サウナに行く

 サウナ、水風呂、ベンチ。

 サウナの気持ちよさはこのサイクルによって生まれる。

 サウナの熱で広がった血管が、水風呂の冷たさによって急速に収縮されて、血流が良くなる。それによって普段では味わえないほどの酸素量が脳に与えられる。

 それによって尋常ならざる快楽がもたらされるのである。

 それならば、どんなサウナであろうと、どんな水風呂であろうと、温度差さえあれば整いそうなものだが、そうではない。

 それがなぜなのか分からないが、サウナと水風呂、この二つが適切なバランスを保って、私たちは整うと感じるのだ。


 


 私はサウナをよく人に勧めるが、あまりその反応は良くない。

 世間でのサウナのイメージの悪さもあるかもしれないし、或いは私の人間性が原因かもしれない。はたまた或いはサウナへの賛辞を語りすぎるからかもしれない。

 だから、無理に勧めはしない。

 しかし、私が言いたいのは、取り合えず一度だけでも行ってみて欲しいということだ。

 近所のスーパー銭湯でもなんでもいい。

 とにかく、行ってみなければ分からない。

 そうして、サウナ、水風呂、ベンチ、このサイクルを体験してほしい。

 別にそれで全然気持ちよくなかったら、それで構わないし、もし少しでも良かったと思ったならば、きっとまた行ってみようと思えるはずだ。

 いるかどうかは分からないが、これを読んでサウナに行ってみようと思ったサウナー予備軍の諸兄のために、今回は少しばかり私が知っていることを語ろうと思う。

 



【まずは整えろ】

 サウナ、水風呂、ベンチ。

 サウナで整うためには、まず、この流れが基本となる。

 多くのサウナーはこれを3セット行う。ベンチでの休憩は、1セット目と2セット目は五分程度の短い休憩。最後の3セット目にじっくりと腰を据えて休む。

 ここではベンチと書いたが、別にベンチでなくとも構わない。落ち着いて休むことができれば、どこでも良い。公衆浴場ではなく、サウナ専門の施設の場合、休憩室にリクライニングチェアがずらりと並んでいる。三回目の休憩は、こういった場所でもいいかもしれない。

 何はともかく、リラックスして、腰をゆっくりと落ち着ける場所が良い。

 サウナで体をぐつぐつに煮立てて、水風呂でしっかり絞める。そうして辿り着いたベンチでの時間は何物にも代えがたい。

 ベンチは整うための滑走路だ。

 体を良く温め、良く冷やして、辿り着こう。

 整ったときの快感は、ここでは書かない。私が言葉を重ねるよりも、自分で体験して知った方がわかりやすい。それは言葉では表現し尽くせないものであるからだ。

 これから初めてサウナに行くという人は、とりあえず、この一連の流れに従って欲しい。

 サウナに通うようになって慣れてくると、次第にその流れを自分なりにアレンジするようになる。

 整うための条件はひとそれぞれだ。

 それを見つけ出すのは自分しかいない。


 一応、注意をしておく。

 まず、心臓に疾患のある人は、残念ながらサウナは絶対に止めて欲しい。急な寒暖差は心臓に負担をかけるからだ。

 あと、酒に酔った状態でサウナに入ることもだ。泥酔状態でサウナに入ると、場合によっては倒れてしまうこともある。

 そして、施設で決められたマナーを守って欲しい。

 水風呂の前にかけ湯で汗を流すこと。水風呂で泳いだり、潜ったりしないこと。サウナ室で寝転んだりしないこと。

 施設で決められたルールを守って欲しい。

 ちなみに、ここだけの秘密だが、自分以外に誰もいないとき、私はサウナで横になっているときがある。もしそれを見つけた人がいたら、本当に申し訳ない。

 けれど、サウナにはそれだけ人をリラックスさせてしまう魔力があるのだ。

 人の迷惑にならないように、お互いに気を付けよう。けど、ちょっぴりだけならハメを外すときがある。やさしく許して欲しい。




【サウナの熱力学】

 サウナの温度は九十度程度であることが多い。

 多くは十二分時計――十二分で一周する時計がおいてあるから、それが一回り、つまり十二分間を目安に入ると良い。

 ――そんな熱いところに十二分もいるだなんて!

 そう思うかもしれないが、大丈夫だ。普通の健康な人間なら十二分程度は辛くとも耐えられる。もちろん、絶対に十二分間いなければならないということはない。本当に辛かったら出て構わないし、もっといたいなら十二分以上いてもいい。

 重要なのは体の内側までしっかりと熱を通すことだ。

 サウナで整えるには、表面だけ熱してもだめだ。じっくりとウェルダンでお願いしたい。豚肉と一緒で完全に火が通らないといけない。

 九十度という温度はかなり熱い。

 もしかして火傷してしまうのでは、と考えてしまうかもしれないが心配は無い。

 もし、これがサウナではなく九十度のお風呂だったら、確かに火傷してしまうだろうが、サウナではそうはならない。

 水中と空気中では熱の伝導が異なるためだ。

 空気中では熱が伝わりにくいのだ。

 少なくとも十二分程度いたところで火傷することはない。


 大抵のサウナは九十度程度に設定されているが、実際には座る場所によって温度は異なる。

 サウナ室の中の全ての場所が温度計通りの気温にはなっていない。場所によって温度にムラがあるのだ。

 仮に三段程度のひな壇になっているサウナ室を想定してみよう。

 温度計がひな壇の一番上の段と同じ高さで、温度は九十度を指し示していると仮定した場合、温度計と同じ高さである、ひな壇の上段が九十度の温度となる。

 当然ながら、熱は上へ上へと行くのだから、ひな壇が一段下がる毎に、温度も下がる。ひな壇一段につき、十度下がるのがだいたいの目安である。

 気を付けるべきは、ひな壇上段に座っている場合、体の部分が九十度であることだ。頭のある場所の高さは、それよりもひな壇一段分高いのが普通だから百度。逆に足の部分は、ひな壇一段分低いのだから八十度となる。

 なので、あまり熱すぎるのは苦手だという人は低い段に位置取るべきだ。

 もっとも下段であっても、それがサウナストーブのすぐ目の前であれば、上段よりも熱いだろうし、同じ高さの場所でも気流の流れによってムラがある。

 例えば、私がよく行く仙台のキュア国分町では、中段の中央からやや右側がホットスポットになっている。

 なぜ、そんな場所が一番熱くなるのかは知らない。ストーブの場所か、それともドアの位置の問題か。ともかく、サウナによって、そうした“クセ”がある。

 初めて行くサウナでは、その“クセ”を探し、自分に最も合っている場所を探す必要がある。

 それを面倒と思うかもしれないが、その“クセ”を探すのも、サウナの楽しみの一つだ。




【水風呂のバランス】

 多くの水風呂は十七度から十八度程度に設定されている。

 サウナで充分暖まった上で水風呂に入ると、体に残った熱が薄い膜のようになって、体を冷気から守ってくれる。

 なので、水の冷たさをさほど恐れる必要はない。

 その熱の膜は、少しの水流や時間の経過によって容易に剥がれる。水風呂に入っているときに、他の人が入ってくると、その水流だけで簡単に解けてしまう。

 熟練してくると、水風呂でひたすら体を動かして、自分でその熱の膜を剥がそうとする人も多い。サウナーは水風呂の冷気に貪欲なのだ。

 水風呂にどれくらい入るかは、人それぞれだと思うが、個人的には熱の膜が自然と剥がれ落ち、冷気が体の内部に入り込み、吐く息に冷たさが入り交じる程度がベストだ。その頃にはすでに頭がぼんやりとしてサウナトランス状態に片足を突っ込んでいる。

 もちろん、水風呂もサウナと同様で無理をする必要はない。これ以上はいられないと思ったら、水風呂を出るべきだ。しかし、さっと湯通しするよりも、しっかりと水で絞めた方がより整う気がするのは確かだ。

 水風呂に慣れてくると、サウナから出てすぐに水風呂にドボンと飛び込みたい気持ちになるが、その気持ちは少し抑えてまずはかけ湯をすることを忘れないで欲しい。


 水風呂は、冷たければ冷たいほど良いと言うサウナーもいるが、私はそうは思わない。

 何事も重要なのはバランスである。

 百度を超えるようなどっしりと熱いサウナでは、キンキンに冷えた水風呂もありだが、温度が低い八十度程度のサウナに、冷たすぎる水風呂は合わない。

 熱いサウナには冷たい水風呂、温いサウナには温い水風呂。

 それがセオリーだと思うが、一概にそうとも言い切れないのが難しいところだ。

 熱々のサウナでも温い水風呂でバランスが取れているときもあるし、温いサウナにキンキンの水風呂で整うこともある。

 温度だけが全てではないのだ。

 例を挙げれば、日本最高峰との呼び声も高い、静岡市のサウナしきじは、サウナが百度以上なのに対して、水風呂は意外にも一般的な十七度程度の温度だが、一撃で整う。特徴的なのは、他では味わえないほどの優しい水質で、母の胎内に――羊水に還るかのような柔らかさで、何の嫌味もなく水風呂に入っていける。

 また、仙台キュア国分町の水風呂もまた十七度程度だ。サウナ室の温度も九十度程度と一般的なバランスだが、水風呂は絶えず水流が流れており、実際よりもかなり冷たく感じて良い。

 温度のみならず、水質、水流など、実にさまざまな要素が水風呂にはあることを忘れてはならない。

 時に水風呂が心地良すぎて入りすぎてしまうこともある。そういうときはふらふらになって、立ちくらみのようになってしまう。水風呂は倒れない程度に抑えよう。

 水風呂を出れば、次はベンチだ。

 好きなだけ整えよう。




【サウナの華・ロウリュ】

 ロウリュはサウナの華である。

 最近、サウナが紹介されるときに、よくロウリュも一緒に紹介される。

 テレビなどで見たことがあると思うが、サウナ室の中でタオルで客に風を送るアレだ。

 ロウリュは、サウナをもっと楽しむための最高のイベントである。

 ロウリュイベントを開催している施設は限られているが、都市部なら大抵は一つくらいある。時間が合えば是非一度は体験してほしく思う。


 さて、ロウリュの流れを説明しよう。

 まず、ロウリュを行うスタッフ――これを熱波師と呼ぶ――がやってくると、店にもよるが、客たちは拍手で彼らを迎えることが多い。

 熱波師はアロマオイルを混ぜ込んだ水をバケツに汲んでやってくる。最初にその水をサウナストーン(サウナを温めている石)に柄杓でかける。

 高温になっているサウナストーンに水が掛けられると、必然、それは水蒸気を発生させる。そうして水蒸気が生まれると、室内の体感温度はぐんぐんと上がる。

 先ほども述べた通り、空気中よりも水中の方が熱の伝導率が高い。水蒸気をサウナ室内に充満させることにより、熱はより伝わり、熱さは増すという仕組みだ。

 アロマオイルを混ぜた水だから、室内の湿度が上がると、水蒸気に乗って爽やかな良い香りが充満する。

 そうして、サウナ室が水蒸気で満たされると、今度は熱波師がタオルをぶんぶんと回し始める。発生した水蒸気を室内によく行き渡らせるためだ。

 爽やかな香りをのせた熱波がタオルによって気流を巻き起こし、肉体に絡みつく。

 このとき、サウナ室の熱量はとてつもないものになる。

 もちろん、熱くて限界だという人はいつでも退場することができる。無理は禁物だ。ただし、ドアの開け閉めを繰り返すと、折角、充満した水蒸気が逃げるため、再入場はNGだ。

 そのあと、熱波師は客を一人一人、タオルで扇ぐ。

 この時、扇がれる客は思い思いの格好で風を受ける。

 多いのは、両腕をまっすぐに上に伸ばして受けるスタンダードスタイルだ。また、ある者はすっと姿勢を正して武士のように風を受ける、ブシドースタイルも多い。また逆にぐっと身を前に伏せて背中で受けようとする人もいる。

 ちなみに私は、人が少ないときしかできないが、腕を目一杯に広げて風を受ける、タイタニックスタイルが好きだ。

 ともかく、みなが思い思いのスタイルで風を受ける。

 どんな格好で受けようが、それは自由だ。好きな格好で風を受けよう。誰もそれを笑う者はいない。

 熱波師が一人一人を扇ぎ終えると、もう一度、サウナストーンに水をかけて、水蒸気をさらに追加する。温度はさらに高みへと達する。

 もう一度、熱波師がタオルをぶん回して、水蒸気を部屋中に広げると、もう一度、一人一人を扇ぐ。

 体の熱量は最高峰へと達する。

 熱波師が二度、一人一人を扇ぎ終えると、今度は“おかわり”が必要かを聞かれる。手を挙げて、“おかわり”を要求すれば、もう一度扇いでもらえる。

 サウナーたちは熱に貪欲だ。

 大抵は、全員が“おかわり”をする。

 そうしてロウリュイベントが終わると、客たちはねぎらいと賛辞を込めて、熱波師に拍手を送る。

 その最後の拍手には、奇妙な一体感が存在する。

 まるでお祭りの御神輿を共に担いだかのような、神聖でさわやかな一体感。話したこともないおっさんたちと、奇妙な一体感が高揚感を煽るのだ。


 正確に言えば、ロウリュとはサウナストーン(サウナストーブに乗っかっている石)に水やアロマオイルをかけることを指す。サウナの本場、フィンランドから生まれた。

 一方で熱波をタオルなどで送るのは、アウフグースと言う。アウフグースというのはドイツ語である。

 ロウリュとアウフグースは本来、全く別々のものを指すが、日本ではロウリュとアウフグース、両方を併せてロウリュと呼んでいる。

 フィンランドでは、サウナは誰でも自由にロウリュ出来るようになっているが、日本では、水のかけ過ぎによる火傷やサウナストーブの故障などの理由から、サウナのスタッフが行う。客がロウリュできる店は少ない。

  

 ロウリュイベントの後の水風呂は格別だ。

 普段より何倍以上にも感じる熱量を、水風呂で一気に洗い流す。熱くて熱くて仕方がなかった状態から、瞬時に解放される。

 そうして、ベンチに座ると、体の表面は水のさわやかな冷気に包まれ、内側には確かな熱量を感じ、その二つが絡み合い、最高にサウナがキマる。



【おすすめのサウナ書】

 サウナに行くに当たって、是非一読してほしい書がある。

 タナカカツキ作、『サ道』である。

 同じタイトルでエッセイとマンガと二種類あるが、どちらでも構わない。とりあえずマンガ版のURLを最後に張っておくので、是非見て欲しい。

 タナカカツキ氏はサ界(=サウナ界の略)では大変、著名なサウナの大家である。

 日本サウナスパ協会に任じられたサウナ大使でもある。

 サウナがいかに楽しく、整うのか。

 そのエッセンスがぎっしりと詰め込まれた一作である。

 私がここで書いている説明も、大使の説明を参考にしているところが多々ある。

 サウナに興味があるなら、一度は読んでほしい。

 また、最近、同氏によって『はじめてのサウナ』という本も出版されている。発売されたばかりなので、私もまだ読んでいないが、サウナ初心者向けには良いかもしれない。

 他にも是非おすすめしたいサウナ書はいくつもあるが、それはまた別の機会にしたい。




【自由へ】

 サウナは自由である。

 私や他の誰かが何を言っていたとしても、楽しみ方はひとそれぞれである。

 サウナ、水風呂、ベンチというサイクルが重要だと述べたが、時にはそれを崩したって整うことができる。

 夏には水風呂からスタートすることもあるし、冬には最後のセットで水風呂に入らずに外気浴だけで過ごすこともある。

 サウナのあとは、休憩室で眠ってしまっても良いし、すぐにビールを飲んで晩酌を楽しんでも良い。

 サウナの精神的開放は人を自由にする。

 サウナは何かに縛られる場所ではない。自由になる場所なのだ。

 入り方やなんだと散々語ったが、好きにすればいい。

 それがサウナなのだ。



〈ぜひ読んで欲しい一冊〉

サ道~マンガで読むサウナ道~

http://morning.moae.jp/lineup/468

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