第21話 僕と舞台裏と告白と自覚 -03

    三



 お化け屋敷を出た後。

 僕はニヤけていた。

 お化け屋敷で何があったかは言いたくない。

 いい意味で。


「……何をにやにやしているんだよ、英時」

「いいや、何でもないよ、佑香」


 本当に幸せな時間をありがとうございました。

 更にもう一つ。

 自然と呼び名が「英時」「佑香」となっていた。

 佑香のお母さんに感謝しかない。

 そしてお化け屋敷を楽しんだ後、僕達は近場のクラスでやっていた『和やか喫茶』という店でお茶を飲むことにした。文字通り和やかな雰囲気の中、それにそぐわない大きな溜息が隣から聞こえてくる。


「はぁ……そっちは楽しかったみたいだな」

「見るからに落ち込んでいるが、どうした、広人?」

「二人とも抱きついてくれなかった……」

「当たり前よ」

「あんな妄想が実現するわけがないでしょう」

「……」


 いや、実現しちゃったんですけど。『僕がついている』のくだりはしなかったけど。

 その時のことを思い出したのか、佑香は顔を真っ赤にした。多分、僕に怖がっている自分を見られて、恥ずかしかったんだろう。


「にしても……怖がった様子を見せないどころか、お化けに対して微塵にも反応しないのはないよなー」

「そう?」

「じゃあ、こうして欲しかったの?」

「「こわーい」」

「え……?」


 僕は目を疑った。

 広人に真美と奈美が抱き付いた。

 広人は顔を真っ赤にさせて大いに狼狽した。


「あ……いや……その……あの……お二人さん?」

「「なーんてね」」


 ぱっと二人は広人から離れた。


「どうだった、二一番?」

「どう……って言われても……」

「結局、こうされても何も出来ないじゃない」

「あれー? 『僕がついている』って言うんじゃないのー?」

「う……ぐぅ……」


 ぐぅの音は出ているが何も言えない広人。それを無表情で眺めている双子が、


「「あ」」


 突然、何かを思い出したかのように声を上げた。


「んん? どうしたの?」

「佑香」

「時間だ」

「えっ……あ、本当だ」

「時間って何?」


 しかし佑香は僕の質問には答えず、両手を合わせて言った。


「ごめんっ! 英時、高見君!ちょっとこれからは別行動でっ!」

「はい?」

「本当にごめんねっ!」


 脱兎のごとく。ってか兎というよりも豹のような早さで、どこかへ行ってしまった。


「……」


 突然の離別。いや、そんな大げさなものではないけど……

 その場に残された男二人。

 唖然としている男二人。


「……どうしろっていうんだよ」

「……」


 広人は、黙ったまま答えない。


「……これからどうしようか?」

「……」


 広人は黙って席を立ち、そして口を開いた。

 その発した言葉は――


「……お茶代、割りカンな」


 会計の話だった。

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