第八章 ボクと誤解と水と恨み

第39話 ボクと誤解と水と恨み -01

    一



 サイレンの音が聞こえる。

 幼い時によく聞いた音。

 懐かしいとも言える音。

 遠くで鳴っていた小さな音。

 でも、今はとても近くに聞こえる。

 音の大きさは、同じようなものなのに。

 何故だろうか。

 あぁ。

 簡単なことだった。

 ボク自身がそのサイレンの鳴るものに乗っているのだ。

 救急車に。

 でも、何故乗っているんだろうか。

 あぁ。

 そうだった。

 ボクは倒れたんだった。

 学校のトイレで。

 ……。

 ……胸が痛い。

 とても痛い。

 昔と同じだった。

 この痛みの強さは。

 そしてこのことから、ボクは理解した。

 浅い意識の中でも、理解した。

 嫌でも、理解させられた。


 もう日常には――戻れない。


 こんなことになるとは、夢にも思っていなかった。

 いつも通りの日常が続くと思っていた。

 普通に話して。

 普通に遊んで。

 普通に怒って。

 普通に笑う。

 そんな毎日だったのに。

 とても、幸せだったのに。

 どこだろう。

 どこから狂ってしまったのだろう。

 ……問うまでも無いことだったな。

 あの時。

 あの時に違いない。


 そう。

 ボクが、英時と遊園地に行った日。


 英時とのデートの日。

 先週の日曜日。


 この日が。

 この最高でも、最低でもあった日が。

 始まりで――終わりだった。

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