第32話 僕とデートと告白と衝撃 -02
二
「ふぃー。思ったより結構歩いたねぇ」
「うん。この地図の縮尺、絶対間違っているよね」
次のアトラクションに向かう途中のカフェで、僕達は休憩を取っていた。このカフェは見晴らしが良くて、しかもその中でもなかなかの席が取れた。
「さて、死神さんは何を頼む?」
「んん。じゃあ、ボクはオレンジジュースで」
「じゃあ、頼んでくるから、席で待っていて」
「うん」
このカフェは、注文したら席の番号を言えば持って来てくれるというサービスをしている。ちなみに僕達の座っている席は『ピザの六』。訳が判らない。とりあえず僕は注文を告げて彼女の元へ戻ろうとした――のだが。
「コーヒー飲むの? おっとなー」
「うわっ! 広人」
広人が僕の足元にいつの間にかしがみ付いていた。
「何やってんだよ! 気持ち悪い!」
「しー。静かに。ばれるだろ」
「誰に?」
「真美、奈美に」
広人は恐る恐る首を二、三回振って「……大丈夫か」と安堵の溜息をつく。
「ちょっと、俺の話を聞いてくれないか?」
「……分かった。でも、ここで話すわけには行かないのか?」
「うん。だから……そうだ。男子トイレに来てくれ」
「了解」
ということで、男子トイレに来た僕と広人。都合がいいのか悪いのか、トイレには誰もいなかった。
僕は大きく溜息をついて、じと眼で広人を見た。
「ってか、お前、何でいるんだよ?」
「それはごめん。あの二人に言われて来てしまった」
「まぁ、それはいいとして……話って?」
「あぁ。知っていると思うが……俺は好きなんだよ」
「はぁっ?」
人生で二回目の告白は男からでした。っていうか、誰もいないトイレに二人というこの状況は、とてもやばいですよ。
「えっと……話が見えないんだが……」
「いや、俺は好きなんだ」
「誰が? 誰を?」
「俺が、真美と奈美を」
「あぁ、そっちか」
危うく禁断の花園になるところだった。
「んで、それがどうした?」
「お前、今日、鈴原さんに告白するんだろ?」
「ん、あぁ。そのつもり」
お前の言う通り、観覧車でな。
「んでよ……その……」
広人は、恥ずかしそうに眼を伏せた。
「俺も思い切って、告白しようかしないかどっちかなぁって」
「ふぅん、すれば? 頑張って」
「うわ、つめてぇ!」
「冷たいも何も、僕が何をしろって言うんだ?」
「相談にのれって言うんだ」
「相談?」
「あぁ」
広人は頷く。
「それでさ、もし告白するなら……どっちから先に告白した方がいいかなぁ?」
「どっちって?」
「真美と奈美」
「そんなの、好きな方からでいいじゃないか」
「どっちも好きだから訊いているんだよ」
「いや、そういう意味じゃなくて……」
僕はまた大きく溜息をつき、なげやりに言った。
「どっちも好きなら、両方同時に告白すれば?」
「おぉ。その手があった」
「でも広人、実際にやったら、絶対にこう言われると思うよ」
「こうって?」
「『私達のこと好きだって言うけどどっちが好きなの? どっちもとかいう選択肢は日本では認められていない。一夫多妻じゃないんだよ。そんな私達を個人として見てくれない人のことをどうして好きになれるっていうの?』って」
「好きになれる。いや、好きにさせてみせる!」
広人は胸を張って、自信満々にそう言った。僕は半ば呆れながら眉を潜める。
「……でも広人、最終的にはどちらかを選ばなくちゃいけないんだぞ。それはお前のためにも、真美、奈美のためでもあるからな」
「うん……そうだよな。分かっているんだよ。そんなこと」
広人は大きく息を吐き、辛そうに呟いた。本当に、とても辛そうな表情だった。僕は慰めのために、広人の肩をポンと叩いた。
「まぁ、その前にどっちが真美でどっちが奈美か見分けられるようにしなよ。そうすればまた、最終的な選択肢への道が出来るって」
未来への可能性を提示してみた。こうすれば広人はとりあえず、その見分け方に集中し、先の問題を後伸ばしに出来るだろう。それでいいのかは分からないが、とりあえずそれしか僕は出来なかった。
――だが、そこで広人は予想外の発言をした。
「え? 俺はもう、どっちが真美か奈美かは見分けつくよ」
「……何ですと?」
「どちらかというとちょっと活発なのが真美で、ちょっと控えめなのが奈美だろ。判ってみれば実に簡単なことだったよ」
「……そうか」
まさか見分けられるとは思ってもみなかった。ついおおよそ一週間前には「二人を見分けられなくて恥ずかしい」って言っていたのに……予想外だ。どうしよう。どうやってフォローしよう……。
そう悩んでいると、広人は大きく首を縦に動かして、
「うーん……でもやっぱり、告白するのはまだにする」
「へ?」
突然の保留宣言。
何もかもが予想外だった。
っていうか話の流れ的におかしいだろう。
しかし、そこで止める理由もメリットもない。
「そうか。頑張れよ」
「うん……でも『頑張れ』は、俺がお前に言う台詞だよな」
「そうかもな」
あははと笑いながら、こっそりと腕時計を見る。すると、いつの間にか一五分も経っていた。僕はそのことを悟られないように、さり気なく広人の肩をポンと叩き、
「じゃあな、僕は佑香の所に戻るよ」
「おう。英時、頑張れよ」
広人は笑顔で、左手の親指をグッと上に向けた。
「あぁ。頑張るよ」
僕も同じように笑った。
その後は当然のことだが、佑香に怒られた。まさかここに三人がいることを伝えるわけにもいかず、トイレに行っていたという事実だけを話したが、どう捉えられたんだろうか、少しだけ不安である。
まぁ、それは置いておいて。
ある程度このカフェで談笑していると「お腹がすいた」と佑香が口にした。ちょうどいい頃合だったので、僕達はカフェのすぐ目の前にある食堂へと足を運んだ。
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