第六章 ボクとデートと観覧車と『希跡』

第25話 ボクとデートと観覧車と『希跡』 -01

    一


 演劇。

 ロミオとジュリエットの男女逆バージョン。

 やらなきゃよかった。

 劇自体はそう思った。

 だけど、悪かったことだけではない。

 劇の練習を通じて、そしてその後の文化祭を通じて、ボクは英時と更に仲良くなれた。

 そして彼は誘ってくれた。

 休日にボクを誘ってくれた。

 どれだけ嬉しかったか。

 その後にどれだけこの日を待ち望んだか。

 だからあっという間だった。

 既にその日は、今日。

 今日は絶対に楽しいのだから。

 何故、絶対楽しいと言い切れるのか。

 それは、さわりを聞くだけで判る。

 そう。

 今日は英時との――デートの日なのだ。


 日曜日。

 窓から見える空は、小さい雲が五つくらいしかない快晴。ベッドの中から浴びる朝日はとても清清しかった。


「んー。気持ちのいい天気」


 大きく伸びをする。

 今日は絶好のデート日和だ。

 時計を見ると、時刻は八時。

 休日にはいつも寝ている時間だった。


「やっぱり約束していると、責任感からちゃんと起きるんだなぁ。ボクってえらいなぁ」


 そう自分で自分を褒める。

 ちなみに約束の時間は一〇時。

 余裕で間に合う。

 とりあえず、朝の寝惚け頭をすっきりさせるため、外の空気を吸おうとベッドから飛び起き、窓を開けた。


「……」


 その瞬間に口も開いた。しかも塞がらなかった。


「あ、おはよう、佑香」


 家の前に英時がいた。

 約束の時間はまだであり、しかも待ち合わせは駅のはずである。

 一瞬、寝惚けているのかと思って布団に戻ろうかと思った。

 けれど、違った。

 もう完全にボクの目は覚めていた。

 だから訊ねた。


「……英時、何処で何をしているの?」

「え? 佑香の家の庭で佑香を待っているんだよ」

「……それじゃあ、今、何時だと思っているの?」

「何時?」

「八時」

「へぇ。じゃあもう四時間は経ったのか」

「……ちょっと待って。いつからいるの?」


 計算すると四時――……深く考えないことにしよう。


「ま、とりあえず中に入って」

「え、いいの、佑香? パジャマ姿で応対してくれるの?」

「勿論、ボクは着替えるけどさ……っていうか、そのまま外にいたい?」

「いえ、結構です。入れてください」

「どうぞ」

「では、お邪魔します」

「ちょちょちょちょちょっ! 窓から入らないでよっ!」

「え?」

「普通に玄関から入れ!」

「何で? 部屋に何か隠しているものでもあるの?」

「そうそう。ベットの下に……って違う!」


 そんな掛け合いをしたものの英時はちゃんと玄関に入ってもらい、お母さんに相手を……いや、お母さんの相手をしてもらっている内にボクは着替えを済ませて居間へと向かった。因みに服は昨日時間を掛けて選んであったので問題ない。だけど、その着替えの途中でこっそりと身だしなみを整えていたので相当な時間は掛かっていたようだが。

 そうやってお母さんとどうやって過ごしたかは後ほど聞くとするが、ぐったりとしていたので相当な心労だったのだろう。お察しします。

 そして彼は朝ご飯を食べていなかったらしいので、三人で味噌汁と白米というオーソドックスな朝食を摂った。

 その後、ボクは出ようと思っていた時間よりも少し早めに英時と家を出た。

 道中に朝、何があったのかを聞いた。

 察した通りだった。

 しかしながらお母さんの話をしているだけで道中の会話は弾み、あっという間に目的の遊園地へと辿り着いた。

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