第33話 僕とデートと告白と衝撃 -03
三
「……これは、やっぱり、と言った方がいいのか、それとも、まさか、と言った方がいいのか分からないね」
僕は呆れていた。
「味噌味の特盛ラーメンを本当に頼むとは……流石に二丁は無理だったみたいだけど」
「い、いいじゃない。別に。美味しいんだから」
佑香は満足そうな顔でラーメンをすする。そんなに細いのによく入るものだ。
「それより、英時はそれだけでいいの?」
「ん?」
僕は自分の食べているものに目を落とした。
豚骨ラーメンの並。
「これだけでいいんだよ。僕はお金をあまり持っていないからね」
「何で?」
「倹約家だからさ」
「ケチなんだね」
「そうじゃない。もしお金がたくさん手に入ったならば僕はドカンと使うよ。だからケチとは違うって」
「ふぅん……じゃあ、お金をたくさん手に入れてよ。そしてボクにドカンと奢ってよ」
「どうやって?」
「んー……宝くじとか?」
「やろうと思ってやれるものか?」
「じゃあ、他に何があるの?」
「そうだね。てっとり早く稼ぐなら……芸能人になるとか?」
「そんな簡単になれ……いや、なれそうだ。英時なら……」
「芸能界を舐めるな!」
「えー? 自分で言ったんじゃん!」
「そうだけどね。うーん……他に方法は……」
「えーっと……発明をして特許取るとか?」
「あ、駄目だ。僕、どっちかと言えば文系だしな」
「ほとんどのテスト、ほぼ満点のくせに」
「文系のはわざと間違えているけど、理系のは本当に間違っているんだよ。だから理系ではないんだよ」
「うわ。今、さり気なく凄いことを言った」
「……まぁ、とにかく。だから特許は無理」
「んん……君は文系なんでしょ。だったら……」
佑香は少し考え込むと「あ!」と手をポンと叩き、箸を僕に向けた。
「本を書くんだよ!」
「……え?」
「本を書くんだよっ! 売れたら大金持ちだよ!」
彼女は嬉しそうな顔で僕に語り掛けてくる。
だが――僕はその言葉に何か引っかかっていた。
『本を書く』。
最近、誰かにそう宣言した夢を見たような覚えがある。何でそう言ったかは……思い出せない。思い出せないことはそんな重要なことではない、というのが僕の持論であったが、このことはとても重要なことであると感じた。思い出せないのは本当に何故だろう。
しかし、それにしても……。
「本を書く、か……いいかもね、それ」
「でしょ!」
佑香が嬉しそうな顔で身を乗り出してきた。
「これが一番、学生でもお金稼げる方法だと思うよ!」
「書いてみますか。将来、作家になるのもありだね」
「お金入ったら驕ってね。……って、さっき英時、小学校の先生って言ったじゃん」
「あ……」
「まさか忘れていた?」
「い、いや、そんなことはないよ……」
本当は佑香と同じ夢にしたかっただけ――とは言えなかった。子供が好きというのは偽りではないが、それよりも佑香の方が好きだった。安易ではあったが、そんな形で夢を決めてしまっても良いだろう――と僕は僕なりにそう考えていた。これからまだ長い人生だし、今まで将来の夢なんて目的が無かった所からのきっかけとしては、そのような形でも先に進めたのだから。
「と、とにかく、書くのは趣味で作家でありながらの、本業は小学校の先生ってもありじゃない?」
「まあ……ありね、それは」
佑香は顎に手を当てて頷く。
「先生しながら副業で出来るものって他に何があるのかな?」
「先生って結構時間取れないらしいね。だけど他には……」
こんな風に色々、長い間討論を続けたが、題名を決めることは出来なかった。それでも、話をしているのはとても楽しかった。
こんな時間が、いつまでも過ぎればいいのに。
そう思った。
その後、色々なアトラクションを回ったが、特に楽しかったのは迷路だった。補足すると、そのアトラクションではあの例の三人に物凄く邪魔された。一人は自覚なしだったけど。まぁ、それも含めて楽しかった、ということで。
そして日も暮れかけた頃。
僕と佑香は、観覧車へと向かった。
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