4 -足枷-
今どこを飛んでいるのか正確には分からないほど、私達は長い距離を飛んでいた。段々と人影もなくなっていき、日も傾き始めていた。誰が言い出したわけではないが、辺りに人の気配がない場所へ着くと、黙ってその地に足を付ける。
朝からぶっ通しで飛んでいた為、また防御魔法を張り続けていた為、疲労はピークを迎えている。幸いにも木々が生い茂っており、姿を隠すことくらいは出来そうだ。
「何か、食べ物がないか探してくる」
そう言って2人が食糧調達に出かけた。いくらこんな場所だからと言って人が来ないとは限らないし、発展した技術が私達を見つけても可笑しくない。誰も気を緩めずに警戒を続けていた。
「どこにフォー様の森はあるんだろうね」
小さな子供が呟いたが、それに答えをかける大人もいない。長はあると言っていた為、どこかに存在はしているのだろうが、場所は誰にも分からない。存在すらつい先ほど知ったのだから。
どう声をかけようか迷っていると、甲高い悲鳴が2つ程聞えた。食糧調達に行った魔法使い達の方角。もう追手が来たのかと、皆が箒に跨り空へ逃げようとするも、足を何かに取られる。
「こ、れは…!」
月明かりすらも差し込まないこの森の中で、それを見るのは不可能に等しかった。地面に縫いつけられるように、重力が2倍にも5倍にもかかったように感じる。ピクリとも動けずに足が地から離れない。
よく目を凝らして足元を見ると、足枷のようなものが嵌められている。見た目は普通の鉄製だが、何か細工がされているのだろう。これを外さなければ空へと逃げられない。
「こんなものッ!」
誰かが焦って魔法で破壊しようとした。それを探知したのか、足枷はピピッと音を出す。
「待って! 魔法を止めて!」
「…え?」
嫌な予感がしそう制止したものの、既に時遅し。ボン、と爆発音を立てて魔法使いは消えた。足枷から爆発するのなら、足が主に被害を受けるはずだが、どう見たって内部に爆弾を仕組まれてボロボロにされたような――不自然な爆発。
「どうにかして壊さないとッ…!」
勿論手で触れて外そうとしても外れない。空へ飛ぼうと力めば力む程…地面に足が喰い込んで行く。そうこうしている間にも人間が近付いてきているかもしれない。魔力を無駄に放出しないよう、魔法を引っ込めると――足が軽くなる。
「…魔法を探知している?」
箒から降り、トコトコと何気なく歩く。どうやら推理は当たったようで魔法を使おうとする、もしくは使えば害を及ぼすらしい。皆にそれを伝えて一先ずは、徒歩でこの場から移動することにした。
今まで魔法に頼りっぱなしだった私達。これだけの時間と距離を歩く体験がなかった。その為体力の消耗は激しく、誰も喋ろうとしない。
早くこの枷を取らなければ追手が来たときに対応出来ない。それにこれ自身にももしかしたら居場所を知らせる何かが埋め込まれているかもしれない…。
「ね、ねぇ…いつまで、歩けばいいの…?」
痺れを切らした一人が息も絶え絶えにそう聞いてきた。早く魔法を使って楽をしたい気持ちは分かるが、無理に外そうとすれば爆発、飛ぼうとしても身体が重くなり飛べない。疲れ果て、誰も問いに応えることなく歩いていると、不意に足枷が外れる。
「外れた…?」
どういう仕組みなのかも一切分からないが、一先ずこれで逃げれる――。そう思い箒に跨り魔法を発動させた瞬間、足枷が再び動き出した。
「! 魔力探知…魔力を発動させた人物を捕えるように出来ているんだ…!」
ならば早急に飛ばなければまた捕まってしまう。一気に魔力を高めて空へ飛び立てば、足枷は地上でのたうち回っている。今までいた人数は50人近く、そのうちの10人程はうまく飛べずに足枷に捕まってしまった。
「足枷が取れるまで魔力を出さないで! 取れたら一度足枷から離れて…え?」
下に残った魔法使い達にそう訴えかけたが、森の様子が何だかおかしい。動物達が奥へ奥へと逃げていく。
「動物達と一緒に逃げて! 何かこっちに向かっている!」
ざわめく森と忍び寄る何かに、私は顔を真っ青にしてしまう。
そして、火蓋が切られた。
EstinzionE 冬桜 @huyusakura
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