第2話 ご挨拶

登校初日から4日経った金曜日の日、冬真は新しい学校生活にも慣れてきて遅刻することなく、学校に着き、迷わず教室に向かった。自分の席に着くと初日や2日目と同様に鞄から本を取り出して、読み始めた。朝のホームルームを終えて、1時間目は移動授業だったので、すぐに向かう準備をした。みんなは友達と移動する中、冬真は1人で移動した。冬真はいつまでも1人でいるのは良くないと思い、誰かと仲良くなろうとしていた。

冬真は初日に沢山のクラスメイトと挨拶を交わしていたが、唯一、1人だけ未だに、1回も言葉を交わしたことのない人がいた。それは、冬真の隣の席の桐嶋月夜(きりしまつくよ)だった。冬真は隣の席なんだからと、仲良くなりたくて、挨拶をしようとしても、彼女の周りにはとても仲の良さそうな2人の女子が休み時間中はいつも楽しそうに話していた。

冬真は桐嶋と話したくても、休み時間になると女子2人がいる。授業は先生がいることによって、話しかけることは出来ずにいて、冬真はただ、桐嶋に話しかけるチャンスを伺っていたのだった。しかし、結局チャンスは来ることなく、時間だけが過ぎていき、放課後のホームルームとなってしまった。冬真は来週こそは話しかけようと思っていた。すると、1週間ごとに2人1組でやる週番の人が言った。

「来週の月曜日からの週番は、相園冬真君と桐嶋月夜さん、お願いします。相園君は仕事の内容は先生から聞いていますよね」

「はい、だいたいの仕事の内容は知っていますので、大丈夫だとは思います」

冬真は来週の週番をするが決まった。しかも、話したかった桐嶋と一緒だった。そして、放課後のホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴り、みんなが帰り始めた。冬真は桐嶋に挨拶をしようと勇気を出して、声を掛けようとするといつもの女子2人が桐嶋を囲んだ。それでも冬真は諦めずに、声を掛けた。

「桐嶋さん、あの、、、。よろしくお願いします」

「う、うん。よろしくお願いします」

桐嶋は驚きつつも返事をした。すると、隣にいる女子2人がこっちを向いてきた。

「私は成原美沙です。月夜とはいつも仲良くしてる友達です」

「私は内山楓です。私も美沙と同じで、月夜の友達です」

冬真は笑顔で頷いた。

「2人とも、恥ずかしいからそういうことは言わないでよ」

桐嶋は赤くなった顔を手で押さえながらそう言った。

ドキッとして、桐嶋さんって可愛いなと冬真が思っていると、成原が冬真に向けて一言言った。

「相園君、ちなみに月夜は彼氏いないからね、彼氏募集中だよ」

「う、うん」

冬真は少し引き気味にそう言った。

すると、桐嶋が成原の一言に反応して言い返した。

「2人共、事実だからって、言っていいことと言っちゃ駄目なことがあるからね」

桐嶋は2人に対してそう言うと、冬真のことをじっと見ていた。その後は、少しの沈黙があった。すると、その場の空気が戻りそうにないのを察したのか内山が言った。

「相園君、それじゃ私たちそろそろ帰るね」

「うん、じゃあ、、、」

そういうと、3人は教室を出て、帰って行き教室には冬真のみになった。冬真は教室の戸締まりをして、鍵をかけた。鍵を返しに職員室へと行った。鍵を返し終わり、昇降口に向かった。昇降口に着くと、そこには桐嶋さんが1人で座っていた。冬真が声を掛けようとすると、1人でぎりぎり聞き取れる位の声で桐嶋が急に独り言を始めた。

「はあ、今日はついに相園君と少しでも話すことが出来たっていうのに、あの美沙の一言は絶対にいらなかったよ。たしかに私は彼氏いない歴が生きてる時間で今でも更新中で未だに彼氏の一人もいないからって別に相園君の前で言わなくたっていいじゃん。でも、相園君が美沙に言われたことを聞いて、私のことどう思ってるのかな、勘違いされたら嫌だな、っていうか今日は頭痛がするな、帰ったらすぐに寝よっと」

冬真は桐嶋の言葉に驚いた。冬真が桐嶋に声を掛けようとしたタイミングで廊下を先生が通りかかり、2人に言った。

「相園と桐嶋、2人してどうした、残ってないで早く帰れよ」

先生がそういって、どこかへ行くと桐嶋は振り向いて、冬真が後ろにいることに気が付いた。

「相園君、もしかして今の私が言ってたの全部聞いてた?」

「うん、俺も彼女はいないし、っていうかいたこともないよ」

冬真がそういうと、桐嶋の顔はどんどん赤くなっていった。理由は2つある、それは、1つは自分の言ったことを冬真に聞かれたこと、そして頭痛の2つが理由である。

「桐嶋さん、顔が赤いけど、さっき言ってたけど本当に熱あるんじゃない」

「大丈夫だよ」

「無理しない方がいいよ、早く帰ろ」

「そうだね、帰ろっか」

「一応、帰り道に何かあると大変だから家まで送るよ、どこ」

「本当に大丈夫だから、心配しなくていいよ」

そういいつつも桐嶋の顔は、どんどん赤くなっていき、少しぼうっとしていた。

「無理すんなよ。本当に熱があると思うから」

「うん、私は寮だよ」

そうこの高校には、近くに住んでいる家から通っている人と遠くから来て1人で生活し通っている寮生活をする人で分かれている。冬真は桐嶋の歩くペースに合わせながら帰った。寮に着き、寮内に入る桐嶋を後ろから見送ろうとしたら、桐嶋は既にフラフラで入る直前に倒れてしまった。冬真はすぐに駆け寄りいつも一緒にいる美沙と楓の連絡先を聞いた。急いで電話をして、訳を説明して来るように頼んだ。しばらくの間待っていると中から2人が出てきた。

「月夜、大丈夫」

「相園君、月夜をおんぶして来て」

「でも、ここって女子寮だよね。だから男子は立ち入り禁止なのでは」

その通り冬真がいうように、まず家と寮で分かれていて、さらに寮は男子寮と女子寮で分かれていた。男子寮には女子の立ち入り禁止、女子寮には男子立ち入り禁止というルールがあった。この高校では約9割もの生徒が寮で生活をしていた。その中でも冬真は自宅で家族と生活している生徒だった。

冬真たちが「入るか、入らないか」で揉めていると中から誰かが出てきた。

「2人ともこんな時間に外で騒がしくしてどうしたんですか、貴方は初めて見る顔ですね」

「どうも相園 冬、、、」

「寮長、月夜が熱を出したみたいで、それで月夜の部屋は4階ということもあり、私たちでは運ぶのは無理なので相園君に運んでもらいたいので、相園君に女子寮への立ち入りの許可を」

「そういうことでしたか、わかりました。早く部屋まで運んでください」

冬真は3人の言われるがままに桐嶋を背負って部屋へと向かった。部屋に着くと、月夜をベッドに寝かせて、いろいろとやってあげた。一息ついて、改めて挨拶をした。

「改めまして、女子寮の寮長をしている河元です」

「この間転校してきた、3人と同じ2年A組の相園冬真です。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」

「それでは、俺がこの場にいるのはまずいと思うので、帰らせていただきます」

そういって帰ろうとすると。

「待ちなさい。病院に行くときにまた相園君が必要になるかもしれないので、桐嶋さんの傍で面倒を見ていてあげてください」

「面倒を見るのであれば、2人でもいいのではないのですか。それにここは女子寮ですし」

「そこら辺の問題はありません。これから何回も付き合うことになりそうなので、特別に女子寮への立ち入りを許可します」

河元さんの一言に3人は驚きを隠せなかった。女子寮に立ち入りをするというのは校則上問題のはず。

「でもそれって、ルールをやぶっていませんか」

「大丈夫ですよ。学校長には私から言っておきます。それに入るときは私に一言でもいいので声を掛けてくれればいいので。それでは私は管理室に戻ります」

そういって、河元さんは部屋を出ていき、4人の状態になった。

「いやぁ、相園君ナイスだよ。月夜と何か話したりした」

「特に何も話してないよ」

「そっか。でもさ、さっきの寮長の発言には驚いたよね」

たしかに、それについてはみんなが驚いていた。冬真はスマホを見ると母親から何件ものメールが来ていた。まあ無理もない。時間を見ると9時を過ぎていた。返信をしようとしたタイミングで母親から電話が来た。

「冬真、こんな時間までどこで何をしてるの」

「今、クラスの奴が熱出してて面倒を見ないといけないから、いつ帰るわからないし、もしかしたら帰らないかもしれない」

「帰ってくるなら早く帰って来てね。それと夕食はどうするの」

「わかった。夕食は自分で済ませるからいいよ。じゃあ」

「はーい、じゃあね」

電話を切り、桐嶋の面倒を見ながら、読書をしようと鞄から本を取り出そうとすると。

「相園君が月夜の面倒を見てくれるということなので、私は眠いから部屋に戻るね。おやすみ」

「おやすみ」

そういって内山が自分の部屋に帰った。

「私が残るから相園君は帰ってもいいよ」

「俺も残るよ、面倒を見るっていったしさ」

「相園君は優しくて、真面目なんだね」

「そんなことないよ、俺みたいな人はそこら辺にいるから。普通のことだよ」

冬真はそう言いつつも、心の中では喜んでいた。

「多分なんだけどね、月夜は本気で恋の出来る人を探しているんだと思う。私も探してるんだけどね。でね、私と楓で月夜に残るように言ったの、だって気づいてるかわからないけど、相園君が転校して来てから私たちと話してる時もちょくちょく相園君を見てたり、目で追い掛けたりしてるんだよね」

「そうだったんだ。何も気づかなかった、それに俺は桐嶋さんのことは何も知らないし、俺みたいな奴よりいい人は他に沢山いるよ」

「相園君が知らないなんてことはわかってる、むしろ知ってる方が怖いよ。相園君よりも良い人がいるかなんて、月夜にしかわからないよ。それと1つお願いを聞いて欲しいんだけど、月夜のことだから、これからも色々と迷惑とか掛けると思うけどさ、その時は傍にいてあげてね」

「わかった。傍にいてあげれるように努力するよ」

「ありがとう」

「問題も無さそうだし、今日は成原さんに任せてもいいかな」

「大丈夫だよ」

「じゃあ今日ははもう帰るね。じゃあね」

「おやすみなさい、じゃあね」

2人で話している間に時間は10時を過ぎていた。

成原は冬真が女子寮出たのを確認して、月夜の部屋に急いで戻ると、月夜は起きていた。

「月夜寝てないと、今日は休んで熱を治そうよ」

「うん、、、」

すると、月夜の目からは涙が流れていた。

「どうしたの月夜」

「すごくどきどきしたよ。これからは何かあったら傍にいてくれるんだって」

「もしかして、起きてたの。いつから」

「楓が部屋を出て行って時ぐらいからかな」

月夜は涙を流し、苦しそうな顔で両手で押さえていた。

「苦しいの大丈夫」

「大丈夫ではないと思う。胸の内側がギュッて締め付けられて、苦しいよ。ねえ美沙、もしかしてこれって恋なのかな。私、相園君に恋しちゃったのかな」

「私も恋はしたことないけど、それが恋なんじゃないかなって思うよ。初めての恋が相園君かまだお互いのことを何も知らないからこそのこともあると思うし、頑張ってね、でも私は応援するけど好きになったらその時はライバルだよ」

「うん、っていうか好きになったらとか言ってるけど、もう好きなんじゃないの」

「それは秘密だよ、まあお互いに頑張りましょう」

「これは、私たち2人だけの秘密だね」

「今日はここで寝てもいいかな」

「うん、一緒に寝よ」

そういって、月夜と美沙は寝た。

その頃、ちょうど冬真は家に着き、お風呂と夕食を済まして、自分の部屋でベッドに横になり、美沙の言っていた言葉を思い出していた。

「俺なんかが桐嶋さんの支えなんかは無理だな。彼氏にもなれないだろうし、こっちの高校でも彼女無しの生活だなっていうか、俺に恋なんてさせてくれる人いるのかな。1回でもいいから彼女が欲しいな、でも友達もいないからな、そうだ俺は友達だけでやってこれた。友達だけでもいいや」

そういって、冬真も寝たのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スタートライン 蒼々輪 @KugaYuuya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ