081 『正反対であり同じでもある』
「ふん、ふん、ふっふん~♪」
調子はずれな、けれどとても嬉しそうな鼻歌。
それは、俺の隣の少女、霜が発しているものだ。俺と手を繋いでる彼女には、今はしっかりと二本の脚がある。けれど、ある意味それ以上に、今の彼女の姿は普段と大きく違っていた。
「やっぱり、新鮮だな、霜のその格好は」
「えっ、に、似合って無かったです、か……!? ごっ、ごめんなさい、うち、そんなことにも気がつかなくて、今すぐに脱いでいつもの服に替えますから!」
「いや、いいから、凄く似合ってるから! ただ、いつもと違う感じで新鮮だって話だ!」
何気なく呟いた言葉に、服を脱いでしまおうとする霜を慌てて止める。
流石に、いきなり往来の真ん中で幼女に服を脱がせるとかどれだけ変態だというのだ!
「そっ、そうなのですか。でも、あの、うち、ホントに、似合ってるですか、この服?」
おずおずと、けれどどこか期待を込めた目で問いかけてくる霜。
そんな彼女の格好は普段とは正反対で、けれども普段と代わらないとも言える服装だ。
「まさか、メイド服とは、な……」
白黒のフリフリなドレスに前掛けのようなエプロン、おまけに頭には白いヘッドドレス。しかも、絶妙な長さのスカートからは、ちらりとガータベルトが覗くと共に、黒ニーソを着用という完璧具合。
まさしく、俺が思い描いた理想のメイド服を着用した、霜の姿がそこにはあった。
「なんというか、思った以上にしっくりとくるな」
和製メイドといえる割烹着姿が普段の霜であるけれど、西洋風のメイド服も予想外に似合っている。やはり、同じく家事などの家のことを行ってくれる職業だからだろうか。
「ん、どうしたですか、主さま?」
「いや、なんでもない」
まぁしかし、理想のメイド服を完全に着こなしているとはいえ、結局のところ彼女は幼女、俺にとっては完全に守備範囲外なのである。……若干どきりとするのは、多分愛らしさ故の保護欲だろう、きっと。俺はロリコンではないのだから。
「そういえば、聞きそびれてたけど、その服ってどうしたんだ?」
「あ、これは空亡さまにいただいたんです。本当に、感謝してもし足りないです。魔力を与えてもらって、こんな風に主さまとお付き合いできるだけでもありがたいのに、こんな素敵な服までいただけたんですから」
「あー、なるほど、空亡か……」
空亡ならば、俺の思考を読み取るなりなんなりして、理想のメイド服を生み出すぐらいは朝飯前だろう。そして、やった理由は多分、俺に対する嫌がらせに決まっている。
……メイド姿の幼女と手を繋いでお出かけとか、どう考えても事案です。
実際、周囲の目が痛い。せめてもの救いは、霜の様子から無理やり着せてるのではなく、妹にメイド服を着せて悦に入っている痛い人、といった認識らしく、警察への通報がないことだ。
霜への微笑ましい視線と、俺へ向けられる蔑みの視線の差には心が折れかけるが、喜んでいる彼女を前に、やはり出かけるは中止とか、服装を着替えてこいだなんて言えない。
「……空亡のやつ、後で覚えてろよ」
心に復讐を誓いながらも表面上はにこやかに、俺は霜と手を繋ぎ視線の暴力を耐えて進んでいくのだった。
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