122 『スプラッタ』
さて、どうするか? そう考えて、やることは一つとすぐに結論はでる。
「よし、とりあえずまぁ――蹴るかっ!」
いっきに距離をつめて、その巨体を思いっきり蹴りを食らわせる。
我ながら人間業じゃない、というか人外染みた威力と思う蹴りが大蛇の胴体に炸裂した――が特に効いた様子は無い。まるでゴムタイヤを蹴ったかのような固い感触だ。
「いくらなんでも頑丈すぎませんかねぇ……?」
「ぐっ、なにをしてる! おい、避けろ!」
白蛇の叫び。その言葉に従って、一気に後ろに跳び退く。離れるのに少し遅れて、大蛇の頭が俺のいたところを襲う。後数秒遅ければ、あえなくあの鋭い牙の餌食になっていただろう。
「助かった、白蛇。んで、助かったついでだが、こいつなんとかできないか?」
「出来たら僕だって苦労していない! 抜け出そうにも、完全に足を取られては……!」
そう白蛇が言うとおり、腰辺りからをしっかりと大蛇の尾に巻きつかれて身動きは取れそうにない。だが、手は自由ならば、やれることはある。
「よし、ならその蛇の鱗を何枚か剥いでくれ」
「はぁ、一体何を?」
「いや、それがこの試練なんだろ?」
『白蛇の鱗を手に入れろ』というのが試練なら、捕まっているとはいえ両手が自由な白蛇は理想的な状況ともいえる。もし、手に入れることで試練が終わるのなら、だが。
「分かった、うぐっ!」
「おっと、お前の相手はこっちだぞ!」
白蛇の動きを察知したのか、白蛇に攻撃しようとする大蛇に蹴りかかる。それでも、締め付けは強くなったようで、白蛇が苦悶の声を上げている。
「おい、取ったぞ……!」
「あー、くそっ、やっぱ終わっちゃくれないよなぁ……!」
なんとか白蛇が鱗を剥ぎ取ったようだが、大蛇は一向に止まる気配は無い。
やはり鱗を手に入れるだけでなく、ここを切り抜けないといけないらしい。おあつらえ向きにおくに繋がる空洞がある以上、鱗を取った上でこの大蛇をどうにかしてあそこに進めということだろう。
「よし、なら身体を蛇にして、少しでも身体を引っこ抜け! あ、鱗は落とすなよ!」
「ぐぅっ、簡単に言ってくれるな……!」
白蛇はレイアと違って基本的には人間の足をしていたが、蛇の尾にすることも出来たはずだ。そうすれば少しは抜けやすくなるはずである。
「やっ、とっ、はっ!」
白蛇に指示を出しながらも、大蛇を蹴っては飛び退くことを繰り返していく。あまり効いてはいないようだが、なかなかイラつかせることは出来たのか、大蛇は俺のほうばかりに注意は向けている。一撃一撃は重そうだが、大降りで単調なお陰で避けるのは難しくない。レイアに比べればイージーモードでだ。
「とはいえ、白蛇が完全に抜け出ることはできそうにない、か」
たとえ抜け出せたとしてもこの状況じゃすぐに捕まって逆戻りだろう。下手をすればより強く拘束、というか攻撃されてしまうかもしれない。目の前でスプラッタは簡便だ。
「まぁスプラッタには変わりは無いかもしれないが」
俺がやろうとしていることを考えれば、どちらも同じようなことかもしれない。
とはいえ、他に方法なんて思いつかないからやるしかないわけだが。
大蛇の気を引きながら、機を窺って脚に力を溜める。
――そして、そのときが来た。
「白蛇、両手を高く掲げて身体をまっすぐ伸ばせ!」
「いきなり何を、くそっ、まぁいい、これでいいのか!」
突然のよびかけに戸惑いながらも、俺の言葉通りに白蛇が身体を伸ばす。その身体はある程度は抜けたが、いまだ大蛇に捕らわれたままである。
「悪いが、恨まないでくれよ……!」
そう呟き、俺は一気に距離をつめると、溜めていた力を解き放つ。神を断つとすらされる、腱の力を。そして望みどおり、切り口鮮やかにそれは断ち切られることとなる。
「ぐっはぁああああああ!?」
そんな叫びと共に、そいつは苦悶の顔を浮かべて血液をぶちまけて飛んでいく。
そう、大蛇ではなく、俺が断ち切ったのは白蛇だった。
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