第1章 

 十六歳まで、犬神は宿り主に姿を見せないし、主も使役できない。


 それは、精神を守るための決まり事。


 十六歳を越えたら――ちゃんと制御できるか見るために、<目覚めの儀式>を行う。


 大丈夫、絶対大丈夫。


 呪文みたいに、言い聞かせる。


「そういえばさ、見たい映画あるんだよね。明日付き合ってくれない?」


 わざと、飛鳥に明るく声をかけた。


 約束が、私を強くしてくれるから。


「おっ、いいよ。なに観たいの?」


「実はねー」


 なにも知らない飛鳥は、キラキラした笑顔を私にくれる。


 覚醒してない<犬神憑き>が学校に通うのも、本家の決まり事。


 人との繋がりが、私たちの精神を守ってくれるから。


 私は大切な友達に、とびきりの笑顔を返した。


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