119 『光』

「ふむ、別段息苦しいってこともないんだな」


「それはそうだろう。試練の場だとしても、流石に窒息死させるような場所ではあるまい」


 そんな益体もないことを話しながら奥へと進んでいく。暗い洞窟を照らすのは、白蛇の手で灯る白い光。魔術か何かで出しているのだろうが、なかなか便利そうで羨ましい。


 それから五分程歩いたところで、これまで歩いてきた通路とは違い、少し広くなった空間に出た。壁に何かが書かれているらしく、白蛇は光を当ててそれを読んでいる。


「ふむ、ここが第一の試練らしいな」


「試練ねぇ。一体何するんだ? てか、なんて書いてあるんだよ?」


 場所に似合わず風化もなくしっかり記されている文字だが、生憎と俺には見たこともないものだ。多分、人外の存在専用の文字か何かなんだろう。


「人間は右に、そして妖は左に進むように、と書いてあるな。それ以外には何も説明は書かれていない。なるほど、だから人間の従者が必要だったわけか」


「いや従者じゃないからな。けど、二手に分かれるのか、それは困るな……」


 白蛇の言うとおり、先には右と左に二つの洞穴が続いている。だが、ここで二手に分かれろというのはとても困る。正直なところ、俺だけではいける気がしない。


「何を弱気になっている。所詮この先を進んでいくだけ、特に恐れることもないはずだ。あくまでこれは試練なのだから、人間が太刀打ちできないような障害が用意されていることは無いだろうしな」


「いや、そういうことじゃなくてだな。ほら、お前のそれが俺には無いんだよ」


 それ、と指を挿すのは白蛇の手元の光。今は一緒にいるから大丈夫だが、分かれて進むとなればその光の恩恵にあずかることは出来ないのである。流石に、先も見えないくらい洞窟を光源無しに進むのは勘弁してほしい。いきなり連れてこられたお陰で、懐中電灯どころか、携帯すらも持ってないのだから。


「なんだ、そんなことか。ほら、手を出せ」


「ん、なにするんだ?」


 よく分からないが、言われるままに右手を差し出す。すると、白蛇はその手を、自らの両手で包み込む。

男の癖にやたらすべすべして女みたいな手だ、なんて俺が思っていると、ぎゅっと白蛇は手を握りこみ何かの呪文を唱えだす。そしてそれを終え放された俺の右手は一変していた。


「おぉぉ!」


「ふん、どうだ? これなら問題なかろう」


 自慢げに語る白蛇だが、今回に関しては腹も立たない。なぜなら、それ以上に重要なことがあるのだから。流石にこれはちょっと想定外だが、なんだか嬉しい感じだ。


「シャイニングフィンガー、っていうよりシャイニングハンド、って感じか」


 右手が輝いていた。白蛇の灯す光のように、いやそれ以上に強く白く、光り輝いていた。なんというか、凄く厨二心をくすぐられるというか、特に意味もなく気分が高揚してくる。


「気に入ったのなら問題ないな。軽く魔力を付与しただけだが、その程度ならば一日は持つだろう。僕がここまでしてやったんだ、おかしなミスはしないでくれよ」


「はいはい、んじゃま、行ってきますかね」


 右手をかざし、右の洞穴へと進んでいく。なんとなく、絵面だけ見ると異能バトルものみたいだな、なんて意味のないことを思いつつ。

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