転生したらシダ植物でした、から始まるクラス転移

バルマムさん

第1話

「ライトニング・スラーッシュ!!」


 僕の剣が、魔王を貫く。

 長い戦いの終止符。


 道化師の様な仮面で顔の上半分を覆った魔王の腹から剣を引き抜く。

 同時に魔王の体は床へと崩れ落ちた。


 ……終わった。


 聖剣についた血を払い、振り返る。

 駆け寄る仲間。


 先頭を走る戦士が僕に抱き付いて来る。

 それを抱き締め返すと同時に、腹部に灼熱の様な痛み。そして、体の自由が効かなくなる。


 ……毒……か?


 しかし、何故?


 そのまま、床へと崩れ落ちながら、共に苦難を歩んで来た仲間を見上げる。


「すまん……でも、お前が……いけないんだからな」


 僕を見下ろす彼の顔が苦悩で歪んで居るのが見えた。

 その奥に居る仲間達の顔はぼやけて分からなかった。


 ◆


『と言うのが、最後の記憶なんですよ』

『なんぞ、恨みでも買ったか?』

『いや、ずっと考えてるんですけど、わかんないんですよね』


 魔王を倒した僕は、そのまま仲間に殺され、そして、転生した。


 シダに。


 春風が僕を揺らす。


『わかりあえぬ。

 それこそが、世界でたった一つの真理かもしれんな……』


 僕の横で、同じ様に葉を揺らすのはシダに転生した魔王さんだ。

 何の因果か、二人記憶を持ったまま、登山道の脇でひっそりと自生している。


 シダとして。


 かつては、世界の行く末をかけ命の取り合いをして来た相手だが、今はもう、ただの話し相手でしか無い。



 登山道の下から嬌声が聞こえる。


 近くの女子校の入学オリエンテーリングだろう。

 白い制服姿の女の子達が一団になって山道を登って来る。


 風が強くなって来た。

 湿気を帯びていて、雨の匂いがする。


 春の嵐となるだろうか。


 高校生達は道端のシダに目もくれず、僕達の前を通り過ぎて行った。


 空が暗くなる。


『何か……来るぞ』


 魔王さんが、シダらしくない、真剣な声で言った。


『嵐ですか?』


 だとしたら彼女達は大変だ。

 遭難する前に皆、無事に山を下りれるだろうか。

 しかし、シダである僕にはそんな事を伝える術は無い。

 ただ、風に揺られるのみなのだ。


『違う。力……じゃ』

『力?』


 世界が、白く染まり、直後雷鳴が轟く。

 じきに雨も降り出すだろう。


 暗い雲が覆い尽くす空を見上げる。


 再び、強い光が世界を覆った。




「あれ?」


 空が見えた。

 日が暮れる前の、紫の空。

 いや、明け方だろうか。


 首を動かし方角を……首?


 体が……動く。


 いや、体がある?


 僕は自らの異変を確認する。


 さっきまで風に吹かれるシダだった僕は、人間に転生していた。

 身につけて居るのは、さっき目の前を通り過ぎた女子校の制服。

 小ぶりな胸も付いている。

 ……スカートの中に手を入れて下半身を確認して見る。


 えっと……ここは、どこ?

 私は……誰?

 いや、僕は……何?


 首を回し、あたりの様子を探る。

 少し離れた所に、僕と同じように周りの様子を伺う制服姿の子がいた。


 綺麗な銀髪の子。


 その子と目が合う。


 何を言おうか戸惑う僕の耳にいくつもの悲鳴が届く。

 立ち上がり、直ぐに声の方へ走り出す。



 直ぐに、制服姿の女子の集団が目に入った。


 その奥に、オークだろうか。

 鼻の突き出た、不細工な魔物の集団。


 助けないと。


 力は使えるか?


「レインボー・アロー!」


 勇者であった時に使っていた魔法をとなえる。

 七色に輝く閃光が矢継ぎ早にオークへと突き進む。

 それがオークの体へと風穴を開けて行く。


「大丈夫!?」


 泣き叫ぶ生徒たちへと駆け寄り、声をかける。


 その時、オークの怒りの咆哮が聞こえた。

 まだ生きて居るのか。

 地面に落ちていた木の棒を手にしてオークへと向かう。

 こんな物で何が出来るのだろうか……。


「ダーク・フレア」


 凛とした声と共に、黒い炎がオークの頭を吹き飛ばした。


 振り返り、声の主を確認する。

 さっきの銀髪の子。


「……魔王さんも、転生したのか」


 さっきの魔法は僕達を前前世で苦しめた魔王の魔法だから。


 そして、彼女も僕の正体に勘付いた様だ。

 目が合い、少し困った様な顔をした後、直ぐに取り繕い見下ろす様に微笑んだ。



 ◆



 残念な事に、生徒の一人がオークの犠牲になった。

 残った三十一人、そして、僕と魔王さん。

 どうやら、異世界へと強制的に召喚された様だ。


 突然の事態に混乱し、泣き叫ぶ女子達を魔王さんが宥めて落ち着かせる。


 その傍、僕は火を起こし夜に備える。



 今は、時間が必要だ。


 僕と魔王さんは見張りとして火を囲む彼女達から離れ、やや高い所に腰を下ろして居る。


「変な事になったな」

「そうですね」


 それでも少し楽しそうに魔王さんは言う。

 シダとして風に揺られるだけの暮らしよりはマシだとそう思って居るのだろうか。


「どうしましょうね」

「どうもこうも、彼奴らを人里まで送るほかあるまい」


 魔王さんがとても人道的な事を言う。


「可笑しいか?」


 僕の視線に気付いたのか、少し自嘲気味に微笑む。


「そうですね」


 僕は素直に返す。


「お主らがどう思ったかしらぬが、儂とて、ただ、血と破壊を求めていたわけでは無い」

「……もう、昔の事ですね」


 僕達は、勇者と魔王でなく野に生えたシダ。

 それで良いのだ。


「そうだな。

 ……何の因果か、人間になるとはの」


 僕は何の因果か、スカートを履いて居る。

 まさか、性別が変わっちゃうとは。


「……なあ」


 魔王さんが目を逸らし地を見つめながら、少し恥ずかしそうに尋ねる。


「何ですか?」

「人間とはこんなに動きづらいのか?」

「……それは、転生したてだからじゃ無いでしょうか?」


 僕自身も、魔法の威力は勇者であった時の半分にも見たなそうだ。

 体も慣れなくて動かしにくい。


「そうでは無い……。

 これが……ジャマなのじゃ」


 そう言って魔王さんは、暗闇でもわかるくらい顔を赤くしながらスカートをめくり上げた。


「これ?」


 可愛らしい白いショーツが目に入る。


「これ……じゃ。何に使う物なのじゃ?」


 魔王さんは、めくり上げたスカートの奥の可愛らしい白いショーツの上を少しずらし、そこにある男性器を露わにする。


「何って……」


 分からないのか?


 まさか……。


「魔王さんって、前は女の子?」


 小さく頷く魔王さん。


 そうか。

 仮面を被ってたから知らなかったな。


 僕は立ち上がり彼女の正面に立つ。

 そして、彼女の両足を跨いで膝立ちに。

 怪訝そうな顔で見上げる魔王さん。


「こう、使うんですよ」


 右手で、そっと彼女の男性器を握る。

 そして、僕を見上げる彼女の唇に自分の唇を重ねる。


 右手の中で、彼女が大きくなって行くのがわかる。

 そして、僕も。


 そのまま左手を彼女のお尻から上へと這わせて行く。


 ……やっぱり。

 両方付いている。


 僕と同じだ。


 シダ、だったからかな。


 一度唇を離し、少し困った顔をした魔王さんをまじまじと見る。


 可愛くて、犯して、犯されたくてしかたなくなった。

 再びキスをして、そして、彼女のショーツに手をかける。


 ◆


「て言う話を思いついてしまったんですよ」


 私はコタツに入りながら、隣に座る同居人のユミさんにあらすじを話し、感想をもらう。


「その続きは?」


 マグカップを両手で包むように持って楽しそうなユミさん。


「続きはノクターンノベルズで、誰か書いてくれないかなぁ」

「レイコちゃんが書けば良いじゃ無い」

「私は三十一人もかき分け出来ないですよ。

 それに、その……そう言うシーンも書けないし」

「……どうして?」


 マグカップを置いて、そして、私の左手に彼女の右手が重なる。それは優しく、でも、決して逃さない、そんな意思の表れ。

 ユミさんが挑発的な顔を近づけて来る。

 私は、目を閉じる。


 話の続きは……もうどうでも良いわ。

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