第24話 僕と舞台裏と告白と自覚 -06
六
そして時間は経って――後夜祭。
日が沈んで薄暗闇となった校庭の中央にはキャンプファイヤーの炎が轟々と煌めき、大勢の人々が集まっていた。ペアを組んでいる者、誘っている者、誘われるのを待っている者など色々いた。
その中で僕達五人は固まって談笑していた。
と。
『――お待たせいたしました。これから後夜祭のプログラムを始めます』
「お、いよいよ始まるのか」
広人はそう呟くと突然、真美と奈美の目の前でひざまずいた。
「わたくしめと踊ってくれませんか、お嬢さん方?」
「「……」」
二人はお互いを見て、広人を見て、お互いを見て、そして頷いた。
「真美、踊ろうか」
「いいよ。奈美」
「え、ちょっと、お二人さん?」
「行こう。真美」
「えぇ、奈美。あなたとならどこまでも」
「え、ちょっ……ちょっと待ってくれよ……」
真美と奈美は見えない鎖で広人を繋ぎながら、何処かへと行ってしまった。
自然とその場に取り残される、僕と佑香。
「……佑香」
「なあに、英時」
「真美、奈美って広人のこと、どう思っているんだ?」
「あんな風にからかっているということは気に入っているんでしょう? あの二人は本当に興味が無かったら何もしないよ」
「そっか。じゃあ、良かったな」
親友の恋路が進んでいるのは素直に嬉しい。
……だったら、僕も進むしかない。
進みたい。
僕は意を決して彼女に向き合う。
「ん? どうしたの英時?」
「あの、えっと……」
そうだ。
こういう時は先人の知恵を借りよう。
「わたくしめと踊ってくれないでしょうか、お姫様?」
僕は先程の広人と同じような仕草で、彼女に問い掛けた。
……しまった。
色んな意味で間違えた。
しかもお姫様って何だよ。
「あ、あの、えっと、佑香、今のは」
「……ぷっ」
佑香が噴き出した。彼女はくすくすとお腹を抱えてひとしきり笑う。何とも居たたまれない形でその手を出したままになっていたが、
「……はい。喜んで、王子様」
手を取ってくれた。
……取ってくれると思っていなかった。
そう驚きで反応できなかった所で、アナウンスが校庭内に鳴り響く。
『ではダンスの開始です。皆様、お楽しみくださいませ』
「行こうか、英時」
「……何か、佑香の方が王子様みたいだね」
「あはは」
煌びやかな中心へと向かいながら、佑香がそれに負けないくらいの笑顔を見せてくる。
「しっかし、『お姫様』はないでしょうが。くっさい台詞を言うねぇ」
「それに『王子様』って返す佑香もね」
「あはは。そうだね」
「……」
「どうしたの?」
「いや、何でもないよ」
どうやら気が付いていないらしい。
周りにいる男達がみんな恨めしそうに僕を睨んでいることを。彼らは眼で語ってくる。
ちょっとの罪悪感と大きな優越感。っていうか睨むんだったら、僕より前に踊るのを申し込めばよかったじゃないのか。
と、そこで、僕はあることに気がつく。
しなかったんじゃない。出来なかったんだ。
ある二人が、佑香が連中に誘われないように、しっかりとガードしてくれたのだ。
多分。
いや、そうに違いない。
ありがとう、真美、奈美。本当に感謝する。
そして、君達の努力を無駄にしない。
……うん。決めた。
僕は先に進む。
まずは学校以外でも彼女ともっと触れ合う。
デートをする。
そして、そのデートで僕は――
「……本当にどうしたの?」
考えを張り巡らせていた僕に、佑香が不審人物を見るように眉を潜めてくる。僕は苦笑しながら肩を竦める。
「今、神様のようなお二人さんに祈っていた」
「あはは。何それ。そんな神様に願いごとをするよりも、ボクに祈った方が願いが成就する確率は高いよ」
「うん。それは間違いないね」
「……何で真顔で返すのさ」
だって本当のことだもの。
「まあいいや。ほらほら試しに言ってみなよ」
「一八禁は駄目?」
「断じて駄目!」
「そうか。じゃあ慎重にしないとね」
「何で真っ先にその前置きが出てくるのさ……ボクに何を言うつもりだったの?」
「まあそれは秘密ということで」
「……えっち……」
「男は皆、変態なんだよ。気を付けな」
「うわあ、言ったよこの人……幻滅だよ……」
「幻滅したの? じゃあうそうそなしなし冗談だよ」
「じゃあ、って何さ」
「じゃあえっちな願いでもいい?」
「じゃあ、って何さ」
「同じ反応だね。えっと、じゃあ……」
ここで言うべきだろう。
行け。英時。
男を見せろ。
……よし。
僕は覚悟を決め、大きく息を吸って、彼女の目を真正面から見て言った。
「来週の日曜日に、僕と遊園地に行ってくれない?」
「……っ」
ピタリと、佑香は足を止めた。
しまった。このタイミングで誘うべきではなかったのか。
完全に失敗だ。
少し重苦しい雰囲気が漂いそうだったので、僕は先と同じように冗談だと告げるべく口を開こうとした。
だけど。
「――いいよ」
その前に佑香は言った。
間違いなく、肯定の言葉を口にした。
そして彼女はこちらに手を差し伸べながら、にっこりと微笑みを見せてきた。
「行こうよ、デート」
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