145 『凍てついた世界』
「さて、よろしければお名前を教えていただけるかしら?」
「あ、あぁ。俺は霜神彰、彰って呼んでくれ」
「彰様ね。ふふっ、素敵な響き。私ワタクシのことは、ヘル、とお呼びください」
そうお互いに名乗りあったところで、俺は本題を口にする。
「それで、ここはなんなんだ? 俺は、一体……」
「ふむ、確かに、本来ならここに誰かが来る、ということはありえないところですわ。お手数ですが、少し顔を近くで見せてくださる?」
「顔を? 別に構わないが……」
言われるがままにヘルのほうへ顔を差し出す。
白を通り越して青白い、けれど病的な感じはないしなやかな手が俺の頬を挟み込む。ただ、挟まれたという感触はあれど、やはりその手の温度を感じることは無い。
「ふむ。あら? なるほど、これは。もしかして、あぁ……」
ルビーのように赤い瞳で俺の目をじっと見つめるヘルの顔が、探るようなものから、納得するように、そして同情的なものへと変わっていく。
「……申し訳御座いません」
「えっと、突然どうしたんだ?」
俺の頭を話したと思ったら、唐突に謝りだしたヘルに困惑してしまう。さっきので何かを見たんだろうけど、それがどうして初対面の彼女の謝罪に繋がるというのか。
「一言で申しますと、今回の件は、私の身内の不始末となります」
「身内?」
「えぇ。貴方がお会いになったルキという存在。本当に遺憾なのですけれど、私の親にあたる人物ですの……」
「え、マジで?」
目の前のヘルとルキは親子というには年齢に全然差が無いように思える。兄妹といわれれば納得できるようなものだ。
だが、確かに、そうなれば身内の不始末というのも納得である。もとをただせばあのルキがレイアにおかしなことを行ったのが始まりなのだから。
「本当に、申し訳御座いません」
「いや、もういいさ。気にしないでくれってのは変だし、確かにルキにムカつきはするが、だからってあんたは何も悪くないだろ。だから、顔を上げてくれ」
深々と頭を下げるヘルを宥める。実際、身内のせいで申し訳ない気分になる、というのは俺にも何度か経験はある。主にレイアや依織がやりすぎたりすることで。
「それより、ここはどこなのか、教えてくれないか?」
「お優しいのですね。ですが、これもまた伝えづらいことなのですが……」
顔を上げながらも、また言いづらそうに口を紡ぐヘル。けれど、それに関しては俺も聞かないわけにもいかない。彼女が話してくれることを願いじっとその瞳を見つめ返す。
「分かりました。ですが、あまりショックを受けないでください」
「お、おう。そんな驚くようなところなのか、ここ?」
前置いたヘルに少したじろいでしまう。どうやら、想像以上におかしなところに飛ばされているのかもしれない。北極か南極か、はたまた異世界といったところか。
けれど、明かされたのは、そんな俺の予想すら超える答えだった。
「ここはヘルヘイム。私の凍てついた世界――生を終えたものが訪れる死後の世界です」
「……は?」
どうやら、俺は死んでいたらしい。
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