第二部 三話 『魔族令嬢の舞闘会……つまり、あたしが主役よ』
088 『夏休みが来る前に』
そんなわけで3話を更新です。今話は珍しく別視点です。
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明日からあいつが夏休みというのに入るらしい。
夏休みになれば、その間は学校に行かなくてもいいというのだから素晴らしい。これならば、何処かへ出かけることも、いいえ、むしろどこか遠くへ旅行に行ったりすることも出来るはず。
「そう、そして、旅先であいつはあたしの魅力にようやく気付いて……、今より更にもっと近づいて、そしてその夜、二人きりのホテルで……って痛ッ!?」
ロマンティックな夢想にさしかかろうとしたところで、頭に衝撃が走る。
そちらを向くと、嫌味で無礼な蜘蛛娘が、呆れたような表情をして立っていた。いきなりあたしの頭をはたくなんて、何を考えているんだ、こいつは!
「まったく、そんな叶うはずもない妄想なんてしてないで、少しは働いてくださいよ……」
「ハァ!? 叶うはずも無い妄想って何よ! あたしとあいつは婚約者だし、そんな二人が旅行に行ったら、その中が深まって、昂ぶったりするもの当然でしょ! あっ、あたしは別にあいつのことなんて、そこまで気にしてないけど、あいつがどうしてもっていうなら、その世話になってるし、断るのは可愛そうだから、受け入れても、とか思ったり……」
想像していくうちに、声が自然と小さくなってしまう。
……正直に言って、あいつのことは好きだ。付き合ったり、結婚なんて、あいつ以外となんて想像したくない。普段は適当なくせに、大事なときにはちゃんとあたしを守ってくれた、あたしに色々なものを見せてくれた、そんな人間。
「けど、だからといって、いきなり夜の事を始める、というのはやっぱり……」
言い合いに釣られて、その場の勢いで迫ったことはあるけど、落ち着いて二人きりで、そんな行為に及ぶ、というのにはやっぱり躊躇ってしまう。勿論、嬉しくないわけではないし、嫌なはずはない。ただ、初めてなので、色々怖いのだ。漫画とかでは、痛いとか聞くし……。
「だから、さっきから何勝手に色ボケ妄想に浸ってるんですか。あぁもう、貴女に期待するのは間違いと分かっていますが、まともに家事でも出来る方がもう一人でもいたら、と思ってしまいますね……」
「む、何よその言い草は。あたしだって、手伝ってるじゃない。そりゃ、あんたに比べたら、下手だけど、それでも――」
「えぇ、知っていますよ、その心意気『だけ』は認めましょう。ただ、大体二度手間になる上に、すぐ他所事とを始めてしまうのはどなたでしょうか? わたしは『まともに家事が出来る方』と言ったのですけど、現在ここには庭の掃き掃除をやると言ったはずなのに、色惚けた妄想をして固まってる駄蛇しかいないのですけれど?」
「うぐっ、そっ、それは……」
正論だった、何も言い返せないぐらいに。
無理に言い返してもすぐに反論されるのが目に見えているので、反論のよりも無い。
「まぁ、自分から掃除をしよう、という意気があったことに関しては認めますよ。働かざるもの食うべからずを真逆でいっている方がいますから。それに比べれば遥かにマシではありますからね」
「むぅ……悪かったわね。それで、何のようなの? まさか、そんな嫌味を言うためだけに来たってわけじゃないでしょ?」
「当たり前ですよ。そんな暇があれば、もっと有意義なことをやってます。ほら、貴女にお手紙ですよ。何か面倒事とかないのか、確認がてら持ってきただけです」
そう言って、蜘蛛娘――依織は、あたしに便箋を渡してくる。
「あっ、ママからだわ……」
受け取った便箋に書かれた差出人は、リビュエリス=ルムガンド、あたしの母親からだった。
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