130 『試練の終わり』
白蛇は近づいてくる。
そしてその整った顔が、お互いの吐息が伝わるほどの眼前までやってきて、触れる。その柔らかな感触は、動かせないせいか余計に鮮明に唇から伝わってきた。
そして、その瞬間を見計らうように着物蛇の声が響く。
『――その契りに祝福を。汝らの誓いに、我が加護をもって結びとせん!』
その言葉が聞こえたかと思うと、何かおかしな感触が身体を奔った。どうやら、白蛇も同じ感覚があったらしく、目を瞬かせている。
「おい、さっきのは……、って、お、声も出るし、体も動く!」
『うむ、儀式はこれで終わったのじゃ。魔眼で縛る必要はもうないからの。ほれ、娘よ、一つ前の試練で手に入れた鱗があったじゃろう、それを出してみよ』
「あっ、はい、始祖様!」
着物蛇に促がされるままに、白蛇が懐から二枚の鱗を取り出す。
ここに辿りつく前、大蛇からなんとかせしめた試練の攻略条件の鱗。元々何一つ模様のない真っ白な鱗だったそれは、今はその姿を変えていた。
「なんだこれ? 蛇は分かるが、半球……?」
二枚の鱗のうちどちらも片面には蛇の模様が浮かび上がっていた。そして、もう片面にはよく分からない円い球を上下に割った下半分のような模様が浮かんでいる。
『それはそなたらに与える証じゃ。魔力を刻むに適した妾の鱗に儀式によってそなたらの魔力を刻んだのじゃ。二人の中を一様に通らせる必要があるゆえ、あの儀式が必要不可欠となるのじゃよ。蛇は娘の、そしてこの半球はお主のものだと思うが、何か心当たりは無いかの? 種族やなにか特別関連の深いものが模様として刻まれるのじゃが』
「あー、半球って、そういう……」
基本的に幼女姿だが、その正体は半球である某邪神。そういえば、代々うちの家系の中にその半身が封印されている、という話だったか。それでそれが模様として刻まれた、と。
「なるほど、ありがとうございます、始祖様」
ただ、白蛇は素直に喜んでいるが、俺には引っかかることが一つあった。
「なぁ、さっき『妾の鱗』って言ってたが、どういうことだ? もしかして、あの大蛇の正体はお前だったのか?」
『うむ、そうじゃ、あれも妾じゃ』
「あれ、も?」
『なに、妾もあの蛇も、等しくこの試練の為に産み落とされたものであるからな』
「えっと、どういうことなんですか、始祖様……?」
『簡単に言えば、妾達は試練や儀式を行うためにこの場で役目を果たす、擬似生命なのじゃよ。娘が始祖と呼ぶ存在に創られた式なのじゃよ。あやつの最後の命令で、ここで人と魔の橋渡しをしておるわけじゃ。無論、誰もおらぬときは眠っておるのだがな』
なるほど、それであの大蛇と同じ、ってことか。役割は違えど、この試練の為に動くという役目は同じというらしい。それならますます、さっきの勘違いでの嘆きが深さがよく分かる。
『さて、妾の話ももうよいじゃろう。試練も儀式ももう終わりじゃ。その鱗はそなたらがそれぞれ持つがよい。あまり大したものではないが、多少の加護はかかっておる。なにより、この試練を超えた証でもあるのじゃから、外のものたちに見せれば良い証拠となるであろう。まぁ多少複雑な話ではあるが、それもまた仕方ないことじゃ』
「あー、なんだかんだで世話になった、ありがとな」
まぁ騙まし討ちされたことは少し引っかかるが、まぁ仕方ないことだった、と割り切るしかないだろう。編に意識して悩む方が、二人に不誠実だ……と思って忘れよう。
「ありがとうございます! この御恩、決して忘れません!」
『ふふっ、なんとも良い返事じゃの。まぁ妾が望むのはそなたらが幸せとなるこ
とじゃ。ほれ、この先をゆけば外に出る。胸を張って、帰るがよい』
見れば、社の裏手に小さな横穴が続いていた。こんなところに出口があったとは。
そして、促がされるまま、俺と白蛇は横穴を潜っていく。
『そなたらの行く末に、幸多きことを……!』
なんて言葉を後ろからかけられながら、俺達は社を後にする。
こうして、ようやく長い試練が終わったのだった。
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