第十章 ボクと過去と命の価値と決意

第59話 ボクと過去と命の価値と決意 -01

    一



 ボクは病気だった。

 心臓に大きな病気を持っていた。

 この病気は、お父さんと一緒だった。

 だから、分かっていた。

 治らないって。

 でも、毎日辛い治療は続いた。

 点滴は痛かった。

 薬は苦かった。

 食事はまずかった。

 何もかもが、苦痛だった。

 でも、ボクは忘れられなかった。

 お父さんは、最後に笑って死んでいった。

 お父さんも同じ位、苦しかったはずのに。

 お父さんは笑っていた。

 その強さが欲しかった。

 だけど、ボクにはそれが分からなかった。

 永遠に続くような毎日の苦痛。

 早く楽になりたかった。

 ただ、惰性で生きていたあの頃。


 だけど――ある時。

 ボクは一人の少年と出会った。



 その少年は、ひどくつまらなさそうな表情で椅子に一人で座っていた。

 ボクはその表情から「私と同じかもしれない」と考え、彼に話し掛けた。

 そして走れメロスを使って遠回しに……結局は直接的に、死にたいということを話した。ボクは彼が「僕も死にたいんだ」という言葉を言うと思って待ち構えていた。

 だが、彼が言った言葉は真逆だった。


「生きたい」


 それが彼の口から放たれた言葉だった。

 彼は語った。

 未来を。

 ボクはその時、初めて気がついた。

 ボクは、今しか見つめていなかったんだ。

 でも彼は、未来を見ていた。

 未来にはきっといいことあるよ、と彼は教えてくれた。

 そしてボクに本を書く、と彼は言った。

 これはボクが言った、メロスはセリヌンティウスに書いた本が『走れメロス』だという、当時ボクが考えていたことに基づいている。

 そう彼に言われた瞬間、ボクの中で何かが変わった。

 彼が言う本を書く。

 だから、それまで生きろ。

 それが、ボクの生きる希望になった。

 そして約束をした後、彼はボクに名前を告げる前に親に連れられて、行ってしまった。

 しかし彼は、振り向いて笑ってこう言った。


「じゃあ、またね」


 その言葉を、ボクは一生忘れない。

 また、その少年と会えることを信じて。

 だが、その少年とはまだ再会していない。

 しかし、その少年と出会った後、ボクは変わった。

 生きたいと思うようになった。

 そして、お父さんみたいに強くなるために、この時一人称を『ボク』に変えたのだった。

 その後も辛い治療は続いたが、ボクは耐えた。

 そしてある日突然――治った。

 ボクは喜んだ。

 お母さんも喜んでくれた。

 だけど、先生の話だといつ再発するか分からないそうだ。

 だから、ボクは強くあり続けた。

 ボクはまだ、『ボク』と言っている。

 なのに、どうして……

 その時――一筋の涙が頬を伝った感触がした。

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