117 『ただし美少女に限る』


「あの一件で、僕の評価は地に落ちたんだ」


 そんな忌々しげな言葉とともに、白蛇が話を始める。


「あのとき、君のおかげで面子を潰したせいで僕の立場は急落、僕を庇おうとした父も同じように弱くなり、逆に分家が力を持ち始めたんだ。そして、本家の跡取りは僕しかいないのに、それは僕には相応しくないと、分家達は僕を廃して自分達の子供を頭首に仕立てようと画策してるんだよ」


「ふぅん。しかし、分家が頭首って、そんなのできるもんなのか? 普通分家より本家の方が立場って強いもんじゃないのか?」


「ふん、本来ならそうだ。だが、最初に言ったように僕の失態で、本家の立場は弱った上に、その当事者の僕を快く思っていない本家の人間もいる。そんな奴らが結託して僕を頭首から蹴落とし、利権をむさぼろうと画策しているんだ。まったく、嘆かわしい」


「お家騒動ってやつか。なんだか大変だなぁ」


 というか、どうしてそんなことで俺のとこにくるんだろうか? そこまでの話を聞いていて、まるで俺には関係ない話な気がするんだが。


「で、何で俺のとこにきたんだ? もしかして、愚痴と文句を言いに来ただけか?」


「そんな無駄なことをしにきたわけがないだろう。君に関係があるのはここからだ。我が白蛇家には、古くから伝わる試練がある。白蛇の社という祠の奥に棲む大蛇と戦い、その牙を証として持ち帰るというものがな」


「まさか、それに付き合えってことじゃないだろうな……」


「ほう、察しがいいな、その通りだ。分家とそれに迎合する奴等は僕がこの試練に挑み乗り越えたのなら、僕を跡取りとして認めると条件を出してきたんだ。そうでなければ、失態を起こした僕は相応しくないから、分家の子を養子として跡取りとさせろと言ってな」


「大変なのは分かった。が、なんで俺がそれに付き合わなくちゃいけないんだよ? 一人で行ってきたらいいだろうが」


「理由は知らないが、この試練には人間の従者が必要となるらしい。白蛇の家のもの一人と、従者の人間一人で挑まなければいけないんだ。そこで君を選んでやったわけさ。君の能力については、僕もある程度は認めるところだからね。光栄に思うといいよ」


 ……いや、そんなことで認められても全く嬉しくないわけだが。


「というか、それやっぱ俺じゃなくてもよくないか? お前なら、俺よりいいやつ用意できるだろうが」


「忌々しいことに、有名で空いているものは既に分家達から根回しがされているんだ。それで、君のところに来たというわけだよ。そもそも僕がこんな状況に追い込まれたのは君が原因なんだから、それに協力するのは当然だろう?」


「えぇー……」


 なんという横暴な言い草だ。レイアも相当だが、こいつも大概である。そもそも、レイアの場合は『(ただし美少女に限る)』が適応されるので許せるが、こいつは野郎なうえに嫌味なイケメンである。


 というわけで、話は聞いてやったし帰ってもらおうか。そんなこと俺が思うよりも早く、行動を起こす奴がいた。


「それでは、お帰りくださいませ」


「はっ!? なぁっ!?」


 ニッコリとした満面の笑みで、口調は穏やかに、――けれど、青筋を浮かべ口元を引きつらせた霜がそう言い放つ。それと同時、白蛇の座っていた部分の床がまるで粘土のように蠕動し、彼を外へと叩き出す。ご丁寧に、中庭側の扉を開いた上で、家を囲う塀まで不自然に湾曲し完全に敷地の外へと。


「霜、グッジョブ」


「お役に立てたようで何よりです」


 流石は霜、よく分かってる。ホント、働き者のいい娘だ。


「さて、ちょっと冷めたが飯に戻るか。まったく、時間の無駄だったな」


「はい、そうですね。あ、ちょっと待っててください、すぐに暖めておきますから」


 そう言って、床に沈み込んで消えていく霜。何から何まで、色々とありがたい限りだ。


「んっ?」


 さて、食事を済ませたら今日はこれからどうするか、なんて思いを馳せたところで、身体に何かが纏わりついた。見ると、それは白い鱗に包まれた長い尾で。


「ここまでされた以上、君にはなんとしてでも付き合ってもらうぞ……!」


 なんて言葉とともに、尾に引っ張られて、俺は外へと拉致されるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る