第1章
帰り道、恐怖を抑え込むために、私はひたすら前を向いて歩いていた。
だから、誰かにずっと見られていたことに、全く気がつかなかった。
「九条伊織さん」
「え? あ、はい」
律儀に返事をして振り返ると、知らない男の子が立っていた。
私よりちょっと年上かな?
染めたことがないような、さらさらの黒髪に、優しげな目元と泣き黒子が印象的だった。
整った顔だけど、彰宏さんみたいに「かっこいい!」とかじゃなくて、なんか・・・・・・色っぽい?
だめだ、私ボキャブラリーなさすぎ。
男の子に色っぽいとか、むしろ貶してるよね。
「あの、誰ですか?」
黒を基調とした私服姿、ってことは、今日学校なかったのかな?
うちの生徒じゃないみたいだし。
「俺は黒川……樹木の樹と書いて「いつき」。黒川って聞いたことないか?」
妙な間と、わざわざ漢字まで教えてくれるところが気になったけど、もしかしたら知っている人かもしれないと思うと、申し訳なさに小さくなってしまった。
「ごめんなさい、全然わかりません」
「なんだ、張り合いないなー。何も知らないやつを一方的に痛め付けるとか趣味じゃないんだけど」
私が目に見えて警戒すると、彼は喉で低く笑った。
妙に大人びた仕草が、彼をミステリアスに見せる。
「まあ自己紹介なんてしたって、意味ないんだけどな。裏千家が御三家、陰陽師一族の黒川。まあ、要するに」
世間話をするような気軽さで、彼はさらりと言った。
「お前を殺しに来たんだ、伊織」
名前を呼ばれたとたん、ピリッと静電気のようなものが走って、頬に痛みを感じた。
「さすがに本名は名乗らないか。だけど、本人が真名だと思ってりゃ、効果はあるよな」
意味がわからない。
だけどーー怖い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます