第14話
「どうやらこれは誰かの呪いによるものでしょう。都さんが女性のからだになった時のようにね。」
李茶土は表情を変えずにさらり。
「呪いだと?いったいどこの誰が?」
美緒はすでに糸電話を外して通常モード。
「おそらく、現世から来たものと推測されます。言霊だと思われます。」
「現世の言霊?発信者をどうやって特定するんだ?」
「それは、精神防御能力の領域、つまり、絵里華さんが担当でしょう。」
((わかりましたどす。))
絵里華はトリガーカード『クローバー9、テレパス』を使って、サーチ。
((この人どす。))
ぼんやりと画像が絵里華の脳裏に浮かぶ。
((誰かどこかで見たことがあるような?それにこの場所も。とにかく急ぐどす。))
四人+執事で、現地へ赴いた。五人が着いた場所。
「こ、ここは。オレの部屋じゃないか!」
オレは思わず叫んだ。というか、喋っているのは由梨。由梨の頭に乗っているネコミミが由梨の脳を通じて、外部に音声を発しているようだ。
「ちょ、ちょっと、勝手に喋らないでよね。この高貴な唇をみだらに使用するのは禁止なんだからねっ!」
由梨がプンスカやりながら頭上に向かって話している。しかし、その表情は十分に日干しされた布団のように柔和である。それに外見上もネコミミは十分似合っている。
「今日の都の部屋は、割と綺麗に整理されているな。」
((そうどすな。ゴミひとつ落ちてまへんな。))
「まっほ、すっかりくつろいだ気分だよ。ちょっと遊んじゃおっかな♪」
「待ちなさいよ。こういう時はセレブに優先権があるのよ。」
四人はここに来た目的を失っていた。気分転換は早いようだ。
オレの部屋にひとりの女子がいた。美緒たちを見て怪訝な表情をしている。
「あなたたち、いったい誰なの?どこからここに入ってきたのよ?」
「あれ?都、どうしてそこにいる。」
((都はん。もう元に戻りはったん?良かったどす。))
「現世に帰ったと思ったらもう復活したんだ。良かったね。」
「みんなあたしの美しいヘッドをよく見なさいよ。」
そこにはネコミミが燦然と輝いている。
「どういうことだ?都がふたりいるのか?」
「ここは日乃本都の部屋だけど。私は日乃本桃羅。都の妹よ。」
「どおりでそっくりなんですね。」
李茶土は呟くように語る。
確かに桃羅は夜中にオレの部屋に来て、朝にはいなくなるから美緒たちは顔をよく見たことがなかった。しかし、夜なのに桃羅には美緒たちの姿が見えている?
「こちらが不審者に対して自己紹介したんだからそちらもちゃんと言ってくれるかな。前からいるのは知ってたけど、特に危害を加える様子がなかったから無視してただけなんだけど。お兄ちゃんがいなくなったら話は別よ。」
桃羅は突然の出来事に対しても冷静に対応している。女子が四人に、慇懃な執事が相手なので、比較的落ち着いた行動をとったようだ。
「我らは霊界から来た生徒会メンバーだ。そこにいるのは執事・李茶土だ。」
「ちょっと待ってよ。いきなり、霊界って何のことよ。」
「あなた霊界を知らないの?ダメダメガールだわ。都と一緒ね。」
由梨がいきなり毒づいてきた。いや、いつもの通りか。
「何よ、この女。桃の旦那さんに何てこと言うのよ。」
「旦那って、あんたたち兄妹じゃないの?」
「そうだけど、将来を誓った仲なの。桃の16歳の誕生日が結婚式なのよ。」
「なにをほざいてるのかしら。そのポジションはセレブが・・・」
「何?」
「いや何でもないわ。そんなことより、その都は今ここにいるんだけど。」
由梨は自慢の?ネコミミを指差した。
「えっ、何それ?仮にお兄ちゃんがだらしなかったとしても、そんな無機物に変身するのかしら?確かに昨日から家に帰ってなくて心配してたんだけど。」
「それはひどいじゃないか。桃羅。」
「桃羅って、初対面でいきなり人の名前を呼び捨てにするんじゃないよ。」
桃羅は由梨に向かって反駁の声をぶつける。
((それにしてもよく似てはりますなあ。))
「人形が喋ってる!」
桃羅はぽかーんとしている。両腕をだらりとしている。
「ほ~んと都たんにそっくり。つんつん。」
万步はノーガードの桃羅の胸をつついた。
「いや~ん。」
「ホンモノだね。なかなかの弾力だよ。」
「いきなり、何するのよ。いくら女子同士とはいえ、許せないわよ。」
((そう怒らんといて。都はんが最初は女装だったので、万步はんが念のために確認したんどす。))
桃羅は両手で胸を隠した。
「そんなに見ないでよ。いやらしい。」
「うぶだな。かわいいかも。」
美緒はお面を被ってはいないので、微妙な笑顔を晒した。
「何よ。人をバカにして。いろいろわからないことだらけだわ。ちゃんと説明してよ。」
美緒は霊界のこと、オレが閻魔大王後継者候補であることを簡単に話した。桃羅はしっかり者で、頭もよく、また偏見がなかった。なにより霊感が強く日頃から心霊現象に出会っていたので、幽霊を怖がることもなく、美緒の話を十分に理解した。
「なるほど。そんなことになってしまうなんて、お兄ちゃんかわいそう。でも桃羅が旦那にもらうことは変わりないからね。」
(こんな時に言うセリフじゃねえ。なんとかしろ。)
由梨の口を借りて都が話す。
「ちょっと、あたしの頭で勝手に遊ばないでよね。」
本体である由梨が間に割って入ってきた。
「さっきからガチャガチャ言ってるけど、あなた誰?」
「この姿を見たらセレブにしか見えないでしょ?ふふん。」
「はあ?頭おかしいんじゃないの?お兄ちゃんが上に乗って、脳が破綻したのかしら?」
「セレブに向かって、なんてことを!都の脳が破綻しているのは正しい事実だけど。」
「ひどいわ。未来の桃の嫁兼メイドであるお兄ちゃんに対して。」
ついに、妹のメイドにまでなり下がった都。そもそも嫁じゃなく旦那じゃなかったっけ?腐女子の間ではアニメ女子キャラを嫁にもらうことはすでに一般化してはいるが。
「そうではないわ。都はあたしの下僕。上にあるのは気に入らないけどね。」
「おいおい、そんなことをやってる場合じゃないぞ。早く都を元に戻さないと。」
美緒が仲裁に入って会話終了。
「それはこの李茶土に任せていただきましょう。」
胸に腕を当てて恭しくお辞儀をする李茶土。
「それは具体的にはどうするのか?」
美緒が全員を代表して尋ねた。
「キスするしかありません。」
「どうしてそうなる?」
「言霊とは言葉に力が宿り、ひとり歩きすること。その力を削ぐためには、より強力な言霊。それは口から直接言霊を流すことです。」
「なるほど。でもネコミミになっている都はどうしたら?」
「そのネコミミを被っているものに都さんが憑依してそのカラダを都さんのものとすればよいのです。」
「で、でもそうするとカラダのすべてを都に支配される。つまり、カラダを都に見られると同じこと?」
「そうなります。」
「セレブのからだを?そんなのいやだわ。」
「いやならやめればいいですが。」
「なんちゃってセレブ女とキスだって、桃もいやよ。」
桃羅も反発。
「女同士なんて神にも許されまい。」
((うちも家訓に反するどす。))
「さすがにまっほも考えちゃうな。」
「仕方ないなあ。じゃあをねゐさんがやる!」
唐突に閻魔女王が出現。今の一言を言うや否や、女王がネコミミを自ら被り、桃羅を自分の方に手繰り寄せる。
「今だ、都ちゃん。」
「おう!」
ブチュー。オレの全身が戻った。みんななにが起こったかわからず。桃羅も呆気に取られていた。
「久しぶりにキスしたねえ。いや女子とキスしたのは初めてかな?ははは。」
閻魔女王は能天気に頬を緩めた。桃羅は何が起こったのかわからず頭が真っ白。
「アタシのファーストキスはこのひと?いやあああああああ」
オレは全身をくまなく触る前に確認をした。胸ある、下ない。つまり、ネコミミになる前の状態に復帰したというところだ。とりあえず根本的な解決は先送りだがひと安心。
「とにかく元に戻ってよかったね。じゃあ、をねゐさんはこれで。」
「いきなりやってきて、また霊界に帰るんだな?人間界と霊界、そんなに簡単に出入りできるのか。」
元に戻ったオレは何か嬉しげな閻魔女王に話しかける。
「そうだよ。前に言ったように、をねゐさんの力が弱まって、あちこちに歪みができているんだよ。学校の校舎が5F建てになっちゃったし。」
「そうだったな。じゃあ気をつけて。」
閻魔女王は押入れを開けた。
「ちょっと待て。どこから帰るんだよ?」
「ここに新しい階段ができてるんだよ。ここから霊界に戻る。」
「なんだと!」
オレは慌てて、閻魔女王の後を追った。階段を上るとそこでは執事李茶土とメイドがトンカンと作業をしていた。すると2階建がいつの間にか3F建てに変わった。
「よし、今日からをねゐさんは3Fに住むよ。」
「ちょっと待ってくれ。それじゃあ、毎日家に入り浸りになるじゃないか。」
「学校の仕事もあるし、をねゐさんにはちょうどいいよ。それにここにいるもうひとつの理由ができたよ。」
「何だそれは?」
「新しい閻魔女王候補も見つかったし。桃羅ちゃん。をねゐさんたちが見えてるし、何より、素晴らしい言霊能力があるよ。」
「桃羅が閻魔女王候補だと?」
「そうだよ。をねゐさんは大いに楽しみだよ。」
4枚のトリガーカードを開いて見せて、閻魔女王はニヤリ。
「まさか、ここに3Fができたのもそのせい?」
「都ちゃんの呪いを解くとは、さすがトリガーカードの力だね。都ちゃんを元に戻しただけでなく、次元の再構築をしたみたいだよ。」
オレは次の言葉を失った。
百代目閻魔は女装する美少女? @comori
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