第6話 ボクと出会いと学校と友達 -04
四
そこから学校までの登校路。
ボクは遠山君と並んで歩いていた。
「ねえ、佑香?」
「なに? というか女の子を下の名前で呼ぶのは心の中だけにしてね」
「ああ、うん。鈴原さん」
「それでよし。で、何?」
「本当に足は大丈夫?」
「ああ、うん。本当に大丈夫だよ。ありがとう」
「そう、良かった」
そう微笑む遠山君。珍しいものが見られた。役得役得。
しかし短い間だけれど、遠山君の色々な面を見ることが出来た。
真面目な表面ながらも、少しおどけた面があることも。
天然な面があることも。
少しだけ……いや、かなり距離が縮まったと思う。
あの頃。
遠くから彼を見ていた、あの時から。
……だからいいよね?
心の中では彼を、呼び捨てにしても。
……英時。
英時。
英時。
「どうしたの鈴原さん?」
「あ、うん、何でもないよ、えい――」
「……えい?」
「いやいやいや、えい――が。映画よ。最近見たい物とかある?」
「映画か。最近はあんまり見たいものが――」
危ない。危うく口にするとこだった。どうにか回避できたようだ。
だけどこれをきっかけに、色々と彼と話すことが出来た。
会話が弾んだ。
ここまで話しやすかったのか。
かなり心地いい時を過ごした。
このままずっと――と思ってしまいそうになったその時だった。
「お、佑香じゃない。おはよう」
「あ、佑香じゃない。おはよう」
突然、ステレオで人の声が聞こえてきた。
右を見る――無表情の女の子がいた。
左を見る――無表情の女の子がいた。
ボクは二人に笑い掛けた。
「おはよう。
「「おはよう」」
またステレオで返事が返ってくる。
そっくりな顔と同じ苗字で察すると思うが、彼女達は双子だ。
そんな彼女達の特徴と言えば喜怒哀楽を表しているのを今までほとんど見たことがないくらい、感情表現が少ないことが挙げられる。因みに今、右にいるのが真美、左にいるのが奈美だ。
「「おやおや」」
二人は舐め回すようにボクを見てきた。
「どうして佑香は遠山君と一緒に登校しているのかな?」
「しかもそんなに仲良さそうに」
「そ、それは……」
ボクの家に英時が来た――なんて言えない。言ったらなんと囃されるか。いや、もう遅いか……
というように思考をしていたがために、ボクは咄嗟に答えられなかった。
それが二人を加速させた。
「ほぉ。言えないのか」
「それはそれは、とっても深い仲で」
「ち、違っ……」
「ではでは、彼に聞いてみよう」
「遠山英時君。鈴原佑香さんをどう思っていますか?」
「どうって……興味がある女の子、かな?」
ヒューと風が吹く音が鮮明に聞こえた。
あぁ……今日は風が冷たいなぁ……
焼き芋がおいしい時期だなぁ……
さっきのはきっと空耳だよなぁ……
そう現実逃避するボク。
対して、二人は淡々と英時に追及する。
「それは返答に困りますね。告白ですか?」
「どう結論づけていいものか。告白ですか?」
「え? 今のって告白なの?」
「おおっと、出ました、遠山君の天然」
「別名、鈍感」
「告白なのか、っていう答えにはなっていないよね? ねえ?」
英時が困惑した様子で訊ねるが、二人は全く聞いていない。
ボクは知っているのだ。
この状態になった彼女達はもう止まらないということを。
案の定、二人はマイペースに事を進めた。
「あ、奈美」
「何? 真美」
「そろそろだよ」
「そろそろだね」
「そろそろ?」
ボクが首を捻ると、二人は声をあわせた。
「「走らないと遅刻をしてしまう時間だよ」」
「「え?」」
ボクと英時が声をあわせた。おら、意外にぴったり……なんて悠長なこと言っている場合でも、呆けている暇はない。
時計を見ると、八時三五分。遅刻五分前。
学校までの距離は歩いて大体八分。
走って間に合うか微妙な時間だった。
「急がないと!」
英時が焦って走り出した。が、すぐに足を止め、困惑した表情でボクを見た。
「どうしよう……鈴原さんは走れないんだよね……?」
あ、そうだった。
英時に言われて、はっと気が付いた。
ボク、足を怪我しているんだった。歩く程度なら支障はないが、走るのはまだ難しい。
でも――大丈夫。
「大丈夫だよ。ボクは、飛べるから」
「え?」
「奈美! 真美! お願い!」
「「あいあいさー」」
その返事と共に奈美がボクを担ぎ、真美が鞄を持った。そして二人は、一直線に学校まで突っ走った。
ボクはちらりと後ろを見る。
英時は、口を開けて唖然とした様子で立ち竦んでいた。
そしてボクは、遅刻せずに間に合った。
当然、真美と奈美も間に合った。
英時もぎりぎりセーフだった。
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