068 『正々堂々……どこが?』
「無駄に魔法を打ちまくるも、余裕で全て回避され」
「うっ」
「逆に相手の魔法には、完全に大騒ぎで防戦一方」
「ぐっ」
「結局、そのまま防御すら出来ず頭にぶつけて気絶、と」
「うぐっ」
「威勢よく挑んだ割には、清清しいぐらいな負けっぷりですね?」
なんて、傷口に塩をねじこむような真似を、笑顔で言う依織。
普段ならすぐに言い返すはずのレイアだが、自分が負けたのが堪えているのか、今回は言われるがまま、悔しそうに呻いているだけである。
目を覚ましたレイアに、嬉々としてそんな文句を言う依織だが、俺としては結構大変な状態である。意図しないまま、勝手に景品とさせられてしまったのだから。
「おい、依織、でも大丈夫なのか? もう後がないんだぞ、お前が負けたら、俺はみーくんに……」
「ご心配なく、彰さん。レイアさんが負けても私がいるのですから、問題はありませんよ」
「ちょっと、あんたならあいつに勝てるっていうの?」
余裕そうに言う依織に、流石にレイアも我慢しきれなかったのか、苛立ち交じりの質問をぶつける。
けれど、確かにその気持ちも分かる。遠巻きに見ていた俺ですら、みーくんの強さは見て取れた。実際に戦ったレイアからすれば、その実力がより実感できているのだろう。
「ですから、大丈夫ですよ。そもそも、相手と同じ土俵で戦おうというのが間違いなんです。勝負の内容をこちらで決められるのですから、絶対に勝てると思えるもので挑めばよかったんですよ」
「それは、確かに。けど、絶対に勝てる勝負内容なんて、そもそもないんじゃないのか?」
「そうよ、あたしだって自信のあった戦いで負けたのよ。彰の言うように、絶対なんてあるはずないわ。まさか、脚の本数なんかで競うつもりじゃないでしょうね?」
レイアの言うように脚の多さで勝負すれば、それは八対四で依織の価値はゆるぎないことだろう。けれど、流石にそんな勝負はみーくんでも納得してはくれないだろう。
「ふっ、そんな姑息な勝負なんてしませんよ。正々堂々、ルールに乗っ取った上で私の領分、得意分野で競わせていただくだけですから」
「あー、そういうことか、確かに、それなら」
「えぇ、悔しいけど、流石にそれであんたが負ける光景はあたしも想像できないわ」
依織の返答で、普段からその恩恵にあずかっている俺とレイアには依織が行おうとしている勝負内容が想像できた。これなら、確かに依織の価値はゆるぎないだろう。
「さて、それじゃあその自信のある勝負内容っていうのを言ってもらおうか。どんな内容でも、オレは負ける気はないぞ?」
依織の言葉に、それまで静観していたみーくんが言葉を投げかけた。
それに対して依織は不適に笑みを浮かべて、高らかに勝負内容を宣言する。
「私があなたに挑むのは――料理です!」
こうして、依織とみーくんの料理対決が幕を開けるのであった。
「つーか、どんだけ万能なんだ、あいつは……」
無駄なことをするのに無駄を惜しまない。それをもっといい用に役立ててはくれないものか……。性格を考えると、まず無理だろうけど。
「なぁ彰、これどうしたんだ? さっきまでこんなのなかったと思うぞ」
「気にしたら負けだよ、みーくん」
戸惑いの声を上げるみーくんに、おれは頭を振るだけで答える。流石に説明しても、色々追いつかないであろう。
「うむうむ、料理対決とは素晴らしいな!」
「えぇ、これはお腹がなるわ!」
そして、疲れきった俺と首を傾げるみーくんを無視して、空亡とレイアが期待に満ちた声を出す。色々とテンションが高すぎる二人である。
「道考えても場違い極まりないよなぁ」
俺達がいるのは広い大平原の中――であるのだが、現在そこにはその場に似合わない、漆黒のシステムキッチンがあった。それも、まるで料理番組のように二つ。
「やるからにはしっかりやらねばな!」
という、楽しむことには労力を惜しまない幼女によって、不定形の闇より生み出されたものである。調理器具も完備している上に、水や炎も魔力を利用することによって使えるという、徹底振りだ。
食材の調達に行っていたため、空亡がそれを作るところを見ていないのだから、みーくんがあっけに取られるのも当然だろう。少し目を放した隙に、何もなかった草原にキッチンが二つ常備されているとか何の冗談だという話だ。
「さぁ、これで準備は整いました、それでは勝負といきましょうか!」
意気揚々と、みーくんに向けて声をかけるのは、この意味不明な状況を作り出した原因――もとい、提案者である依織である。
彼女は両手に、これまた場にそぐわないビニール袋をもって、堂々と宣言している。
「一体何がなんだか分からないが、とにかく、料理を作ればいいってことだろ! だったら、問題ない。オレの料理で、彰の胃袋はすぐにでも鷲掴みだからな!」
「ふふっ、それでは正々堂々勝負といきましょうか。……尤も、もはや彰さんは、いいえ、審査員の三人は、既に私の料理の虜なんですけれど」
薄い笑みを浮かべて、みーくんに聞こえないように後半を呟く依織。
毎度ながら黒い。味方だからいいけれど、敵に回すのだけは絶対避けたい相手である。
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