123 『輝くその手で』
叫びを上げて吹き飛ぶ白蛇に、唖然とした様子で固まる大蛇。
そんな状況のなか、俺は色々溢しちゃいけないものをぶちまけて飛んでいく白蛇に追いすがる。そして、どうにか狙いを定め、その手を掴むことに成功する。
「っと! よしっ!」
その瞬間、俺にとっては御馴染みの、けれども本来ならばありえないはずの出来事が起こる。即ち――失われたはずの白蛇の下半身が生み出された・
「それじゃ、後は走るだけだ……!」
血は止まったものの、気を失った白蛇を抱え俺は一直線に駆ける。
俺が白蛇を切り飛ばしたのはこの場の先に繋がる空洞の方向。白蛇が鱗を手に入れ、そしてこいつを大蛇から救出した以上、この場にいる必要は無い。
これが試練というのなら、条件を満たした上であそこへと到達――この場を潜り抜ければ、クリアとなるはずだ! というか、ならないとどうにもならん……!
「うぉぉぉぉぉおおおお!」
後ろから『シャァー!』という鳴き声としゅるしゅるという滑る音が聞こえてくる。そしてなにより、迫りくる威圧感から、大蛇が追ってきていることが嫌でも分かった。
「くっ!」
出口まではあと十メートルもない。けれど、それが途方もなく遠く感じる。
脚の速さには自身があるし、大蛇は一時呆けたせいか出遅れている。けれど、徐々に追いつかれているのが分かってしまう。
「うぅ……」
腕の中で呻く声。意識のない白蛇の重みが腕にかかる。
そう、俺一人では難なく逃げ切れるだろうこの状態で、こんな窮地に立っているのはこれが原因だ。流石に、意識のない相手を抱えて走るのには無理があった。単純に体力や腕の筋力は勿論、無理な体勢を維持して走るお陰で脚にもかなり来ている。
「だからって、今更放すわけにはいかないからな」
もし、白蛇を放り捨てれば逃げ出すのは容易だろう。だが、そんなことはするわけにはいかない。誰が見ていなくとも、俺自身が納得できないのだから。
「っつぁ……!」
残り五メートルほど。けれど後ろの大蛇もすぐ後ろに迫ってきている。
どうにか、もってくれないか……!
「くっ」
あと数歩、もう一メートルも距離は無い、というところ。
けれど、大蛇は俺のすぐ後ろ、もはやその吐息までもが伝わってきている。最後の一歩を踏み出す前に、俺へ喰らいつくだろう。
――間に合わない。
このままでは逃げ切ることは出来ない、そう確信できる。
ならばなにができるのか? 走馬灯とでもいうのか、意識が加速していく。世界がスローモーションのように、思考だけがただ回っていく。
今、俺の手元にあるのは? 俺ができることは?
一か八かで蹴りを放つか? あの巨体相手には、多分意味がない。
せめて、あの大蛇に手でもあれば――、と思ったところで気付く。まだ一つだけ、手は残っていたことを。とてつもなく低い、一か八かの賭けかもしれないが。
白蛇を出口に放り投げる。そして、大蛇へ向き直る。
「これでも、喰らえっ! シャイニング、フィンガー……!」
叫び、右手を大蛇に翳す。光り輝く、その右手を……!
「シャッ!?」
俺のその動作に、大蛇は機敏に飛び退く。一度神断ちの蹴りを見せたからか、警戒をしていたらしい。もし、蹴りを放っていたとしたら避けられ悲惨なことになっていただろう。
だが、その反応、その警戒こそが、俺が期待した行動なのだ!
そう、手から何かが出るわけもない。シャイニングフィンガーなんて、俺ができるわけがない。白蛇にかけたもらったこれは、ただの明かりでしかないのだから!
「それじゃあ、あばよっ!」
一度離れた大蛇が追いつけるはずもなく、俺も何とか無事に脱出することができた。やはり大蛇はあそこから出られないのか、空洞についた俺たちを恨めしそうに睨んでくるだけだった。
こうして、無茶苦茶なうえに最後はハッタリ頼みでありはしたが、俺たちは最後の試練を突破することが出来たのだった。
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