第二部 一話 『幼馴染がやってくる……そう、幼馴染が』
063 『幼馴染、来る』
「始めまして、依織と申します」
「レイアよ。まぁどうでもいいけど」
「空亡じゃ、よろしく頼むの」
我家で暮らす人外娘達の三者三様の挨拶。
そして、それに対するは――
「わたしは浮神奈々、彰の幼馴染よ」
幼馴染の浮神奈々である。
どこか険のあるその視線は、俺の手、正確には依織とレイアそれぞれと繋がれた両手に注がれている。
――どうしてこうなった?
そう思ったところで、現実が代わるわけもない。
陥った原因は、簡単な理由だ。今日が午前授業で、その帰りに奈々がうちに来たというだけなのだから。どれだけ断ろうにも、『いい加減会わせろ』と強引に押し切られたのだ。
なんとか玄関で待たせた間に、依織とレイアの手をつかんで人化させて、空亡にも自前で足を生やさせはしたものの、何が原因で居候たちの正体がバレるかも分からない。
「で、居候とは聞いてるけど、あなたたちは彰とどんな関係なの?」
俺の気持ちを知ってか知らずか、まるで威圧するかのように問いかける奈々。けれどそれを受ける三人にそんなものが通用するはずも無い。
「婚約者よ」
「妻ですわ」
……全くもって無茶苦茶なことを言い放つ二人である。
「はぁ?」
流石の奈々も、こんな返答が帰ってくるとは思ってなかったのか、馬鹿にしてるのかというように、声を漏らす。その気持ちは分かる、というか俺も同じ気持ちだ。
一応、レイアの母には認められて婚約者扱いされてる気はあるし、依織はある意味家事を一手に引き受けてくれたりしてはいるが、俺は妻にも婚約者にもなった覚えは無い。
「あー、いや、これは二人が勝手に言ってることだからな?」
流石に、この発言に関しては弁明する。勿論、二人のことは嫌いではない、というか寧ろ好きではあるが、流石にそんなことに同意できるほど俺の度量は大きくないのだ。
けれど、そんな俺の弁明を嘲笑うかのように、二人に遅れて最後の一人、空亡が少し考えるようにして紡いだ答えは酷いものだった。
「そうさな、我は彰に、共に生きることを請われたからここにいる、と言っておこうかの」
幼女に生涯の伴侶を願う事例。……どう聞いてもロリコンの所業だった。
嘘は言ってない、確かに俺はそう何度も願って交渉したけども……!
それ、どう聞いてもプロポーズにしか聞こえないから! 見た目幼女の空亡にそんな告白するとか、俺の人間性どうなるんだよ……!?
「へぇ、彰、あんたちょっとみないうちに、相当な趣味になったみたいね……」
ゴゴゴ、とまるで後ろに般若がいるかのように恐ろしい笑顔の奈々。
……彼女の誤解を解くまでに俺がひたすら罵倒と説教を食らったのは言うまでもない。
依織とレイアは両親の知り合いをうちでホームステイさせたことに、空亡に関しては虐待を受けてきた少女を匿ったということで、どうにか奈々への説明を終える。
「もういいわ、色々ありそうだけど、ここでどれだけ聞いても無駄っぽいし」
後日学校で覚えていろよ、ということか。……勘弁してくれ。
「それで、さっきから気になってるんだけど、なに、その手?」
そう奈々の言うその手、とは当然最初から視線を向け続けていた、俺の手のことだろう。
現在の居間にいる俺達の位置関係は、俺と奈々は向き合うように対面のソファに、そして俺は両隣に座るレイアと依織と手を繋いでいるのだ。
「あー、これは、その……」
俺だって逆の立場なら、どうしてずっと手を繋いでるんだ、と聞きたくなる。だが、身体を変化させる為なんて言えるわけが無いし、いい誤魔化しが思いつくわけでもない。
「あら、そんなことも分からないの、あんた?」
どう説明したものか、と思った矢先、隣でレイアが口を開いた。
「はぁ?」
「繋ぎたいから繋いでるのよ、あたし達は」
「えぇ、それだけ深い中、ということになりますね」
レイアの言葉に依織が重ねるように言葉を繋げ、更にそのまま二人して見せ付けるように俺と繋いだ手を上げる。……こういうときだけ、どうして息が合うんだこいつらは。
「……分かった。そっちがそういうつもりなら、こっちにも考えがあるわ」
据わった目でそう言うと、おもむろに奈々はソファから立ち上がる。
「んなっ!?」
「ちょっと!?」
「何を!?」
俺、レイア、依織の叫び声。それは、奈々の行った突然の暴挙への反応。
「いいでしょ別に、幼馴染なんだから、ちょっと抱きつくぐらい?」
そんな悪びれない奈々の声は俺の真横から。
彼女は俺の後ろに回り、後ろから首元に抱き着いてきたのだ。
「いいわけないだろ!? ちょっ、お前なに考えてるんだよ、いきなり……!?」
少し引き締まりながらも柔らかな腕、頬をくすぐる髪、そして首元にかかると息。これで落ち着いてなんかいられるわけが無い。レイアや依織のせいで経験が無いわけじゃないが、それでも異性に抱きつかれることに耐性なんて出来てないのだ。
「そうです、さっさと彰さんから離れなさい! いきなり何をしてるんですか、あなたは!?」
「そもそも幼馴染だからってなんなのよ! そんな理屈が通ると思ってるの!」
レイア達が奈々を引き剥がそうとするが、女の細腕ながらスポーツで鍛えられた筋力がある。きつく密着していることもあって、二人がかりでも簡単に引き剥がせない。
「誰がなんと言おうと彰の幼馴染はあたしなのよ! そう、彰の事は一番あたしが知ってるの! ねぇ、彰はわたしに抱きつかれるの嫌いじゃないわよね?」
そう聞いてくる奈々だが、俺には答えることは出来ない。
外されまいと必死に抱きつく奈々と、それを外そうとするレイアと依織によって、俺の首は締め付けられているのだから。ある意味、こんなことになれてきた自分が悲しい。
「……ぁ」
けれど、意識が落ちる寸前、致命的なことに気がついた。
――奈々と戦う二人の手が、俺の両手から外れていることに。
だが、気づけただけ。結局、俺は何も出来ずそのまま意識を失ってしまうのだった。
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エイプリルフールですね。
そんなわけで、折角なので更新再開します。
いやまぁ公開するタイミング逃したまま放置してたといいますね。。。
とりあえず今日中に1話分は更新します。
本作は元々応募用のもので、その際に展開上入りきらなかったり、つかえなかったりした設定などを詰め込んだのが二部になります。
色々アレですが、よろしければどうぞお付き合いくださいませ。
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