第23話 僕と舞台裏と告白と自覚 -05
五
「……おう、結構早かったな」
体育館の前、正確に言うと体育館に行く道に広人は立っていた。
「まだ連絡していないのに……」
「大体分かるんだよ。そういうの」
「分かるのか」
「まあ偶然だけどな。ってかさ……副委員長からのやつ、告白だったんだろ?」
やっぱり、広人は知っていたのか。
「あぁ、そうだった」
「んで、どうだった?」
「断ったよ」
「ん、そっか。やっぱりな」
「そして……やっと判ったよ。全てが」
好きとは何か。
そして、僕が好きな人のことを。
「そっか」
広人は、にかっと笑いかけてきた。
「じゃあ、行くか」
「行く?……って何処へ?」
「ここだよ」
と、広人が指差したのは、体育館の入り口。
「何のために、俺がこの場所にいると思うんだ?」
「何のため?」
「お前のためだよ」
「僕のため?」
「これを見ろ」
広人が携帯の画面をこちらに見せてきた。その画面は通話アプリで、メッセージが映っていた。
「お、真美、奈美と番号を交換したのか。そこまで進んでいたのか」
「この文化祭で色々と策を巡らせてな。……って、そうじゃなくてメッセージを見ろよ」
「ん? えっと……『体育館前で』」
「待っていて」
その声は背後から。
咄嗟に振り向くと、そこにいたは――
「って、真美、奈美経由でそう伝えたんだよ、英時」
浴衣姿の佑香がいた。
髪の毛を後ろで一つに纏め、見えるうなじが色っぽい。何より紅を引いているのか、いつもより大人っぽく見える。浴衣自体は落ち着いた紺色であるものの、彼女自身の美しさを引き立てていた。
「……」
完全に見惚れていた。目線を逸らせなかった。
先のことにより自覚した、好きという気持ち。
その相手が、こんなに綺麗な格好で目の前にいる。
ならば目を引かれても仕方ないだろう。
「……英時?」
「ん、ああごめんごめん」
ずっと呆けていた僕はその声でハッと気が付く。佑香が少し不思議そうな顔でこちらを覗いてきていた。そんな様子も可愛らしい。――僕はそんな内心の動揺を隠すべく、とりあえず見たままの疑問を口にした。
「浴衣、どうしたの?」
「これ、真美と奈美がどこからか用意したやつなんだよ」
「そうだよ」
「ちょっとしたつてでね」
ひょこ、っと左右から桜姉妹が出てくる。
「あ、いたんだ、二人共」
「あらあら真美さん、これはひどいですわよ」
「あらあら奈美さん、完全に佑香しか目に入っていなかったわね、これ」
その通りだからぐうの音も出ない。だから誤魔化すことにした。
「さっき言っていた時間ってのは、着替える時間ってことだったの?」
「そう。あと着付けできる人の身体が開く時間」
「めっちゃ忙しいらしいからね」
「危なかったよね、あれは。あんなに人気だとは」
真美、奈美と続いて佑香がホッと胸を撫で下ろした所で、
「お、真美、奈美と鈴原さん。浴衣似合っているじゃん」
広人が三人に声を掛ける。
その言葉に、真美と奈美の目が少し開く。
「……今のはポイントプラス」
「……素直な褒め言葉は好印象」
「え? マジ? やったーっ!」
広人が喜んでいる。良かった良かった。……と思いつつも、そこでとあることを言っていないことに気が付いた。
僕は改めて佑香に向かい、告げる。
「浴衣、とても似合っているよ、佑香」
「え、あ、う……あ、ありがとう……」
真正面から褒められたことが嬉しいのか、顔を赤くして彼女は礼を言ってきた。可愛らしい。
「あ、あはは……さ、さて問題です」
「どうしたの、急に?」
「唐突にクイズ出したくなったの。で、問題です」
佑香は人差し指を立てて、口角を上げる。
「ボク達はどうして浴衣を着ているのでしょうか?」
「少し肌寒くなっている季節なのに、ってこと?」
「うん」
「大丈夫? 風邪ひかない?」
「あ、うん。色々と中には防寒対策をしているから……って、そうじゃなくて、クイズクイズ」
「浴衣を着ている理由が何でか、ってことだよね」
「うんうん」
「思いつく所は一つかな」
おっ、と反応する佑香に、僕は回答する。
「後夜祭のダンス、じゃないか?」
「ピンポンピンポーン。ダンス、すなわち踊りだから着てみました。踊りに当たって衣装は何でもいいってさ」
「ああ、社交ダンスみたいなやつじゃないんだ」
「あはは。そんなの踊れる高校生なんていないよ。……いや、英時、踊れそうだな……」
「流石に無理です」
テレビで少し見ただけだから。
「ま、それはともかく」
そう言って彼女は僕に、右手を差し出してきた。
「後夜祭のダンス、一緒に行こうよ」
「うん」
僕はその手を迷わずに取った。
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