第14話 僕と学校と判明と親交 -06

    六



 笑い声がしばらく続いた後、僕達は屋上に寝転がった。

 夕日が綺麗だった。


「なぁ、広人」

「何だよ」

「さっき殴ったので、お前が諦めたことは許してやる。これで貸し借りなしな」

「……貸しが多すぎないか?」

「いや、僕は悪徳金融じゃないから、貸しは多くないぞ」

「んじゃ、そういうことにしておくよ」


 ははっと広人は笑うと、一転、真面目な口調で言った。


「あのな、一つ聞きたいことがあるんだけど……」

「お? 早速、恋の相談か?」

「……」

「どうした?」

「……いや、何でもない。あ、えっと、聞きたいことっていうのはな、あの双子のことなんだ」

「あの双子……桜姉妹のことか?」


 桜真美。

 桜奈美。


「そう。その双子だよ。お前、どうやって二人を見分けているんだ?」

「うん。簡単だよ。見た目で判るって」

「判らないから聞いているんだよ」

「え? 何で判らないの。真美の方が奈美より一ミリ背が高いし、肩幅も奈美の方が二ミリ広いし、左耳にかかっている髪の毛がいつも十二本程、真美の方が多いよ」

「……判らねぇって。そんなこと」

「でも、もっと簡単に判ることがあるよ」

「それだ。それを聞きたかったんだよ。んで、何?」


 僕は人差し指を立てて言う。


「奈美は素直だ」

「……は?」

「真美は学年トップだろ? だけど、奈美は下から数えた方が速い。運動は逆だけどな」

「そうだけど……それは関係ないだろ」

「いや、だから、その……うん。平たく言うと、奈美の方が頭が回らないんだよ。だから、その……素直なんだよ」

「素直って……はっきりと馬鹿だ、と言えばいいのに」

「口にするのあんま好きじゃないんだよ。人のことを馬鹿呼ばわりするのはさ」

「そういうものか?」

「そういうものだ」


 自分が人を見下すような感じがして嫌だ。

 コンプレックスだらけの自分なのに。


「ふうん……でもさ、あいつら二人ともクールだろ? 普段の言動からどっちが素直かは、判断できない……」

「いや、判断出来る方法があるよ。真美は人を出席番号で、奈美はイニシャルで呼ぶだろ?」

「あぁ。そうだな。それぐらいは俺も知っているさ」

「だから、人を出席番号で呼ぶのは、必ず真美なんだよ」

「何でだ?」

「奈美は、成績如何に関わらず素直だ。それ故に奈美が出席番号で人を呼ばない。だから二人に、こう聞けばいいんだよ『あいつは誰だ?』ってさ」

「さりげなくさっきの発言を引っ込めたな。しかし……なるほど。天使村と悪魔村の問題みたいだな。んで成功するのか?」

「試したことはないけど……ま、大丈夫じゃないか?」

「そうかなぁ……って、あ」


 広人が、何かに気付いたように声を上げた。そして「……真美と奈美といえば」と言いながら首をゆっくり左右に振ると、何故か青ざめた顔になった。


「どうした、広人?」

「お、お前……大丈夫かよ?」

「お前が大丈夫か?ってか何をだ?」

「いやいや……俺が焦るべきではないんだけど……いやでも俺の責任だから俺が焦るべきなのかもしれないけど……だけど……」

「おいおい、どうしたんだよ?何をそんなに焦ってのたうち回っているんだよ?」

「お前……完璧に忘れているのかよ……」

「だから、何をだよ?」

「す……」

「酢?」

「鈴原さんのこと」

「……あ」


 すっかり忘れていた。

 友情に酔いしれていた。


「やばい」


 僕は慌てて飛び起きた。

 辺りを急いで見渡したが、佑香の姿はなかった。


「……まずい」


 僕は血の気が引いていくのを感じた。


「おいおい、どうするんだよ?」

「あ、うん。えーと……」


 どうするったって……うん、こうするしかないだろう。


「ごめん、広人」

「ん、何だ?」

「僕、鈴原さんに怒られてくるよ」

「はっはっは」


 広人は豪快に笑った。


「俺にそんなこといちいち断るんじゃねぇよ。行って来いっ!」

「あはは。じゃ、行って来るよ」

 僕は屋上に来た時と同じような速さで、佑香を探しに階段を降りた。

 全段飛ばしで。

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