067 『あっけない幕切れ』
「それじゃあ、もう一度確認するけどいいかしら? あんたが負けたら、彰のことは諦めて、そのよく分からない呪いみたいなものもしっかり解除する、ってことで」
「あぁ、構わないぞ。もっとも、負けるつもりなんて全く無いからな」
剣呑な言葉を交わす二人の少女。
俺の視線の先、邪魔なもののない平原でレイアとみーくんが向き合ってた。
レイアは徒手で、そしてみーくんは一本の長い棒を持って。
二人が決めた勝負、それはとても分かりやすいもの、
「それじゃ、手加減はしないわよ……!」
「望むところだ。手加減なんてされてもつまらないからな!」
――つまるところの、戦闘だった。
「まったく、レイアさんは相変わらずの短絡思考です。あんな見るからにガサツそうな相手、もうちょっと女性らしい戦いで挑めば簡単に勝てたでしょうに……」
「あー、まぁ、そう言ってやるなって。レイアだって、俺のためにやってくれてるんだしさ。そもそも、あいつは清々堂々真正面から向かっていくほうが似合ってるしな」
寧ろ策略を巡らせるレイアなんて違和感しかない。良くも悪くも、彼女は真っ直ぐなのだから。
「なるほど。つまり、そういうのは私が似合っている、と?」
「えーと、それは……、黙秘で……」
にっこりと、どこか威圧感のある表情で微笑む依織に焦る。
……いや、こういうことするから、そんな腹黒イメージがついてる気がするんだが。
「というか、お主ら、いい加減に始めてやらぬのか? 一応、審判であろう?」
「「……あっ」」
「……忘れてたのね」
「……流石に、いくらオレでもそれは酷いと思うぞ」
見詰め合っていた二人が、揃ってこちらに呆れたような声をかける。
けれど、それを言われても仕方ないことをしたのだから当然だ。
「あー、すまん。それじゃあ、気を取り直して、――始め!」
そんな俺の掛け声。それにより、遂に戦いが始まる。
蛇と馬――ラミアとケンタウロスの一騎打ちが!
「先手必勝、いくわよ、――燃え尽きなさい……!」
無手のレイアは、その手のひらから巨大な炎を生み出すと、それをみーくんに向けて打ち放つ。彼女得意の、炎の魔術による攻撃である。
「ほぅ、なかなかいい攻撃だな。まともに受けるのは、少し危なそうだ」
そういうと、その四足の馬の身体でもって、それを避けるみーくん。炎は相当の早さであったはずなのに、それをあんなに簡単そうに回避するとは。
「そういえば、レイアさんってああ見えて魔術で戦うんですよね」
「言いたいことは分かる。けど、使えるものを考えたら逆に合ってるとも思うぞ」
炎特化(というかそれしか使えない)の、火力勝負の魔術師。
そう考えれば、とてもレイアらしい戦い方だろう。
「確かに、あの娘の魔力はなかなかすさまじいものがあったからの。それを最も効率的に使うとなれば、魔力を注げば注ぐほど威力の上がる炎が一番であろうな。まぁ我が使えば、それだけでなく、色々できるであろうが」
「あー、お前が操ったときはなぁ」
言われてみれば、尾で払ったり、巻き着いて締め上げたりといった、蛇の身体を生かした物理的なことばかりで、魔術なんてものは欠片も使ってこなかった。むしろ、それよりレイアの身体そのものを人質として使うことを愉しんでいた気配もある。
「まぁあのような場所で魔術など使っては興ざめであったであろうしな。あの時の我も、やはり無粋なものは好かぬのだろうよ。ただ魔術を乱発する程度では芸がないしの」
なんて、空亡は言うが、現在目の前ではその『乱発』が行われていた。
「くそっ、さっきからちょこまかと……! いい加減当りなさいよ……!」
「ふっ、回避も立派な実力だぞ。悔しければ、さっさと当ててみればいいさ。出来るものなら、だがな」
と、いった具合に、レイアが炎を打ち出し、それをみーくんが避ける、といったことが繰り返されているだ。完全にレイアが遊ばれている状態である
「と、まぁしかし、こうやっているのも芸がないな。もうそっちの実力は分かったし、そろそろオレからもやるとするか――折角だから、同じく魔法を」
そう言うとみーくんはレイアから少し距離をとり、その手を天に掲げ言葉をつむぎ出す。
「其は、我が名と同じモノ――夜空を燃え落ちる星よ、この求めに応じ今ここに在れ……」
「いきなりなにを……?」
突然、よくわからない中二病じみたことを口ずさみだしたみーくんに俺はいぶかしむ。けれど、となりに座る依織にとっては、それはそういうものではなかったらしい。
「まさか、これは……!? レイアさん、気をつけてください……!」
驚愕ともに、レイアの名を呼ぶ依織。けれど、その言葉にレイアが答える前に、みーくんは更に言葉を繋ぐ――、
「――メテオッ!」
そう言葉が響くと同時、それは落ちてきた。炎熱を浴びて、空の果てから高速で。
「えっ、ちょっ、何よこれ!? 熱ッ、痛っ、やめっ」
なんて言葉を上げて、レイアが大騒ぎする。
原因は、彼女に向けて大量に飛来した隕石たち。みーくんの呪文によってだろう、こぶし大から人の頭ほどの大きさの隕石が、レイアに向けて降り注いできたのだ。魔法によるものだからなのか、はたまた彼女の頑丈さ故か、レイアは身体に隕石を受けながらも、なんとか痛みに声を上げるだけで大怪我はしてない様子である。
けれど、結局は防御するだけで手一杯。防戦一方のレイアに、隕石を降らせ続けるみーくんに対抗することなどできるはずもない。
「あっ、ぐっ……!?」
結局、最後は後ろから頭に直撃を受けてレイアは気を失ってしまったのである。
こうして、俺をめぐるみーくんとレイアの戦いは、みーくんの圧倒的勝利によって、あっけなく幕を閉じたのだった。
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