116 『涙目』
「で、何しに来たわけだ?」
不本意ながら、あのまま玄関先でやりあうわけにもいかないので白蛇を居間に通し、そう問いかける。本当に、何しにきたんだか……。
「ふん、決まっているだろう、僕が来たのはあのときの償いをしてもらう為だ」
「はぁ、償いってなんのだよ? レイアのことならお前は全く関係ないだろうが。そもそも、お前が負けたのは事実なんだし」
レイアの婚約騒動ならば、あれは彼女の父親が勝手にやったことだ。確かにぶち壊しにしたのは悪かったのかもしれないが、あのときの白蛇は単なる当て馬でしかない上に、しっかり勝負にも俺が勝ったんだから何一つ文句を言われる筋合いは無い。
「それは、そうだがっ」
俺の告げる正論に、ぐっと言葉を詰まらせる白蛇。まぁこいつも分かってはいるらしい。
「それじゃ、納得も出来たみたいだし、お帰り願おうか」
「いや待て、そうはいかない! 僕はお前を連れて行くまでは、帰らないぞ! そもそも、話すら聞かないのはどういう了見なんだ、この僕がわざわざ頼みに来たというのに……!」
「いやだって、お前のこととどうでもいいし」
そう、どうでもいいのだ。そもそも俺にとって白蛇は知人ですらない、ただレイアの婚約騒動で戦っただけのいけ好かない男、というだけなのだから。
けれど、そんな俺の思いは受け入れられないらしく、なおもしつこく白蛇が食い下がる。
「いいや、僕の婚約を台無しにした責任はとってもらう! そもそも、君は実は恋人でもなんでもなかったそうじゃないか!」
「だから、そもそもあれは――」
「えぇい、言い訳は見苦しいぞ! 君も男なら、自分のしでかしたことの責任ぐらいはとって見せろ! 君のせいで、僕がどんな目にあったか……!」
俺の話しを全く聞かず声を張り上げる白蛇。それだけならまだしも、何を思い出したのか目に涙まで浮かべている。なんかもう、ここまでくるといっそ可哀想に思えてきた……。
「はぁ、もう分かったよ。とりあえず、話だけは聞いてやるよ」
いつまでも騒がれ続けるのも面倒だし、仕方ないので一応聞いてやるか。正直なところ義理も何もないんだが、まぁ安易に家に上げた自分が悪かったと思おう。
「ふんっ、そうだ、最初からそういう殊勝な態度を取ってればいいんだ!」
「あー、はいはい、んで、さっさと話せよ」
なんて憎まれ口を叩きながらも、真っ赤に目を充血させているその姿には、もはや怒りはわいてこない。なんか逆にここまでくると何があったのか気になってくるところだ。
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