第76話 僕とボク -06

    六



「……」


 突然の告白に、僕は一瞬放心した。

 だがすぐに理解した。

 佑香はまだ、僕のことを……想ってくれていたんだ。

 見捨てていなかったんだ。


「嬉しい……」


 僕は今ほど、生きたいと思ったことはない。

 両想いだった。

 これ以上の幸せはない。

 ――と。


「ぶっ」


 突然、佑香が噴き出した。


「何か女の子みたいだね。言い方が」

「……悪かったな」

「本当悪いよ。雰囲気台無しだよ」


 佑香は、あははと笑った。


「で、英時はどうなの?」

「……僕は」


 僕は佑香を愛している。

 だけど……。


「僕は佑香のことを、傷つけた。堺の件だって、僕が言ったことを誇大解釈したことが原因だし、あいつらに報復して悲しませた。だから……」

「うるさいよ」


 その言葉と同時――



 僕の唇が――佑香の唇で塞がれた。



 思わず、硬直してしまう。

 間違いなくこれは――キス。

 唇と唇が触れ合っている。

 数秒後。

 ゆっくりと彼女は唇を離した。


「……」


 僕はまだ、固まったままだった。

 そんな僕に対し佑香は、


「ファーストキス、だったんだからね」


 頬を赤らめながら人差し指を唇に当てて恥ずかしそうに言った。その表情が、とても可愛かった。顔が熱くなるのを感じ、思わず、大きめな声を出してしまった。


「ぼ、僕もだよ!」

「じゃあ、奪っちゃったね。でも夢だからカウントしないのか」


 佑香はうふふと笑いながら、自身の唇に当てていた人差し指を僕に向ける。


「夢だから、私も君に謝らない。だから君も謝らないで。君の口から今、聞きたいのは、謝罪の言葉じゃなくて……私のことをどう思っているか、聞きたい」

「……」


 ここまできたら、もう仕方がない。


「……分かった」


 僕は覚悟を決めた。



「これが――僕の答えだ」



 そう言って彼女の両頬を手で抑え、佑香がさっきしたことと同じことを、今度は僕の方からした。

 二度目は、長かった。

 僕達はお互いを確かめ合うように、キスをした。

 長く。

 もっと長く、彼女と触れ合いたい。

 実感が欲しかった。

 僕がいて。

 彼女がいる。

 僕が彼女を好きで。

 彼女は僕が好き。

 キスをしている間は、それを感じられた。

 好きだ。

 好きだ好きだ好きだ好きだ。

 溢れんばかりに心の中で叫ぶ。

 この時間を、いつまでも感じていたい。

 幸せな時間を。


 この――儚い時間を。

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