118 『免許』

「……で、どこいくんだよ」


「さっき説明しただろう、白蛇の社だ」


 尾で引っ張られたまま、車に連れ込まれた俺。当然ながら、拉致の犯人は白蛇である。


「というか、お前しかいないのか……」


「仕方ないだろう。どこも分家の手のものが入っているのだから、僕自身が動くしか」


 そう答えるのは隣、運転席でハンドルを握る白蛇。その言葉通り、現在この車には俺と白蛇しか乗っていない。まさかの白蛇の運転での移動である。


「いや、お前が運転できるってのが意外でさ。まさか免許持ってるとはな。ぱっと見同じくらいに思ってたんだが、十八超えてたんだな」


 見た感じ、俺とそんなに変わらない年齢だというのに驚きだ。そもそも、こいつが教習所に通う姿が想像できない。危なげない運転から、乗りなれているのは分かるのだけど。


「何を言っている、僕は十六だが。まぁ運転くらいはどうだってできる、毎度見ていれば動かしかたなどすぐに覚えるものだ」


「……えっ、いや、免許は?」


「何故僕が人間の決めた免許など取らなくてはいけないんだ。こんなものを動かすくらい、簡単なことだろうが」


 絶句する。つまり、無免許。というか、言葉を信じるならば助手席から見ていただけで、実際の運転はほとんどないということでは……?


「降ろしてくれ。てか、とりあえず停まれ。頼む、マジちょっと勘弁してくれ」


「ふん、今更怖気着くとは。なに、心配するな、この僕がついてるんだからな。よし、そうと決まればさっさと終わらせて、愚かな分家どもに僕の偉大さを思い知らせてやるとするか!」


「いや、ちょ、まっ、ひやっぁあああああ!?」


 俺の制止の声も聞かず、気分が高揚したのか、アクセルを踏み込む白蛇。


 無免許×アクセル全開×住宅街。


 ……正直、死ぬかと思った。住宅街を抜けたところで山道に入って、おまけに急カーブの連続でも速度下げようとしないんだもん、この糞蛇野郎。


「生きてて、よかった……。けど、ここ何処だよ?」


「何を言ってるんだ、まだ何も始まってないぞ」


 二本の脚で下りられたことを喜ぶ俺に、自覚のない馬鹿が声をかける。いや、お前の運転のせいだからな? 言うだけ無駄なんだろうけどさ。


「さて、じゃあいくぞ。先に言っておくが、僕の邪魔だけはするなよ」


 人気のない山の麓。そこにあった小さな鳥居と、岩肌にぽっかりと空いた先の見えない暗い洞窟。それが最初に言っていた祠なんだろう。


 白蛇は特に気にする様子もなく入っていくが、そこからは異様な雰囲気が漂っている。なんだろう、物凄く碌でもない、嫌な予感がびんびんする。


「おい、さっさと来い。僕一人で行ったら意味がないだろう。何のためかは知らないが、人間が必要なんだから」


「あー、はいはい、分かったよ、ここまで来たんだから付き合ってはやるよ……」


 全くもって行きたくない、が一人でいかせるわけにもいくまい。


 まるで義理も恩義もない、むしろ悪感情しかないような相手でも、流石に死なれでもしたら寝覚めが悪い。逆恨みみたいな言い分だが、一応俺が原因の一端に関わっているのだし。


「はぁ、何が待っているのやら……」


 毎度ながらの自分の運のなさに溜息をつくと、俺は白蛇の後を追って暗い洞窟の中へと入っていく。何があるのかは分からないが、絶対に厄介なことが待ち受けていると確信しながら。

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