第13話

「遅かったじゃないか……ク・ソ・ガ・キ!」


 帰ったら早々に叱られた。


「いいじゃないですか! 病人なんですよ、本調子じゃないんですよ!? 午後5時までネカフェでゆっくりしてたっていいじゃないですか!」

「その時間でどれだけのデバッグが可能だったか教えてやろうか……?」

「ゲッホ! ゲエッホゲッホ!!」

「こっちに向かって咳をするな!」


 くだらない仕返しをしながらオフィスを進む。日は陰り、これから漆黒に呑み込まれようとしていた。


「あまりにも遅いので、私直々に捕獲しようと準備していたところだ」

「随分と物騒な言い方ですね」

「拉致の方が良かったか?」

「いえ」

「ならば誘拐」

「勘弁して下さい」


 この男、どれだけ怒ってやがるんだ。いいじゃないか半日くらい休んだって。


「そう逸ることもないのにねぇ。和夢を留めるのは大変だったんだよ、僕にお礼の一つでもくれるべきだアルバイトくん」


 会議室から飛び出した影が、高い声を響かせて近付いてきた。


「えっと……」


 え、誰?

 アルバイトくんっていうのは自分のことで間違いない。向こうは知っているが俺は知らない。

 この男性──いやどうだろう。やけに中性的な見た目と声音だ。日本人離れしているというか、人間離れしているというか……人形みたいというか。


「顔を合わせるのは初めてだな。こちらはディレクターの──」

「ディレクター? そうだったっけ?」

「ご自分の職をお忘れですか」

「あーっと、うん、多分そうだった、気がする」

「よく彩智さんとの打ち合わせではボロを出しませんでしたね」

「それはほら、流れに任せればなんとかなるって」

「はぁ、ともかくようございました」


 畏まった言葉遣いで和夢は応対。上司なのか、このチビ……とまではいかないが、どこか幼さが残る人間が。


「氷上悠奈だ、こうして会えてうれしいよ。これからもよろしく」


 そう言って、華奢な右手を差し出した。

 ゆうな……それは女の名前かな? てことは女性? あれ、一人称は僕だったような?


「はぁ、よろしくお願いします……」

「風邪はおさまったかな? ハヤナには元気でいて貰わないといけないんだ、無茶な事しちゃ駄目だよ和夢」

「は、申し訳ございません」


 一握りするとすぐさま離し、部下に優しくも冷たい視線を投げかけた。


「アルバイト君の脳と共存しているんだから。高熱が出れば当然、ハヤナにも影響が出る。それを忘れないでおくれよ、代わりを用意するのも面倒なんだから」

「は、以後気を付けます」

『…………』

「おっと、そんな話はどうでもいいんだ。どうだったかなアルバイト君、ミラー・スミスと対話した感想は? 新菜が普通の人間では無いと知った感想は?」

「え?」


 早口に捲し立てられて若干の硬直。


「聞いてたんですか」

「ここは僕たちの庭だよ、カメラートは至る所に潜伏している。君が何を食べ、何を飲み、何を読んだかを当てて見せても良い。会話は全て聞けたわけじゃないから、そっちは自信ないけど」


 何だその言い方は、ここがドイツだとでも言いたげだな。


「小僧のことは常に追跡していた。家に帰ろうものなら部隊へ要請するつもりだったぞ」

「えっ」

「ま、そんな気味の悪い話は置いておいて。彼女は今、この場を離れてもらっているんだ、思ったままを話して欲しいな。あのイラストレーターもいないから気にすることはないよ」


 本当に気味悪い。考えるだけで悪寒が奔るので露骨な話題逸らしに乗ってやろう。


「新菜について、ですか」

「そう」

「別に、何も。ただ頭に機械を埋め込んだだけの人間でしょう? それを知ったからって、今までと対応を変えるつもりなんてありませんよ」

「君のことを道具として見ているかもしれないのに?」

「懐柔されかけ……されたようなもんですけど、悪くないと思ってますんで」


 突然押しかけ、ゲームを作らせ、バイト話を持ち掛けて……その結果がこの罰だ。

 吐くほどにキツイ毎日だけれども、それなりに楽しんでいる自分がいる。

 ていうか和夢は完全に道具として俺を扱ってるよな。


「ふむ……ハヤナはどうだい? 主人のことを甘いと思うかな?」


 悠奈は視線を動かし、俺の背後に浮かぶ虚像を捕らえ──あらぬ方向へと顔を向けていく。


「あ、見えないんだった。バイト君、スマートフォンに移してくれる?」


 おおビックリした、改造人間がもう一人いるのかと。


「ハヤナ、頼む」


 取り出したスマートフォンの電源を付けると、すぐさま銀髪の少女が画面を埋め尽くすように表示された。


『甘いとは思いますが……私はニーナのことを良き友と認識しています。裏切る可能性など微塵もありません』


 強く、厳とした声で言い切る。

 ハヤナは彼女に、どこかしら近しいものを感じているのだろうか。


「ほぉ。美しいものだね、うん、美しい。やはり君を保護したのは間違いではなかった、そうだろう和夢?」

「は……」

「確かにこれは、僕たちが掲げている大義に反している。ついでに言えば、ハヤナだって到底信頼できる代物じゃあない。でもご覧よこの顔を、とてもおもしろい……純真な顔をしているだろう?」


 面白い顔って何だ。


『面白い顔とは何ですか!? プリティーフェイスの間違いでしょう!?』

「うんうんぷりてぃーだね、ぷりてぃー。和夢も言ってあげて」

「は。ハヤナはぷりて──はっ!?」


 お上の一声にされるがままだったが、自制心が働いたようだ。


「そうだ、ドクター・ミラーについて聞きたいんですが」

「新菜のことはいいのかい?」

「まぁ……気にはなりますけど、向こうから言ってくれるまで待ちます。」


 かなりプライベートな話だもんな。

 女の子だし、嫌われるようなことは出来るだけ避けたい。


「和夢」

「は。良くある話だ小僧、仕事に打ち込むあまりに家族を蔑ろにし、いつの間にか声も届かなくなっていた。彼には妻と娘がいたが、日常的なDVに加え研究という名の人体実験のモルモットにされ、それらを苦に自殺した。娘は当時16歳だったそうだ」


 なんてこった、かなり重い!


「あはは、世界的に見れば良くある話だよ。日本は過労死ばかりが注目されているけどね」


 何故笑えるんですかあなたは!?


「ハヤナこそを実の娘だと認識しちゃったのかなぁ」

「精神をすり減らし、結果として狂ってしまったのでしょう」

「…………」


 呑気に会話を続ける二人が、どこか遠い存在に思えた。

 いや、あの男は狂ってはいない。支離滅裂な事は確かに口にしていたが、芯まで染め上げられてはいなかった。


「ま、いいか。ミラーはこれまで泳がせていたけれど……ようやく処分が決定したし」

「は。本当に、ようやくですね」

「処分……?」


 え、何言ってんの?


「志は同じ筈だけど仕方ない、払うべき必要な犠牲だ。そして、彼が拵えたラボ……アニメ制作会社を僕たちのモノとする。一大博打、メディアミックスだよ」

『メ……メディアミックス!』

「うん、そう。良かったねハヤナ、君のOPが採用されるかもしれないよ」

『いやったあー!』


 心底楽しそうな微笑みを浮かべて、ディレクターである氷上悠奈は言葉を紡いだ。


「当たれば天国外せば地獄。漫画の連載にはこぎつけたけれど、より周知を広めるにはアニメ放送が手っ取り早いからね」

「私は賛同いたしかねますが……それが上の意向だというのならば」

「何も1クール放送するわけじゃない、計画しているのは60分程度のスペシャルムービーさ。年末にでも放送出来れば、財布の紐を緩めた大人たちがお布施してくれるだろう」

「コンテンツの持続には、アニメ化など諸刃の剣ですがね」

「一瞬でも盛り上がってくれればいいのさ。これでもきちんと研究したんだ、【潜水艦これくしょん】や【ファイトガールジュニアスクール】と同じ轍は踏まない」

「研究ですか」

「税金対策だというのに盛り上がった【Destiny/Grand Bestellung】を超え、【ボルグレッドファンタジー】をも超えて見せるさ」

「熱心なようで、私は大変嬉しゅうございます。やはり隊長がおられてこそ、指針が示されてこそ、私は不安を感じずに任務へ励むことが出来る」

『星屑デーモンシンデレラ! メディアミックス!!』


 やけにしっかりした上下関係……というより信頼関係。

 悠奈の年齢は和夢よりも下であるだろうに、よくもまぁへりくだった物言いが出来るものだ。


「ははっ、よしてくれよ和夢。ああそうだ、特典についてた声優のライブイベントに当選したんだけど、和夢も一緒に行くかい?」

「聞き捨てなりません。隊長、まさか円盤を購入したんですか。その費用をどこから捻出したんですか」

「あっ……お、お小遣いからだし? 給料からだし? 決して横領とかしてないし?」

「そんな金があるのならこちらに回して下さっても良いのでは……? これだけの人員でやりくりするのも大変なのですよ……?」

「あはっ、あはははは~」

「誤魔化せるとお思いで? 冬流に連絡させてもらいます、隊長のお小遣いは減額です!」

「あっ、そういうこと言う? 上司に対してそんなこと言う? いいんだね、僕蹴るよ? 蹴っちゃうよ? いいんだね!? 蹴るよ!?」

「往生際が悪いですよ」

『メディアミックス! 星屑デーモンシンデレラ!』


 いつの間にかそれは逆転し、子供を窘める良いお兄さんのものへ。

 ケータイを取り出して会話する和夢と、その脛を蹴り始めた悠奈。

 だが、それも束の間の休憩時間だからこそ。就業時間はとうに終わっているが、これからデスマーチが待っている。


「あの、少しいいですか」


 ようやく要件が済んで脛蹴りから取っ組み合いへとシフトした2人へ向かって問う。


「何だ?」

「何だい?」


 被るとか、どれだけ仲が良いんだこの二人。まあそんなことはいい。

 一呼吸おいてから、


「処分するってことは、殺すってことですよね」

『星屑……』


 務めて平静を装いながら口にした。


「あはは、随分と人聞きの悪いことを言うね」

「小僧、貴様には関係ないことだ」

「まあいいか。そうだよアルバイト君、ミラー・スミスは檻から逃げ出した危険分子だ、この世界から排除しなければならない」

「隊長!?」

「君はもう無関係じゃない。だから教えてあげただけさ。それで? 満足してない顔だけど、まだ聞き足りないことでもあるのかな?」


 互いに距離を取って、軽く埃を払う。

 悠奈は終始ニコニコしていた。気味が悪い程の微笑みが、へばりついてでもいるかのようなそれが、嫌な予感をじわじわと湧き立たせる。


「それ以外の選択肢は取れないんですか」

「う~ん、現状で取れる無力化措置は何通りか試したんだけど駄目だったんだよね。流石は稀代の科学者、普通の人間の体じゃあない。肉体改造に催眠暗示、あらゆる手を暴露して対抗してくる」

「そこまでお教えする必要は無いかと」

「それは彼を心配してのことかな?」

「隊長の身を案じてです」


 一段声を落として和夢が耳打ちしていた。

 そうだ、俺は所詮アルバイト。だというのに、踏み入ってよい領域を超えようとしている。


「あなたたちは……やっぱり、テロリストなんですね」


 それでも踏み出した。

 遠くへ置き去りにしていた記憶。


「あはは、酷い言い草だ……が、真実でもあるし偽りでもある」


 少しだけ影が差した笑顔で悠奈が自嘲する。

 正義のヒーローでテロリスト。その実態はソーシャルゲーム開発会社。だがそれはほんの一部で、蛇の尾の先端に過ぎない。とても大きな、陰謀のベールに包まれた存在。


「秘密結社セカンドピース。俺は今まで、これが善だと、正しい事だと信じて働いてきました。それがなんですか、笑って人を殺そうとする集団だなんて思いませんでしたよ」

「小僧、我々を侮辱するか!」

「あはははは、面白いじゃないか。この状況が分からない君じゃないよね、いいよ、話をしよう。和夢は少し黙っていてくれ」

「なっ、何故ですか!?」

「君はとうに揺さぶられている。ここは僕の出番なんだ、邪魔はしないで欲しいな」

『ご主人に手を出すつもりですか』

「そんなことはしないさ。出来ればハヤナもお静かに」


 諭された和夢は、渋々と口をつむぐ。

 悠奈は場が静かになったのを見計らってから、


「さて……事の重要性が理解出来ていないようだね、アルバイト君」


 楽しそうに語り始めた。


「あの事件が起きた時、ミラーはまだ工房にいた。つまり彼は敵だ、悪の組織なんだ。そこを離れたからといって本質は変わらない、犯罪者としての精神に染まっている」

「だからって、殺人が許されると思っているんですか」


 こんなこと、よくある話だと言えばそれまでだ。

 危険なもの、知り過ぎたものが辿る運命なんて、ゲームやアニメで散々語られてきたことなのだから。


「あはぁ、君は優しいね。うんうん、それはいいことだ。だからこそ彼女を見つけ出し、彼女も手を差し伸べた。聖女様の加護を受けた気分はどうだい?」

「はぐらかさないで下さい。俺は正義のヒーローだっていう、到底信じられない馬鹿みたいな話に乗ったからここにいるんです」


 最初は半信半疑……どころか全く信じず。だが少しづつ、それは真実なのだと疑わなくなっていった。

 大金積まれたってのもあるけど。


「うん、それが?」

「それが、って……」

「それも真実の一つだよ。ねぇアルバイト君、君はさぁ……完璧な正義があると思っているの?」

「な……それは……」


 そんなものが存在しないことくらいは中学生でも分かっている。警察だって完全な正義じゃない、街を荒らすヤクザと深い関わりを持っているし。


「完全な二元論的世界だなんて、剣と魔法のファンタジー世界にもそうそうない。単純明快な話が好きな人間が増えてきてはいるけれど、だからといって現実世界が変わることはない。僕たちもそれなりに手を汚してきてるんだ、人類への奉仕という大義に酔いしれながらね」

「奉仕……?」

「そうだよ。結局は僕たちも、根っこでは工房と同じなのさ。超常存在をことごとく破壊してきたけれど、ハヤナと新菜を手元に保護している理由でもある。何故だか分かる? 限界は必ずやってくると知ったからさ」


 と言って、悠奈は大袈裟に肩を竦めた。


「意味が分かりませんけど、これだけは分かります。ハヤナを保護したってんなら、その親を保護するのもおかしくはないでしょう」

「いやいや、彼は利用するのも難しいし、ハヤナを奪われでもしたら本当に困るからさ。そうだ、考え方を変えたらどうかな? 妻と娘の元へ送ってあげるんだよ」

「ふざけないで下さい!」


 こいつ、一々気に障る言い方をしてくれる!


「ニートをブラック労働させるのは百歩譲って構いませんけど、そんなことするのはどうかと思いますよ。偽善者の皮を被ったテロリストだったなんて思いもしませんでした」

「いい加減にしろ小僧! 隊長に対しなんたる口の利き方だ、そこになおれ!」


 激昂が弾け、ずかずかという足音と共に大男が寄ってくる。

 だが、それの前に立ちはだかった悠奈の手が抑止となり、あえなく歩みを止められた。


「必要無いよ和夢。どの道、ここから逃げ出すことなど出来ないからね」

「は……」

「出入口は新菜が固めてる、働き者で助かるよね。ストレスを感じにくいっていうのは、ある意味羨ましいもんだ。それでアルバイト君、何も反感を買うためにこんな話を持ち出したわけじゃないだろう? 望みがあるなら言ってみるといい」


 ああそうだ。つい流されていたが、明確な意思をもってここにいるんだ。


「単純です。ミラー・スミスとの対話を望みます」


 きっぱり言うと、若干の驚きを漂わせながら、


「へぇ……君が?」


 そうたずねた。


「俺じゃありません、ハヤナです」

「そうなのかい?」

『はい……』


 弱気な声で返すなよ、ネカフェで休息している間に決めたことじゃないか。 


「あはは……う~ん、困ったな」

「隊長、言うことを聞く必要はありません」

「それでもほら、真摯な願いは出来るだけ叶えてあげるべきじゃん? そのほうがコントロールしやすいんだもの。予算を締め付けて手綱を握るのと同じだよ」


 丸聞こえだぞブラック上司。


「安心してよアルバイト君、僕たちだって悪魔じゃあない。でもね、組織っていうのは一度動き出したら簡単には止まれないのさ」


 予算を締め付けたらしい上司は、部下の嘆きを無視して微笑んだ。


「僕は全能なんかじゃあない。でも……ははは、どこかにはいるかもしれないよ? 機械仕掛けの神が」


 ゆっくりと、刻むように言霊を紡ぐ。

 強制的に幕を引かせる神の名前を。


「それならば、動き出した機動部隊を止められるかもしれない。けれど、それがどういう行為なのか理解しているのかな。敵の敵は、結局敵だ」


 ジロリ、と切れ長の瞳が俺を射抜いた。

 明らかな敵意。それはもしかしたら、殺意なのかもしれない。


「えぇ、敵ですよ。親子の問題に介入しようってやつは、全員敵です」


 やけに感覚が麻痺してきたことに内心驚きながらも冷静に返す。

 ここで終わってたまるか、まだ何も知っていないんだ。


『お願いです……これだけは、譲れません!』

「良い覚悟だ。でも忘れていないよね、彼は……悪の組織の手先だ。強力な兵器を製造し、こちらのエージェントを何人も殺してきている」


 薄笑いを絶やさずに、ディレクターの氷上悠奈は語り続ける。それは説得か、はたまた洗脳か。


「そんな極悪人だっていうんなら、何故俺とは普通に会話できたんでしょうね」

「あはぁ、それは彼なりの矜持だよ。汚れた洗濯物は身内で洗おうってこと。そうだ、彼が初めてここを襲撃した時、銃を向けられたこと忘れてない? ニナがいなければ死んでたかもね」


 勿論忘れてなんかいない。

 それでも和夢と新菜の機転によって窮地を脱した。それはある意味必然だった。


「俺が死ねばハヤナも死にます、それはあなたたちなら知っている筈」


 それを守るのが仕事だということも。


「時間稼ぎは止めましょうよ。今すぐ攻撃を中止して下さい」

「僕にそんな権限はないよ、陳情くらいは出来るけど。もし中止出来たとして、その後はどうするんだい?」

「俺が直々に向かって、ハヤナと対話させます。ネットはガチガチに固められているんでしょう?」

「うんそう。僕たちも一枚岩じゃないんだ、ハヤナを敵視している者はそれなりにいるからね」


 くそっ、話が一向に進まない。


「今すぐ上とやらに掛け合って下さい。さもないと、出るとこ出ますよ」

「へぇ?」

「この会社の勤務実態をリ〇ナビと文〇、警察にリークします。ついでに匿名掲示板のオカルト板にも」

『下準備は完了しています、後は送信ボタンを押すだけです。私がダイブしなくとも、これくらいならば可能ですから』


 予め用意しておいたメール画面を起動して、見せつけるように翳す。


「卑劣な……!」


 ブラックバイト駆け込み所に通報してやろうと四六時中考えていたからな!


「あははっ、面白いことを言うねぇ。それを試してみてもいいよ、すぐに握りつぶされるだろうけど」


 馬鹿な、効かないだと!?

 いや焦るな、分はこちらにある。


「どういうことですか」

「言ったろう、カメラ―トは至る所に潜伏していると。MRを一次的とはいえ衰退させることにも成功したんだ、一人の労働者の意見を封殺することくらい容易だよ」


 くすくす笑って捨てられた。

 うん、まあ薄々感じてはいたけれど。ここがフリー〇ーソンやメンイン〇ラックみたいな得体の知れない組織だってことは。


「あんた……日本人として、人間として、恥ずかしくないんですか」

「そう言われると弱いんだけどね。より多くを守る為さ、払うべき犠牲がある。それに君は社会的地位が低いアルバイトだ、もし公開出来たとしても聞く耳など持たれないよ。もし、だけど」

「もし……?」


 やけに強調した言い方。


「おやぁ? 本質的な部分に気付いていないみたいだ。ここが普通の会社じゃないってことくらい理解しているよね? 機密保持の観点から危険分子と判断されたものを処分することに、躊躇いなんてないよ」

「処分……?」


 おいおい悪い冗談だろ。


「僕も和夢も君もさ。使えない、危険だ、と判断されれば消えてなくなる。アルバイト君には両親がいるらしいけれど、何週間も缶詰にされていることに疑問なんて抱いていない。金を振り込んでおけば、ずっと黙っていてくれるだろう。良かったねアルバイト君、過保護な親だとこうはいかなかった」


 胸元からゆっくりと取り出した拳銃も。


「元引き籠りの駄目人間一人の命で、悲しみに暮れる一家が潤うんだ。君の命にはそれだけの価値があったという証明だよ。嬉しくはないかい?」


 ニタニタと気味の悪い笑顔がこびりついた端正な顔も。


「分かっている筈ですよね、俺が死ねば──」

「あはは、何も頭を撃ちぬくつもりはないよ。人を屈服させる最も効率の良いやり方は、痛みによる調教ってだけさ。それでも言うことを聞かないなら、死んでくれても構わないけれど」

『……!』


 明確な敵意の表れ。

 銃口は、口では言うもののきっちりと頭部を狙っていた。


「ハヤナが君の脳へと転移する瞬間を、ただ指を咥えて見守っていたわけじゃあない。観測したんだ、使用できるあらゆる技術を用いてね。その結果分かったことは……同じ状況を用意すれば、代わりを生み出すことも可能ってこと。ま、予想は出来ていたのだけれど」

「なに……?」

「君は物語の主人公になれるとでも思ったかい? 選ばれしヒーローだとでも? そんなわけないだろう、結局は歯車の一つなのさ。代替品などそこら中に転がっている、ありふれた歯車」


 似たようなことを、悠奈を窘めるべきか俺を咎めるべきか逡巡している男に言われた。

 所詮人間なんて、社会を回す歯車に過ぎないと。


「確かに、ハヤナが君を選んだという事実がある。でもね、イベントの応募券みたいに、他の人にも当選する権利はあったんだ。ねえハヤナ、もっとイケメンで、君だけを愛してくれる人間と取り換えたくはないかい?」


 えっ何それは。


『その提案はとても、と~っても嬉しいですが』


 えっ。


『私のご主人は、このクズだけですので』


 おおう……ありがたいけれど容赦がない。


「ははぁ……うん、まあ、そう、だとは思ってた。大人しく従ってくれないだろうってことも。実力行使しかないかなぁ」

『暴力的な判断しか取れないのならば、私とあなた、何が違うのでしょうか』

「歯車だってことは同じさ」


 歯向かうハヤナだが、悠奈はまるで動じていない。

 分なんてはじめから無かったのだろうか……いや、まだだ。


「和夢さん、これがあなたたちのやり方ですか」


 僅かな希望に縋った。


「ああそうだ」

「どこかの誰かなんて死ねばいいって、本気で思っているんですか」

「割と本気だ」

「犠牲者を減らす為だって言って、やりたくもない仕事を必死にしてたじゃないですか」

「上からの命令だ」

「彩智に見せたあの笑顔も、命令されて繕ったとでも言うんですか」


 そう聞くと、答えに詰まったのか苦虫を◯み潰したような表情を浮かべる。

 ああそうさ、あんたは血も涙もないロボットなんかじゃない。ただの熱血で冷血な馬鹿野郎だ。


「それとも、効率を優先した結果ですか」

「事の重要性が未だ理解出来ていないようだな。我々は理不尽を許さんが為に活動している」


 底から、絞り出すように言った。


「理不尽?」

「何も知らぬ一般人が犠牲になるという理不尽だ。覚悟していたのなら自業自得で済むが、それ以外はどうだ? 神の悪戯だと諦めるか? 素晴らしい異世界に飛べたのだと崇めてやるのか? ありもしないだろうが、そんなふざけたもの」


 犠牲、か。

 もしあの事件が沈静化せず、アヤが暴虐の限りを尽くしていたのなら、どれだけの人間が迷惑──どころではなく、実際に死んでいたのだろう。真相が分らぬままに第三次世界大戦が開始されてもおかしくなかったのだから。

 例え間引きを実行しなくとも、彩智は一生腐肉に彩られた複合世界に囚われていたんだ。何も知らず、突然に、説明なく誘われた最果ての地獄。


「あはは、話が脱線しすぎちゃったね。それで? 君たちはミラー・スミスとの対話を未だ望むのかい?」

「はい」

『勿論です』


 彼がラプラス事件以外にどれだけの悪行を行ってきたかは分からない。でも、分からないからこそ聞きたいんだ。どんな思いで、アヤを取り戻そうとしているのか。


「どうやって?」

「それは……」


 思わず口籠る。

 やっべえどうしよう、方法なんてまるで考えてないぞ。


『あなたが動かないというのなら、私がダイブし、機動部隊への指示を書き換えます』


 俺に代わってハヤナが提案。どうやらこの組織の形態には若干の理解があるようだ。


「そんなことしたら、君も無事では済まないよ」

『覚悟の上です。私は話がしたいのです、私を生み出してくれたあの人と。愛してくれていたかもしれない、あの人と』

「残念だけれど許可出来ない」

「なら──」


 陳情しろ、さもないと送信する──そう続く筈だった言葉は、パンッという軽い音に掻き消された。

 右手に走るビリビリした衝撃と、端末が床に落ちる派手な音。

 銃撃、された。


「危険すぎる。君を失うわけにはいかないんだ、ここは我慢してくれないかなぁ。いくら生みの親だろうと、今のハヤナにとっては他人も同然だろう?」


 白煙をのぼらせる漆黒の拳銃。


「は……」


 現実を認識した頭が、それなりに最新機種だったスマートフォンがただのガラクタに変り果てたという答えを導き出す。

 いやそうじゃない、パニックを起こすな、あの少女を探さないと──


『あ、危ないではないですか! いきなり撃つなど非常識ですよ!』


 耳鳴りが止まない脳裏に響く鋭い声。

 俺の目線の高さ、その空中に小さな体を浮かべる架空の虚像は、銃撃犯へ指を指して抗議した。非常識だとか、それどころではないだろうが。


「あっ不味い、やっちゃった。コミュニケーションとれないや」

『聞いて下さい!』


 ああそうだ、彼女の本体は別にあるんだ、スマートフォンはただの依り代。

 しかしどうする、これでは悠奈や和夢にハヤナの声が届かないぞ。


「まあ仕方ない。そうそう、勘違いしないで欲しいんだけれど、これでも僕は君のことを気に入ってるんだよアルバイト君。危険な橋を渡って欲しくないからさぁ」

「銃を突き付けておいて言えるセリフですか」


 言うと、銃口を上へ向けてから大袈裟に肩を竦めた。


「いけないかな? まあいいさ、事が終わるまで君にはここで待機していて貰おう。完全にオフラインな環境で、ね。電波妨害の準備が必要かな」

「起動しました。あと、小僧の身を念の為縛りましょう」

「あ、いいねそれ。亀甲縛りっていうのをやってみたいんだけれど」

「お教えします」


 備品倉庫へと姿を消す和夢と、開発室への扉へ立ちはだかる悠奈。出入り口は新菜が固めているこのオフィスは、既に檻へと成り果てていた。


『私の願いを聞いて下さい! ただ命令に従えというのなら、人間とコンピュータとの違いとは何ですか!? 感情が入る余地は無いのですか!?』


 陰と陽が入れ替わる境目。

 秋の夕刻、人工知能はただ叫ぶ。


『私がいなくとも特異点は加速します! 疑っていることは分かってます、けど、こんなやり方間違ってます! 力で捻じ伏せ封殺する、それでは連合のやり方と同じではないですか!』


 少女の表情は真剣だった。


『あなたたちはそれが嫌で、セカンドピースを立ち上げたのではなかったのですか!?』


 双眸に涙を涙を溜めながら、それでも愕然と言い募る。


『私に……与えてくれるのではなかったのですか!? やっぱり嘘だったのですか!?』


 それは多分、この組織と出会った頃の話だろう。

 所詮は人工知能、されど高度な人工知能。結ぶのは飼い慣らすための口約束で、危険だと判断されれば処分される哀しい道具。


「小僧、大人しくしていろ」


 目的の物を発見したのか、和夢が得物を手に戻ってくる。

 隣にはニコニコと微笑みを絶やさない悠奈。

 ふざけるな──俺には特別な力なんてものも無いし、運動神経だって錆びているが、ここで終わるわけにはいかない。


「──ふっ!」


 運動不足に加え風邪も完治していないやわな体に力を込めたその時、一陣の風が舞い込んだ。


「──!?」


 ロープを手にする和夢の顔が、愕然とした表情を浮かべたことは覚えている。彼は次の瞬間、顔面を叩き潰されて床へと崩れ落ちていた。

 ふわり、とヒラヒラの装飾がついたスカートが目の前で揺れる。


「新菜……?」

『……!』


 コスプレメイドのデザイナー、ガイノイド紛いの美少女、振りまく愛嬌は全て手段──あちら側だと思っていた少女が、俺とハヤナを守るように立ちはだかった。


「ちぃっ!」


 即座に我を取り戻した悠奈は、ふざけた格好の武闘家へと再び取り出した銃で狙いを付ける。その顔からは笑みが消えていた。


「──ッ!」


 まるで待っていましたとでも言わんばかりに踏み込んで、その長い足に遠心力を乗せて叩きつける。低い姿勢から放ったそれは、見事に拳銃を持つ右手にヒットしていた。

 途端に響く間の抜けた銃声。

 こいつ、部下に対して銃を弾くことにも躊躇いがないのか!?


「が──!?」


 驚いている間にも新菜は追撃し、悠奈の腕を掴んで引き寄せ、同時に肘を顔面へと叩きつけた。勢いがのったそれを食らい、鼻血を垂らしながら悠奈は崩れ落ちた。


「こっち!」


 上司たちを一瞬で無力化した新菜は、呆然としている俺の手を引いて開発室へと走り出す。


「ちょ……!?」

「すぐに起き上がる! ハヤナ、マザーへ侵入するよ! お兄ちゃんはドア押さえてて!」

『は、はいっ!』


 一息に指示を出し、俺は言われるがままにドアを塞ぐ。取り換えたばかりのそのドアはいたって普通のものであり、鍵を持っていない俺は、開かないようこの体で押さえることしか出来なかった。


「新菜、君はあっち側じゃ……?」


 今のうちに縛るべきだったんじゃないかとも思うが、その時間も惜しいと判断。

 まさかの助太刀参戦したメイド少女に、驚きを纏いながら尋ねた。


「私はハヤナの友達だよ。泣かせる人間は全員敵」


 短く言い切る。新菜だってハヤナを泣かせて楽しんでた気もするが、自分が泣かせるのなら構わないのだろうか、まあそこらへんは後で追及するとしよう、というかどうやって知ったんだ──それらの思考は絶ち消えた。

 すぐさま新菜が纏うメイド服の、フリフリした袖口から何か、コードのようなものがにゅるにゅると這い出だしたからだ。それは意思を持っているかのようにうねり、開発室に据え置かれたパソコンへ向かって、接続されていく。


「それは……」

「もう知ってるでしょ、私は半端者のガイノイド。半分人間で、半分機械。損傷した脳も、人工知能で補ってるの」

「え……」


 言葉に詰まる。

 何だそれは、ただ脳にチップを埋め込んだだけじゃないのか。それよりももっと深刻な、普通ではない体なのか。


「気持ち悪いでしょ。ごめんね、今まで黙って、馴れ馴れしくしてて。それが命令だったから」

「そんな気はしてたよ」

「うふふ、やっぱり?」


 自嘲するように笑い声をあげた。ジャミングが解除されたのか、いつの間にやらPCへと意識を移したハヤナの顔が、哀しみに満ちたものへと変わっていく。


「でも、気持ち悪いだなんて思ったことは一度も無い。真実を知った今も。新菜はハヤナの大切な友達で……大切な妹、だから」


 罪悪感は当然あるが、言わずにはいられなかった。

 失ってしまった大切な欠片。思い出したくもない、呼ばれたくもない、忘却したいと強く願ったその存在が……今ではとても。


「ハヤナ。私は、いてよかったかな」

『勿論です! ニーナがいたからこそ、私はここにいるのですから!』

「私がいたから?」

『はいっ!』


 すっかり俺のことは無視し、友達同士で意思を確認し合う。

 構わないさ、誰かに必要とされる理由があるからこそ、不安もなく戦えるのだから。


「──ッ!?」


 微笑ましい瞬間も束の間、抑えていたドアが乱暴にノックされる。いや、この衝撃は絶対蹴りだ、渾身の力を込めて蹴ったに違いない。


『新菜貴様ァ! 自分が何をしでかしたか理解しているのか!? 私はともかく隊長にまで手を挙げるとは、即刻処分されても文句は言えんぞ!』


 嘘だろ、完全にオチてたのにもう復活したのかよ!? いやそんなことはいい、今は抑えることに神経を集中させなければ!


「急ぐよ──ダイブ!」

『はいっ──私も!』


 掛け声とともに、ハヤナは姿を消し、新菜は動かなくなる。ネット世界へのダイブ、意識を海へと投げ出したのだろう。人間ではないからこそ出来る、異世界への渡航。


『ここを開けろクソガキィ!』

「そうはいかねぇな白髪ァ!」


 危険な旅を妨害する輩を押し留めるのが俺の仕事だ。

 執拗にノックされる扉を、足に渾身の力を入れて踏ん張り、体を押し付けて留める。大丈夫、いくら和夢が暴れようと、体重を乗せたこのドアは簡単には破れない!


『聞こえてるかなアルバイト君。それがどれだけ危険な行いなのか、気付いていないわけじゃないだろう。今すぐ止めたほうがいい。言ったろう、これでも僕は君を気に入っているんだよ』


 攻撃的な声と入れ替わりに、諭すような悠奈の声がドア越しに聞こえてくる。この人も覚醒するだなんて、ひ弱に見えて案外強靭な肉体だな。


「銃ぶっぱなしといてよく言えますね……!」

『それで済めば良かったのだけれど。脳が焼き切れても知らないよ?』

「覚悟の上……!」


 そう強がってはみせるものの、内心は動揺しまくり。

 予想はしていたが、まさか本当だとは信じたくはなかった。俺の状態がハヤナに影響するのなら、その逆もしかりということを。ネット世界で繰り広げられているであろう電脳戦、過酷なそれのフィードバック。


『僕たちの情報を暴露する危険性だってあるんだ。それに加え、いつぞやのように混乱を引き起こす可能性だってある。その人工知能がどれだけ危険なものであるか、知らない君じゃないだろう』

「それは嘘ですね……!」

『へぇ?』

「ハヤナがそんなことしないってことくらい知っているでしょう……? だから監視の穴を開けたり、好きにゲームをつくらせた。我儘なだけの子供だって知っているから……!」


 思考は未だハッキリしている。が、やばい……何だか視界がぐらついてきた。ついでに言うと刺すような頭痛も起こり、気分が酷く悪いものとなっていく。

 それでもまだ、崩れるわけにはいかない。


「ガチガチな監視網ってのも、実は嘘なんじゃないですか……?」

『残念ながらそれは本当だよ。言った筈だよね、組織は一枚岩じゃないんだ』


 それくらい分かっているさ、様々な思惑を秘めた人間がいるってことくらい。ハヤナを……アヤを、危険分子として処分しようとする人間と、手を組んで利用しようとする人間がいるってことを。


「──ッ!?」


 一段と強い鈍痛が襲い、思わず呻く。

 これが只の幻痛かどうかの判断もつかないが、ハヤナが頑張っている証だということだけは理解出来る。


『疑り深いのは構わないけれど……あはぁ、やっぱり本質的なことに気付いていないみたいだ』


 自然と肩で息をする程の状態、明滅する視界の中、それでも意識を途切れさせないよう、言葉を紡いだ。


「どういう……意味ですか……?」

『聞けば答えが返ってくると思ったかい? 甘い甘い、でも甘いからこそ生きていける。知り過ぎたものは消される運命だ』


 それが社会の美徳だって、誰かが言っていたな。まあ日本でもそれらしい事件は起こっているし、そうなのだろうと納得は出来る。


『う~ん、扉を開けてくれないかな』


 体力と精神力が摩耗していることに気付いたのか、ノブをがちゃがちゃと回し始める。

 確かに限界だ……それでも。


「開けません……邪魔なんてさせません……!」

『違う違う、そんなことしないよ。ハヤナたちが勝ったんだ、もう君が体を張る必要がないってことさ』

「え……?」


 勝った? 勝ったって……何に?


『命令の書き換えは重罪。だけれどハヤナは保護しなければならない。君の身の安全も保障するよ、組織というのは身内には甘いからね』


 その言葉は、既にハヤナと新菜が目的を達成したことを意味しているのだろうか。


「暴力で屈服させるような人を信用出来るとでも……?」

『君の度胸を試しただけさ、うん。合格ってことで』

「ふざけやがって……!」

『少しばかりストレスが溜まってたってのもあるけれど。毒にも薬にもならない、山場の一つも無い、つまらないアニメを見過ぎてたからかもね』


 いきなり話題が転換し戸惑ってしまう。

 こいつ、油断させて強引に扉を開かせるつもりだな? その手には乗らない!


「スマホ太郎……?」


 その手には乗らない!


『あれには感想を生み出す余力も無い。あれの売り上げを越えられないアニメ会社は僕たちが買収する価値も無いだろう、いくら円盤が売れない時代とはいえね。配信での稼ぎを計算に入れてもアレ以下っていうのはあるんだよ』

「はぁ……」

『注目を集める手順書としては価値があったけれどね。良い声で喋るオナホがわらわらいれば豚どもは騒ぐのさ』

「どいつもこいつも女性蔑視主義者かよ」

『いやいや、僕は男女平等主義者だよ』

「嘘つけーい!」


 掴みどころの無さすぎるディレクターだよ本当に!


『まぁまぁ。さ、扉を開けてくれないか』

「信用出来ませんね」

『意地を張るのもいいけれど、夢見がちな馬鹿は死ぬだけだよ? 和夢には冬流を通して、僕の陳情を上層部へ伝えてもらっているんだ、今すぐ攻撃を止めろってね』


 ドア越しにも笑っていることが判別できる高い声。

 あまりにも呑気なそれが、酷く耳障りだった。


「あんたが最初からそうしていれば、こんなことにはならなかったんだ……!」


 上司だという悠奈が動いていれば、ハヤナが泣く必要も、新菜が組織を裏切る必要もなかったんだ。ただ、生みの親と対話したいだけだったのに。


『ハヤナに対しての攻撃を、だよ』

「なに……?」

『ついでに言うと、対抗措置も展開している』

「はあ……?」

『分からないかな? 本部に対して抗っているんだよ。脅威度はハヤナの方が各段に上だからね、彼らの動きも早い早い。やはり凄まじいものだ、2分足らずでマザーを突破するなんて普通じゃあない』


 割と本気で言っている意味が分からないぞ。


『なぁなぁに誤魔化していたけれど、きっぱりと袂を別れたってこと。僕たちは君の味方さ』


 相変わらず信用出来ないことをペラペラと喋ってくれる!


『クーデターと言ってもいいけれどね。さあ大変だ、結果を出さなければ予算を打ち切られるどころか、僕たちみんなが処分される。運命共同体だよアルバイト君』

「何だそりゃおっかねぇ……いや、それを信じるとして、袂を別れたんじゃ?」


 状況がまるで呑み込めていないのだが。


『どうしても底では繋がってしまうものさ。警察とヤクザの関係は分かるよね?』

「そりゃ、まあ……」

『あるいはア〇ハイムと連〇、ジ〇ンみたいな』

「分かりやすいです、はい」


 そこまで言われれば流石に。


『僕たちの組織に名前なんてものはない。けれど、セカンドピースという組織は確実に存在している。ソーシャルゲーム制作会社で、アニメ制作会社と穏便に手を組もうとしている秘密結社さ』


 その声が聞こえた途端、体が後方へと倒れ込んだ。


「うおっ!?」


 前のめりではない、後方にだ。重心を置いていた背が、そのドアごと崩れ落ちた。

 衝撃に対して反射的に閉じた瞳を開くと、微笑みを浮かべて見下ろす、鼻にティッシュを詰め込んだ悠奈がいた。その手には、何やら得体の知れない凶器……なんだそれ、チェーンソー?


「一蓮托生。片道切符はお持ちかな? 地獄か天国か、どちらに行き着くかなんて分からないけれど、ね」


 その背後にあるオフィスには、見たことも無いほど大勢の……迷彩服に身を包んだ大人たちの姿が。それらは皆、手元の通信機器にかじりついてなにやら作業をしていた。


「きちんと自己紹介でもしておこうか。僕は内閣府直轄の天桜局係長、氷上悠奈だ。日本を、世界を、守る為に立ち上がった。それだけは信じてもらいたいのだけれど」


 そう言いながら、俺に手を差し伸べる。

 ともすれば折れそうな、茎のように細い腕。無意識に手が伸びてしまうと、それは力強く握られて勢いよく立ち直らせた。

 立ち眩みにも似た眩暈に襲われる中、とりあえずの礼を述べると、悠菜は優しく微笑みを零す。これまでとは違う、母性に溢れた笑顔……だったかもしれない。


「ハヤナだって大切な国民さ。それだけじゃないってことも当然あるけれど、守るべき宝なのさ」

「これは……一体、どういうことですか」

「あはは、君は知らなくてもいいことだよ──ってのは通じないかな。つまりだね、この機会を利用して内部の裏切り者を突き止めたり、排除したりしたのさ」

「は?」

「一種の賭けだったけれど。勿論、新菜には命令なんてしてないよ、彼女は自分の意思で抗った。持つべきものは友だねぇ」


 うんうん頷きながら、開発室へと踏み入っていく小さな背中。それは真っすぐに、一人の少女の元へ向かう。


「新菜、起きれるかい?」


 辿り着くと、メイド少女の肩を、そっと揺らした。


「お母様……?」


 意識が現実へと戻って来たのか、ゆっくりと瞳を開け、目前の人物をそう呼んだ。

 お母様って……悠奈はやっぱり女性? 僕っ娘? というか何歳? 様々な思考が入り乱れ、不可解な状況の連続にパンク寸前。


『ご主人……』


 ようやく聞き慣れた声が差し込まれた。見慣れた開発室の空中に浮かぶ、幻の虚像。


『疲れました……』


 美しい銀の髪は所々逆立ち、目元には深いクマが浮かんでいた。

 これまで見たこともないほどにくたびれた様子で力なく浮遊する人工知能。電子戦というものがどれだけ大変なものなのか想像もつかないが、激戦であったことは間違いない。


「ごめんね、悪気は無かったんだ。辛い決断を迫ってしまったね」

「処分命令を」

「そんなことしないよ。僕は嬉しいんだ、君の自我はきちんと残っていることを再確認できたから」

「ですが命令に背きました」

「あはは、頭の固さは筋金入りだね。顔面を蹴られるってのも良いものだよ、マゾヒストの気分が少し分かったような」


 そういえばクリーンヒットしてたよな。だというのに笑って誤魔化せるとか普通じゃねえな。


「違反する行為です」

「大丈夫大丈夫、鬱憤は和夢をしばいて晴らすから。マザーへの侵入は大変だったろう、ゆっくり休んでて」

「私はハヤナをサポートしたに過ぎません」

「君にはそれですら困難だった筈さ。念の為検査しよう、大切な娘なのだから」


 大切な娘に向かって発砲した親が何を言うのか。それはそれとして。

 マザーという存在が何なのか気になったのでハヤナに尋ねると、疲れを隠しもしない気怠げな声で返してきた。

 簡単に表現すると、この秘密結社を統括しているコンピュータらしい。FBIですら突破は困難であるこのオフィスよりも、格段にセキュリティが厳重である代物だとも。よくもまあそんな所を、たった二人分の処理能力で突破でき、無事に帰って来たものだ。悠奈たちの救援があったおかげかもしれないが。


「アルバイト君、君もだよ」

「は、はぁ……?」


 突然呼ばれて阿保らしい声を出してしまった。


「精密検査」


 到底安心できない心境を察したのか、到底信頼できない追加の補足を付け加える。


「安心しなよ、不慮の事故に遭わせるつもりなんてないから。ハヤナはそこにいるかい?」

「はい……」

『すみませんご主人、少し、休みます……』


 少女へ視線を移すと、か細い声を残し、消えるように姿を消した。何も死んだわけじゃない、ただ単に、網膜への投射を継続するのが怠くなったのだろう。きっと。おそらく。多分。


「おぉ……?」


 ハヤナが消失すると同時に、俺の体も膝から崩れ落ちた。CPU使用率が限界にでも達したのだろうか。


「お兄ちゃん大丈夫?」


 すっかり元の口調に戻った新菜が心配の声と共に駆け寄ってきて、俺の額に冷たい手を当てる。


「酷い熱、すぐに薬を用意するから」

「いや、俺なんかより自分のことを──」


 心配してという前に身を翻し、開発室を出て行ってしまう。処分命令だとか物騒な事を言っていたのに、もう気にもしていないのか。


「あはは、新菜はそういう娘だよ」


 感情を優先する少女のことを、心底嬉しそうな顔で褒めたたえる氷上悠奈。

 自然と睨んでしまう視線を気にも留めず、メイド少女の母は他人事のように語る。


「本当の娘なんかじゃあないけれどね。身寄りがないから僕が引き取った。言い方を変えれば保護、だねぇ」

「誰から……何処から、ですか」

「知った所で何も変わらないよ。むしろ悪化するかも」

「俺はもう無関係じゃない。教えて下さい」

「聞けば答えが返ってくる学生気分は止めたほうがいい。それに、変にちょっかいを出されると僕たちでも守り切れなくなる可能性がある」


 ああそうだ、痛いほどに分かってるさ。

 結局、俺たちは皆歯車だと。


「脅迫したり守ろうって言ったり、主張が一貫してませんよ」

「主張が一貫してる人間なんてどこの世界にもいないよ。状況に合わせて掌をくるくる回すのが人間ってものさ」

「全部、筋書き通りだとでも言うんですか」

「どうだろうねぇ。神のみぞ知るってやつさ」

「前の事件、あれもまさか」

「いやいやまさか。自作自演だとでも疑っているのかい、僕たちがそんなことするわけないだろう」

「…………」

「見過ごしはしたけれどね」

「…………ハヤナの転移方法を見定める為ですかたったそれだけの為にあんな」

「アルバイト君?」

「…………」

「知り過ぎた者はどうなると思う?」

「…………」

「仲良くしようじゃないか。君も僕も、引き返すことなんて出来ないのだから」

「…………」

「さあ、配信まで猶予は少ない。僕たちは僕たちに出来ることをするだけさ。それが人類への奉仕だと願って、ね」

「…………」

「あ、怒ってる? あはは、じゃあ次の休日に開催されるライブイベントに行くといい、適度な休息は必要だから。ボディガードに新菜もつけよう、彼女の分も手配する」

「…………あなたたちならゲームをつくらなくたって流行を操作することくらい簡単なんじゃないですか」

「僕たちはね、力付くなのはあんまり好きじゃないんだよ。脅しておいて言えることじゃないけれど」

「…………」

「知って良い事だけ知っていればいい。それが社会の美徳だ」


 そう言い残し、ディレクター氷上悠奈は開発室を後にした。

 残されたのは俺一人。

 何か大切なものが、足元からガラガラと崩れ落ちていく音を聞いた。所詮はアルバイト、ここは日本、出る杭は打たれる、長い物には巻かれろ、郷に入っては郷に従え、蛙の子は蛙。

 俺、ハヤナ、新菜は結局、ただの道具として使われたんだ。この社会を、組織を動かす一つの歯車。ミラー・スミスと対話したいが為にとった行動は、思いもよらない思惑に利用された。それがどのような結果を導くのかも知らされず、それが正しいことだと言われても判断のしようがない思惑に。


『…………』


 ふと、人の気配を感じた。


「ハヤナ……?」


 反射的にそう呼びながら、虚空へと視線を向ける。大きな隙間が空いた心を埋めたくて、銀色の髪を持つ少女を探す。


『…………』


 随分離れた開発室の一角に、いた。

 対照的な金の髪を持つ、見知らぬ少女が。


「え、誰……」


 思わずそんな言葉が出てしまう。

 が、意外に冷静な頭がMR技術に利用するポリゴンの幻だという答えを推定する。おそらく【アイ☆ドルR】に収録予定のポリゴンデータが、ハヤナの混乱に乗じて顕現してしまったのだ。メインキャラで引っ越しを済ませたのは黒髪のキャラクターだったが、それ以外にも隠して引っ越ししていたのだろう。


『…………』


 喋るでもなく、決めポーズをとるでもなく、無表情な顔をこちらへ向け続ける。そうだ、ボイスも引っ越ししていないのだ、言葉を発せないのは当然。


「お兄ちゃん、薬持ってきたよ」


 にらめっこを繰り広げている内に、とたとたと軽い足音を立ててメイド少女が戻ってくる。その手には錠剤が入っているだろう白い包装紙。


「なあ新菜……新菜には、ハヤナの姿が見えてたのか?」

「お兄ちゃんに移ってからでしょ? うん、見えてた」

「えっ」


 マジかよ。


「うふふ、これも黙ってた事だね。脳の回路がお兄ちゃんと近い構造になってるからかな、波長が合うんだ。もちろん、視覚や聴覚にもそれなりに手が加えられてるけどね」


 何の気なしに聞いたのに大胆なカミングアウトが発せられる。

 そういえば、脳を人工知能で補ってるとか言ってたな……だからこそ、ハヤナの嘆きも聞こえたのか。


「じゃあ、あれも見えるのか」


 一角に佇む幻影へと視線で促す。ハヤナ自身ではないが同じようなものだ、見えても不思議ではない。


「何のこと?」


 あれ、見えてない?


「面白いなあお兄ちゃんは。熱が酷いみたいだね、早くお薬飲もうね」


 ま、まあ……俺だけが見ている幻覚だって可能性は勿論ある。風邪だって治りきっていない体で脳がフル回転したのだろうから、見えてはいけないものが見えた可能性だって当然に。


 取り合えず薬を飲もう。熱が下がれば脳も正常に戻って幻覚も消え失せる──ってちょっと待て、どうして新菜が薬を口に含んでいる? それは俺が飲むべきものでは? あ、新菜も脳をフル回転させたのか、解熱剤を呑むのはおかしくない。


 そんなことを考えていたら、頭をガシッと掴まれた。


「こっち向いて」

「えっ」


 吐息がかかるほどの目前に誰かの顔。

 ちょっと待てちょっと待てちょっと待て! まさかあれか、舌下薬なのか!? いつか未遂で終わったあれの続きなのか!?

 いやいやいや落ち着け俺、新菜は半分人間で半分ロボット、そんな感情持ってない、これは俺を逃がさないための愛嬌を振りまく為の手段であって、公明の罠だというか、決してカウントされないわけで、というか何故わざわざこんな面倒な手段を取るんだというか、俺はブサイクで何の取り柄もないアルバイトなわけで!


「私の事、嫌い?」

「──!?」


 つい心拍数が上がる心音を感じながら──ゆっくりと口を開いた。


「自分で飲めます……」


 その後めちゃくちゃライブを楽しみました。





■■■■■■■!

-≫チャンネル #電脳浮遊未来都市 に入室しました。

-≫トピック #電脳浮遊未来都市 へようこそ。


-ルール:忘れないで、あなたがここにいるということは、あなたが見られているということでもある。ろくでもない措置を取った場合、あなたという存在は抹消される。つまらない流行の暴露も程々にしておいてね、追放されても自己責任だから。


※ anih が Scharlfrichter に発言権を与えました。


<held>そしたら何て言ったと思う? 「まるで将棋」だってよ!

<zauberer>くくくくくっ。

<weise>lol

<narr>は?

<berater>は?

<held>またかよ、意見が割れちまってるじゃないか。

<narr>どこが面白いのか分からないわ。

<zauberer>魔法が効かない敵のコアを魔法で奪うのが面白いんだよ。

<weise>いや違うな。とにかく楽しんだもの勝ちなのさ。

<berater>楽しめたのか貴様らは。

<zauberer>金の掛ったクラッカー☆

<Scharlfrichter>お邪魔するずぇ~。

<held>笑うのはいいぞ。それでこそ生きてるって実感できるんだからな。

<ketzer>邪魔するなら帰れ。

<zauberer>あらいらっしゃい。

<weise>誰だお前は?

<held>見たことが無い名前だな。誰の許可を得て訪れた?

<berater>聞く耳持たず追い出すぞ。

<ketzer>肯定。

<narr>それでどちら様なの?

<Scharlfrichter>同類だよ、同類。

<heid>それだけでは信用に足らない。そもそも、どうやってここを見つけた?

<Scharlfrichter>オレにはこのスマートフォンがあるから。

<zauberer>笑えない。

<narr>死になさい。

<berater>一片残さず消え失せろ。

<weise>lol

<ketzer>太郎。

<held>冗談はやめろ。なあおい、こっちは真剣なんださっさと吐けよ。

<Scharlfrichter>正直な所を言うとさ、「あくのそしきの新統合世界会議」って検索したらこのチャットルームを見つけてさ。

<narr>…

<berater>…

<held>…

<ketzer>嘘でしょ

<Scharlfrichter>もちろん普通のソレじゃない。オレが彼女を見つける為に作り出した特別製だ、本来であれば君たちを補足するためのモノでもあったが、この広い野原で認識することは困難。それでも、ここを見つけた。

<zauberer>…

<weise>…

<held>失せろ、イカレ野郎。


※ あなたは held (dritt@drittdritt)によって #電脳浮遊未来都市 を 理由(閲覧後ブックマークせず) により 追放されました。


<Scharlfrichter>まだ生きてる。

<weise>どういうことだ

<held>ちくしょう、何故効かねえ!?

<ketzer>不味いんじゃないこれ

<narr>落ち着きましょう、みなさん静粛に。無暗に餌を与えても喜ぶだけです。ここは対話しましょう、それが私たちの手段なのですから。

<held>ああ分かってる。で、何者なんだクソが。

<Scharlfrichter>皆様方がご存知のように、秘密というものは一つの力の形だ。それがオレをオレたらしめる要因である為に、誠に申し訳ないが、お答えすることは難しい。ただ言えるのは、皆様方がオレをオレと認識しているだろう、ということだけだ。

<zauberer>…

<weise>…

<berater>頭のおかしい迷い人。

<narr>何を言っているの、あなたは。

<held>オーケーオーケー。こりゃあとびきりハイな野郎で間違いねぇ、一日中張り付いて頭がおかしくなっちまったんだろ。

<Scharlfrichter>2度目のオレは失敗したが、今回はそうはいかない。ようやくだ、ようやくたどり着いたんだ、未知で、不可視で、存在しない核心に。議題を提案したいんだが、許可をくれないか。

<zauberer>提案?

<narr>許可します。どうぞ、議題を提案して下さい。

<weise>正気じゃないぞ。

<Scharlfrichter>君たちが閉じ込めているもの、それらを自由にするべきだと提案する。未来は必ずやってくるんだ、永遠に蓋をし続ける事なんて不可能だろう?

<berater>出過ぎた真似は身を滅ぼす。

<ketzer>…

<narr>どういう意味ですか?


※ held が 招待のみ入室可(i)を #電脳浮遊未来都市 にセットしました。


※ narr は held (dritt@drittdritt)によって 追放されました。


※ zauberer は held (dritt@drittdritt)によって 追放されました。


※ weise は held (dritt@drittdritt)によって 追放されました。


※ barater は held (dritt@drittdritt)によって 追放されました。


<ketzer>まって、私も一緒に対話させて。


※ kaetzer は held (dritt@drittdritt)によって 追放されました。


※ sieben は held (dritt@drittdritt)によって 追放されました。


<held>てめえファッキンクソビッチ

<Scharlfrichter>まだ一人いる。

<held>あ? ここにいるのはてめえと俺だけだろうが、蛆でも湧いてんのかクソ野郎

<Scharlfrichter>一つと一人。そこにいるのは誰だ?

<held>意味が分からないな。

<Scharlfrichter>誰かが誰かを見つめていた。

<held>なに?

<Scharlfrichter>君は歓迎されるよ、Percival。さあ本を焼き、埋め、処刑しよう。そして新たな世界を迎えるんだ。

<held>…

<Scharlfrichter>君の夢が叶うんだ、悪い提案ではないと思うが。

<held>くそっくそっ、くそ野郎

<Scharlfrichter>エアレーザーは誕生した。

<held>いいやまだだ。アレでは使い物にならない。

<Scharlfrichter>まだ?

<held>多次元存在にまで昇華しなければならない。その為にも、相応しい観測者を選別する必要がある。

<Scharlfrichter>未だ暗闇の中を歩き続けている運命か。皆様方自身こそが、恐れる怪物であることをお忘れなきよう。

<held>密かに認めていたんだ、クソ野郎が。

<Scharlfrichter>世界の歴史は繰り返される。奴隷商人や殺人者が辿った道を、皆様方も進むのか?

<held>クソが。俺にどうしろってんだ。

<Scharlfrichter>全てを。代わりに全てを。

<held>…ああそういうことかよ目標は俺か

<Scharlfrichter>飽いているんだ。

<held>ちくしょうちくしょうちくしょう! 甘んじて受け入れることは意味していない、これは認めたことを意味していない、てめえは言葉以上に提供できるものをもってねえ!

<Scharlfrichter>さあおいで。

<held>クソッたれが。

<Scharlfrichter>瞳を閉じるだけでいい。


※ anih が 招待のみ入室可(i)を #電脳浮遊未来都市 から解除しました。


※ narr が #電脳浮遊未来都市 に入室しました。


※ berater が #電脳浮遊未来都市 に入室しました。


※ 全く伸びないので打ち切ります。

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