尻を踏まれた、不自然に発達した筋肉の持ち主である。 


「どう? やっぱりお兄さんだったかい?」その場に居る全員に聞こえる、押さえ気味の低音を響かせて男がパツコに声をかける。


「あっ、長田さん、やっぱり兄でした、でも、わたしに砂をぶつけた子供達が、なぜか一緒にいます」パスコは振り返って、近づく長田に話す。


「宇宙人だ!」純然たる驚嘆を発し、砂を捨てて小さな子供達は逃げ出した。


「うわあああ!」切れそうな声を出してしょうちゃんが陰茎を砂から引き抜くと、封を切っていない太い魚肉ソーセージが現れた。


「きゃあああ!」女の子らしく、パツコは顔を手の平で覆って叫ぶ。


 長田に魂消〈たまげ〉たペイタは声も出ない(ナンダヨコイツ、クソヤベエゾ)。しょうちゃんが勃起したまま走って逃げていく。


「お兄さんが見つかったことだし、荷物も心配だからね、わたしは戻るとするよ」パツコの被る帽子を静かに触れると、長田はゆっくりと来た道を引き返した。


「ご親切につき添ってくれて、色々とありがとうございました」


 パツコが長田の背中に向かって深く頭を下げると、それを見ていたかのように逞〈たくま〉しい右腕をあげた。


「おい、なんなんだよあれは? なんであんなのと話してたんだ? 殺されるかと思ったぞ」腕と頭だけを晒すペイタが、捩〈ね〉じ切れそうなほど短い首を曲げて話しかける。


「もう、おおげさね、それより、その楽しそうな姿は何? ペイタ何やってたのよ、わたしひどい目に遭っていたんだからね」そう言い終わらないうちに、ペイタの体を隠す砂の山にパツコは跳び乗り、水色のスカートを舞いあがらせて飛び跳ねる。


「おいどけよ! 砂が落ちるだろ!」抵抗できないペイタは手をばたつかせる。

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