124 『アレがない』
「ガハッ!?」
そんな苦悶の声と共に、辺りに真っ赤な血が広がる。その出所は、俺が放り投げた白蛇。数秒前はあったはずの下半身が消え去って、生々しい切断面があらわになっている。
「うわっ、忘れてた!?」
何とか逃げきれたことに安心したせいで忘れかけていたが、放り投げてから白蛇の手を離したままだった。急いでその手を取って下半身を作り出す。
「だっ、大丈夫、だよな……」
一瞬血は流れたけど、すぐにまた戻したし。俺の時だって、似たようなことはあったし、そもそもこいつは人間じゃないんだから体力はお礼状にあるはずだから。
綺麗に生み出された下半身を見て、きっと大丈夫だろう、と願う。が、そこで重大なことに気付いてしまう。
「……ない。えっ、いや、マジ?」
なかった。白蛇には大切なものが、付いていなかったのだ。
「も、もしかして、俺のせい、なのか……? 俺が、身体を作ったから、こうなったっていうのか? そんな、えっ、いくら小作り支援の能力だからって、流石に、俺も男を相手には……」
結論から言おう、俺が回復させたはずの白蛇の下半身には、男として大切な二つの玉と一つの棒がなかった。即ち――、
「なんでち●こがないんだよ!?」
勘違いか何か、と近づいて確認するもまるでなにもない。つるりと綺麗なそこには、男の象徴とは正反対の、割れ目が存在するだけ。もはや今の白蛇の下半身は完全に女の身体になっていた。
「まさか、この力が女体化効果を持ってたなんて……」
依織やレイアのような女郎蜘蛛やラミアなどの、人外娘との子作りをするため手を繋いだ相手の下半身を人間のものにする能力、と思っていたのに。まさか、男を女の下半身にすることまでもできるなんて……。
「流石にそこまで守備範囲は広くなれないわ……」
ご先祖様よ、業が深すぎるだろう。いや、昔は衆道だかなんだかでそういう需要もあったのかもしれないが……。
「……ん? あれ、けど、それじゃあ、俺の場合はなんでだ?」
まさかのことに驚いていたが、それだと一つおかしいことが出てくる。俺自身にこの能力を使ったときのことだ。
空亡との戦いで俺の身体を切り離してから数日、レイアの用意してくれた秘薬を飲むまでの間、俺は自分で自分の下半身を生み出して生活していた。けれど、そのときにアレが消えるなんてことは一切なかった。
「なら、なんで今回は……?」
その疑問から、再び白蛇の股間を覗き込もうとしたとき、目が合った。
「おっ、起きたか。どうだ、身体に別状は――」
「このっ、ド変態がぁぁああああ!」
「ぐぼぁっ!?」
意識を取り戻してすぐ、白蛇がやったのは俺を蹴り飛ばすことだった。
……当然だ。目が醒めた瞬間、股間を覗こうとする男がいたら、俺だって蹴り飛ばす。
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