第七章 僕とデートと告白と衝撃
第31話 僕とデートと告白と衝撃 -01
一
「やっほー」
佑香が手を広げて嬉しそうにはしゃいでいる。
僕は今日、地元の遊園地に佑香とデートに来ている。
「たのしー!」
そんな楽しそうな彼女を見ると、自然に頬が緩んでくる。
同時に、気も引き締まる。
そう。――今日は重大な日。
ボクはあることを決意していた。
佑香に――好きだということを伝える。
だから、今日の行動は注意して行う。
佑香の機嫌を損なわないように。
告白できる雰囲気に持って行くように。
大丈夫。
僕は事前に、今日のデートのアドバイスを貰っているのだから。
◆
「――いいか、英時。遊園地でデートする時は、絶叫マシーン好きな相手じゃない限り、絶叫マシーンは後にするんだ」
「何で?」
「馬鹿。それがテクニックなんだよ。絶叫マシーンで興奮を高まらせておいて、そして最後に観覧車で告白する。王道でベターだ。だからこそ、成功率が高い」
「……そうか。試してみるよ」
「でも……好きだと知ったらすぐ告白なんて、お前らしいな」
「僕らしい?」
「一般とは違うってことさ。普通は今の関係のままぐだぐだしたくなるものだよ」
「そんな少女マンガみたいなことはしないよ」
「……なぁ。一つ疑問なんだが、何で少女マンガを読んでおきながら、『好き』を知らなかったんだ?」
「あぁ、それは実感がなかったんだよ。マンガはマンガ。現実は現実とちゃんと区別していたからね」
「じゃあ、小学校や中学校の時に告白とかされなかった?」
「ううん。全く。告白されたのは堺さんが初めてだよ」
「俄かに信じがたいな」
「信じられると思うよ。小学校の時は精神的にかなり未熟で他人を見下していたから、誰も寄って来なかった。中学校の時にようやく今のような態度にはなったけど、それでも告白はされなかったよ」
「……まぁ、中学校の時には極端に、ある勢力が出来るからな」
「ある勢力って何?」
「いや、ファンクラブとかさ」
「あはは。そんなことあるはずないじゃないか。そんなマンガみたいな話」
「あるんだよ。現に鈴原さんだってファンクラブがあるだろ」
「え? あれって、真美、奈美の冗談でしょ?」
「冗談も何も、あいつらが創設者だ」
「……それは知らなかった」
「ついでに、お前のファンクラブの創設者は俺だ」
「何やってんだよ!」
「俺がお前を思う気持ちは、誰にも負けないさ」
「広人……」
「英時……」
見つめ合う僕達。
そして吐息を零して、僕は告げる。
「……お前とはこれまでだな。じゃあな。屋上で熱く語り合ったことを僕は忘れないよ」
「ちょ……冗談だって」
「冗談でも鳥肌が立ったよ」
「ファンクラブには意味があるんだって。お前達を守るっていう役割が」
「どういうこと?」
「考えてみろよ。鈴原さんはあんなに可愛いのに、他校からナンパされたとかないだろ」
「知らないが、おそらくないだろうな」
「それは、ファンクラブで守っているんだよ。みんなのアイドルでいてほしいが為、抜け駆けは許さない。乱す奴は顔を晒して外を歩けると思うなよ。by真美・奈美」
「……恐ろしいな」
「でも、そのおかげで誰も手を出さないんだよ。あ、ちなみに堺さんはあの時抜け駆けしようとしたけど、俺が特別に許可したし、他の人には言わないから大丈夫。だからあまり堺さんに告白されたことを言いふらすなよ」
「そんな事情があるなら、いや、なくても言うつもりはないよ」
「それならいいけど……ってなわけで、俺が言いたいことは」
「うん」
「ファンクラブの創設者三人がいるから、お前達がデートをすることを他の奴には知られないように出来るんだ。感謝してくれよ」
「え、そうなの?」
「そうなの。俺はこれから工作しなくちゃいけないから、ちょっと行ってくらぁ」
「な、何でそこまで……」
「何を言っているんだ! 親友だろ!」
「広人……ありがとう」
「おう。じゃな。当日は俺がいないからな。ちゃんとやれよ」
「うん、分かっている」
「幸運を祈るぜ」
◆
……と。
そんな感じに格好よくアドバイスをしてくれた広人よ。
その言う通りに絶叫系は避け、コーヒーカップに乗ったよ。
そこで僕は、思わぬ光景を見たよ。
まさか、高速で回るコーヒーカップの中に――てめえがいたなんて。
ってか真美と奈美もいるじゃん。
何しているんだよ、創設者。
……まぁ、いい。ある程度は予想が付いていたことだ。
今は、今を楽しもう。
でも……後でちょっと問い詰めるか。
そして僕は、あいつらがいることを忘れようと、全力でコーヒーカップのテーブルを廻した。
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