120 『あからさま』
「ふむ、これは……」
輝く右手を頼りに進むこと十分ほど、先ほどの分かれ道のような少し広い空間にたどり着く。ここまで通ってきた通路のような部分とは違い、うっすらとだが光がある。
「なんというか、あからさまな」
光を放っていたのは、この場の中央にこれ見よがしと置かれた拳大の大きな宝石。丁度手に取れる高さの台座に置かれたそれは取ってくださいというような感じである。
「しかも、また分かれ道とか、嫌がらせかよ」
白蛇と分かれたところと同じように、ここも左右に進むべき道が分かれている。その先に何があるのかは当然ながら全く分からない。
「まぁ、取らないわけにはいかないよなぁ」
こういうものは取ったら何か仕掛けが発動すると相場が決まっている。だけど、あからさまに重要アイテムっぽいそれを取らないのもまた間違っているように思う。行く先が二つあるというのもまた気にかかるところでもある。
「さて、あいつの言葉通りだったらいいんだが」
対処できないことが起こらないのを祈りつつ宝石を手に取る。瞬間、先ほど俺がは言ってきた入り口が何処から出てきたのか分からない岩で塞がれた。
「ほんと、お約束だな」
宝を取ったら入り口が閉ざされ引き返せない、なんて。だが、入り口を塞いだだけで終わりな筈は無いだろう。
『人間よ、お前は何を求めるか?』
「なっ!?」
突然響く声。何処から発せられているのか分からない、まるでこの場全体を震わせるかのような男の声がいきなり響き渡る。
『右へ行けばお主だけが麓へと出る事が適う。宝珠を売れば、かなりの値打ちとなろう』
「いや、いきなりなにを」
『左へ行けば、別れた者と再会できよう。ただし、宝珠は失われ更なる試練を受けよう』
俺の言葉に一切反応せずに声は続ける。どうやら、これは誰かが喋っているのではなさそうだ。ヒントか何か、と言うやつなのだろうか。
『右へ進み富を得て一人家路に着くか、左へ進み更なる二人で危険に身を晒すか。汝の思うところへゆくがいい』
そう声が言い切ると、また静寂が戻ってくる。
「なるほど、右へいけば一人で帰れて、左へ行くと白蛇と合流ってわけか」
お宝貰ってリタイアするか、更なる試練に進んでいくかということらしい。
試練というから警戒していたが、なんというか拍子抜けだ。まぁ多分最初だからというのもあるんだろうけど、本当に簡単なものでよかった。
「まぁ、途中リタイアなんて趣味じゃないからな」
強引だったとはいえ一度手伝うと決めた以上は、やることぐらいは果たしてやろう。
そんなわけで、俺は迷うことなく左の道を進んでいく。すると、数分で行き止まりにぶち当たった。明らかに何か嵌め込むような窪みのついた石の壁が目の前にある。
どうやら誰かが反対側から壁を叩いているらしく、ドンドンという音と振動が響いていた。何をすればいいのか、そして誰が向こうにいるのかは分かりきったことである。
「これでなくなるってわけね」
躊躇いもせず宝珠を窪みに嵌め込むと、ガコンと音が響くと共に壁が地面に潜り込む。なんというか、色々原理や仕組みが不思議なことだが、気にしたら負けなんだろう。
「まったく、遅すぎるぞ! 僕がどれだけ待ったと思ってる……!」
「はいはい、置いてかずに来てやっただけでも感謝しろよっての、まったく」
礼どころか文句を言い放つ同行者にやるせない思いを抱きながら、俺は第一の試練を突破したのだった。
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